<The bird is flown>
ギルビット港に辿り着くと、一足先に着いていたユーリ達が出迎えてくれた。
「久し振りって感じだなぁ」
船を降りてジョウイは思い切り伸びをする。
何しろギルビット港まで棺桶に入りっぱなしだったのだから当然だろう。
「今晩くらいはゆっくり……」
「そのまま帰るよ」
「Σ( ̄□ ̄|||)」
箱が国にあるので早く帰るに越した事はないのだ。
そして、同時に国にいるある人物の処理も待っている。
「楽しみだねぇテッド」
「そうだな」
あははははと黒い笑いをあげている二人の周りには毒々しい空気が漂っていた。
一方こちらでは感動の別れのシーン展開中。
「本当に……ありがとう」
目元に涙を湛えながら、フリンは微笑んで手を差し出した。
ユーリがそれに応えて元気よく振る。
「フリンさん、またね!」
「ええ、ユーリも元気で。皆さんも」
次に会う時は、以前よりも活気ある国にしてみせるわ。
だから必ずまた来てね、と言う彼女に頷いて、一行は船に乗り込む。
船と岸とを繋ぐ板を渡りながら、ユーリは上機嫌だった。
箱も取り戻したし、これからようやく眞魔国に戻る事もできる。
「ユーリ、あまりはしゃぐな」
「渋谷危ないよ」
リズムよく歩いていたユーリの足元が突然傾いた。
足を踏み外したユーリの手は村田の服の裾を掴み、そのまま海へドボン。
水中に消える瞬間、またかと叫ぶ声が聞こえた気がした。
「ユーリ!」
ヴォルフラムの声とほとんど同時にヨザックが海に飛び込み、すぐに一人で上がってきた。
その顔に浮かんでいるのは苦笑。
「ユーリは?」
「どうやらお帰りになったらしいですね」
「凄いタイミング……」
揺れる水面を見ながら、ジョウイが苦笑気味に呟いた。
これで彼が逃れる術はなくなったらしい。
カロリアからノンストップで眞魔国に着いたのは、それから数日後の事だった。
港に下りるとすでに出迎えの馬車が待っていた。
そしてその傍らに立っていたのはクロスとルック、そしてグレタだった。
「おかえりなさーい」
船から降りてきたセノに抱きついてグレタが笑う。
それを抱きとめて微笑むセノといい、癒される組み合わせである。
地面に降ろしてもらった彼女はそわそわと視線を辺りに向けて、ユーリはと尋ねる。
向こうの世界に帰ってしまったと言うと、ユーリの帰りを待っていた彼女が寂しがるのは目に見えていたけれど、他に言いようがない。
「ユーリはね、向こうに帰っちゃったんだって」
「……帰っちゃった、の?」
大きな瞳を歪めて俯いてしまったグレタの頭を、船酔いからよろめきながら下船してきたヴォルフラムが撫でる。
「大丈夫だ、すぐに戻ってくる」
「……うん、そうだよね」
グレタいい子で待ってる。
ぐっと目元を擦って見上げてくるグレタを、ヴォルフラムは愛しそうに眺めた。
そしてこちらでは。
「出迎えご苦労様」
「思ったより早かったね」
「カロリアから直行できたからな」
テッドの言葉にクロス苦笑して、首を左右に巡らせて小首を傾げた。
「ユーリは?」
「帰った」
タイミング的には良かったけどな。
ユーリがいたら、有耶無耶にされて終わってしまいそうだったから。
落とし前をつけるには、できるならいない方が都合はいい。
「で、箱の中身はどこにいるの?」
僕としては出迎えに来るかなとも思ってたんだけど。
テッドにのしかかりつつ言うシグールに、クロスはルックに視線を向ける。
そういえば、どこに送ったか知らなかった。
「ルック、そろそろ迎えに行ってくれる?」
「あの部屋でいい?」
「うん」
首肯して消えたルックを確認して、クロスはさぁ行こうかと促した。
目指すは血盟城。
***
対照関係が酷いです。
ユーリはまだ何にも知りません。
ヨザック他もおそらく分かっちゃいませんが。
The bird is flown:後の祭り