<All good things come to an end>





のどかなのどかな昼下がり。

さまざまな意味で満身創痍のコンラートも回復し、通常業務を――とは言えども「ユーリの護衛」であるのだが――をこなせるようになっていた。

「ねーコンラート」
「何ですか」
「釣りできるところない?」
その言葉にユーリの横顔がひくつく。

どーしたの? とセノが問うと、いやじつは……と苦笑した。
「ほら、俺あっちの世界との行き来ってとにかく水関連でさー……」
水辺には、帰りたい時と行きたい時以外はあんまり近づきたくないというか。
そう呟いたユーリに、ああそうと返してテッドはコンラートの肩に手を置いた。
「コンラート」
「……何です、か」

「案内しろ」
「はい……」
なぜとは言わないが、彼らに対して拒否権のないコンラートは、引きつった笑みしか返せなかった。










広がった湖を見て、セノとシグールが喜声を上げる。
「うわーっ、おっきー!」
「魚釣れそうだねー」
「はい!」
るんるんる〜んと鼻歌を歌いながら釣り針に餌をつけ、ぽしゃんと湖のふちに腰掛け釣りを開始する。
「……で、なんでルックまできてるんだ」
「僕の勝手だ」
「僕が行くから付いてきてくれたんだよねーv」
「…………」

クロスの言葉にふいと視線をそむけ、ルックは草むらに座ったまま湖面を見やる。
きらきらと太陽光を反射して輝く湖は、透明とは程遠い。
「ユーリもこればよかったのに……」
呟いたセノが唇を尖らせる。
ユーリは執務があるとグウェンダルが渋い顔で言ったのだ。
となればヴォルフラムが来ることもなく、ヨザックはまたも仕事が入ったらしいし。

「……なあクロスよ」
「なにテッド」
釣りをすることも無く、釣りメンバーを眺めていたテッドが隣に座るクロスに呟く。
「コンラートが戻った」
「箱も戻ったねえ」
「そろそろあれじゃねーか、俺の気のせいか?」
「うん、そろそろだろうね、だと思って書置きはしてきたんだけど」

「……何、どういうこと?」
ぽつりつぶやいたルックに、あのねとクロスが説明する。
「僕達、もうこの世界でやらなきゃいけないことやっちゃった気がしない?」
「ああ……そういうこと」
そうだね、と言ってルックは立ち上がる。

服の汚れをはらって、湖のそばで釣りをしながらなんやかんや騒ぐ三人とコンラートの方へ歩いていく。
顔を見合わせて、クロスとテッドは肩を竦めるとその後に続く。

「湖、濁ってるね」
「え――あ、ああ」
いきなり隣に立ったルックにそう言われて、コンラートは驚いた。
彼が自分から声をかけてくるのは珍しい。
「濁ってるのは、魚が必要とする栄養分が含まれてるからさ」
「は、はあ――・・・」

岸辺に膝をついて、ルックはその手を水の中に差し入れる。
何してるの? とセノが聞こうとした瞬間、うわっと彼の隣にいたジョウイが水の中に引きずり込まれた。

「ジョウイ!?」
「なっ、なんだこれっ――がぼげぶっ」
「ああ、やっぱり」
水を飲んでアップアップしているジョウイを見てテッドが笑って、コンラートに軽く片手を挙げる。
「もう会えなくても、忘れねーって伝えておいてくれよな」
そう言って彼は水の中に飛び込む。
ジョウイが引っ張られた水の先に、渦が生じていた。

「ユーリとみんなによろしく、じゃあね!」
釣竿を置いて、立ち上がったシグールが満面の笑みを向けて、テッドの後を追った。
「すごく楽しかったです! ありがとうございます!」
にこりとそういったセノも、水の中に身を躍らせる。

「濁ってる水も、悪いばっかりじゃないさ」
そう言ったルックをクロスが抱きかかえた。
「だから、君はユーリについていてあげてね?」
そう言うと笑って、クロスはルックと共に水の中へと沈んだ。



最後に見えたのは水面に浮かんだクロスの赤いバンダナ。
あっという間に凪いだ水面を見て、コンラートは苦笑いのようなものを口元に貼り付けていた。

彼らは帰っていったのだろう、もと来たところへ。
もう二度と、会えないような気がするけれど。


「――元気で」


そして、出会えたことに感謝しよう。
異世界から来た奇妙な客人に。


 


 

 


***
……ぜーはーぜー。
無理やり終わらせて見ました○マ編。
ほんとは脇話がいくらでも入りますがとりあえず終了です○マ編。

最後ぐらい落とさずにがんばりましたそしてルック媚。


All good things come to an end:どんな良いことにも終わりがある