<露天風呂>





モルドに到着した一行は、支度を整えて目的地に着いていた。
その名も、露天風呂。

「うわー、いいところですね」
「でしょ? 一種の穴場に近いね」

じゃ、入ろっか。
クロスが指差したその先は脱衣所。
中はもちろん男湯と女湯に分かれている。

「……嫌だ」
ボソッとジョウイが呟き、セノの手を取ってくるりと方向転換をする。
「ジョウイ?」
「だって風呂だよセノ、その……恥ずかしいだろう?」
「なにが?」

真顔で返すセノにジョウイは、はあっと溜息を吐いた。
「だから」
「アホあんた、男湯だよ?」
「……うるさい、僕のセノの体を他の奴に見せてたまるか」
「タオル巻けば平気でしょ」
シグールにそう言われて、ジョウイは渋々承諾した。

本当は、温泉に入る時はタオル巻いちゃいけませんけどね。



久しぶりーと嬉しそうなシグールは、ささっと体を洗ってからわしゃわしゃと髪を洗い始める。
「テッドお湯ー」
「あらかじめ汲んどけよ」
ったく、と言いつつテッドは容赦なく桶に汲んだ湯をシグールへぶっかけた。
「うわっ!」

「じゃあお先にー」
いち早く洗い終えたのはセノだった。
言って腰に巻いたタオルを……。
「ちょ、ちょっとまったセノ! それっ」
「なに言ってるのジョウイ、温泉に入る時はね、タオルは取らなきゃいけないんだよ?」
だって皆で入るんだから当然でしょ、と言われてジョウイはテッドとふざけているシグールを睨んだ。
「騙したな……」
「僕は温泉の中でタオルをずっとつけていられるなんて一言も言ってない」

振り向いてしれっと言ったシグールは、ぱさりと腰に巻いていたタオルを取って、そのままあっさりと湯船に沈む。
後に続いたセノと、すぐにクロスとルックも入ってきた。
そうして、取り残されたのは落ち込むジョウイと苦笑いをするテッドで。
そして、大抵の問題を引き起こす問題児が、綺麗な笑みを浮かべて言った。
「……セノは小さいね?」
「なっ……なに突然言い出すのっシグールさん!!」
「小さくて可愛いなーって」
「あんたそれ以上言うと後ろの金髪夜叉が撲殺にくるよ」

よろりらと立ち上がったジョウイが、据わった目で何かを片手にふらっと近づいてくる。
そこに立ち上がったクロスが、えいとばかりにジョウイの腰に巻いてあった布を取った。
「ふーむ……ちょっと僕より大きいね」
「……クロス、さん?」
まじまじと見つめられて、ジョウイは口を挟む機会はおろか、照れるタイミングすら逃した。
「楽しい?」
絶対零度の口調でルックに言われて、クロスは笑う。
「るっくんも小さいねー?」
「……煩い、紋章宿した年齢考えな」

指折りシグールが数えだし、ああと手を打つ。
「そのカウントでいくと一番はジョウイだね?」
「……まあ」
「でもテッドとはどうかな?」
「……シグール」
今まで呆れ返ってコメントも挟めなかったテッドが、ようやっと湯船に近づいてくる。
何気なくタオルを取ろうとして、全員の視線がそこに集まっているのに気付いた。 
「……お前らなぁ……」
「御開帳してテッド」
「……うらあっ」

自棄になって叫んでばっとタオルを取ったテッドは、その場に立って湯船の中の五名を見下ろす。
ちらと横の恋人に目を走らせ、秒速で視線を逸らしたのは湯船に浸かったせいで白い肌がほんのり薄紅色の魔法使いだった。
また、金髪青年も即座に視線を逸らし何事もなかったかのように、湯船に肩まで浸かる。
残り三名は湯船に入るテッドをマジマジと見ていた。
「ジョウイより大きい……」
「でしょう?」
「テッド、予想を裏切らない君が好きだよ」
「……どういう意味だクロス……」

しかしまあこれで一応全員について言及が終わったわけで、さしものシグールも大人しく温泉遊びにいそしむだろうと思ったテッドは正しく、シグールは迷う事なくぼうっと視線を 明後日の方向へ向けているジョウイへ見事な水鉄砲を放った。
「あっはっは」
「……いい度胸だ」
「ジョウイー」
「ってうわあセノ立ち上がらないでせめて湯船の中に身を沈めててだって君の可愛らしいのが見え」

ガゴン

「ごめんなさい、煩いのが」
「……うん」
聞くまい。
先ほどの鈍い音はいったいジョウイの頭に何をぶつけたから出てきたのか、は一生聞くまい。
その場にいた四名はセノの片手にある見慣れた武器を見て思う。


ぶくぶくと泡を吐きつつジョウイは底へ沈んでいった。


 

 







ジョウイとセノ編は、R16程度の性的描写がありますので希望者のみどうぞ




 

 





貸切だなと呟いたテッドが、シグールに早くしろと声をかけて入る。
湯気は濃いが客はいなくて、垣間見える夜空には星が輝いている。
……こういうのが、いい。
「テッド、なんでもう一回入るなんて言い出すの?」
「温泉ってのはなー、何度も入ってもいいものなんだ」
「……ジジ臭い」
「ジジ臭い言うな三十路過ぎ」
シグールの言葉に笑って返して、テッドは身体を軽く流すと湯船に浸かる。

「さっきジョウイとセノが入ってたよね」
「そうだったか?」
そうだよ、とシグールは返してうーんと風呂の中で手足を伸ばす。
なんだかんだで彼も風呂は好きなので、何度入るのも支障はない。
「結構長かったよね、セノ顔が赤かったよ」
「……待て」
ぴたりと動きを止めて、テッドが呟く。
シグールが、え、何? と聞き返して、彼は恐る恐る口を開いた。
「……ジョウイが、セノと、二人っきりで長風呂?」
「じゃないの? 今も僕達以外いないしね?」

ぎ、ぎ、ぎ、と音が聞こえそうなほどぎこちなくシグールから視線を逸らしたテッドは、立ち上がろうとするが、腕をぐいとつかまれ阻まれる。
「もう出るの?」
「いや――まあ、うん」
だって、よく考えればあの二人がおとなしく風呂に入ってるわけない。
長風呂だったのは――つまり、そんな行為をしていたわけではなかったのだと誰がいえよう、誰もいえまい。
まさか風呂の中でするほど理性が飛んでいたとは……思いたくないが……浸かっちゃったし……。
「お前も上がれシグール」
「やだ」
「いや、だから――上がっとけ、だって、その」
「あの二人がヤってただろうから嫌だ? テッドってばエッチ、想像した?」
「……お前」

分かっててフツーに風呂に入ってたんか。
絶句したテッドに、にこにことシグールは風呂の中から笑いかけた。
「僕たちもする?」

 瞬間的に全身の血が引いたのは後にも先にもあれっきりだと、テッドは回想する。



「あーっはっはっはっは、テッド、その顔っ」
「……シ、グール」
パチパチと手を打って笑い転げるシグールはずいぶんとご機嫌だ。
気分にまかせて辺りの人間を手当たりしだいにいじって遊ぶこの悪魔(命名byジョウイ)の、本日のターゲットはテッドだった。
「え、でも僕が下って嫌だよ、痛いから」
「……シグール」
「でもテッドが下なのも変だよね、じゃあやっぱり僕?」
「……頼むから」
がっくりと湯船の中に項垂れたテッドが回復したのは、反応がない彼に飽きたシグールが、冷水を頭からぶっかけたからだった。

 

 

 



***
……テッドかわいそうに。


露天風呂:野外にある風呂の事。どうしてあんなに気持ちいいのだろう。