<No man fouls his hands in his own business>





がたごとがたごと馬車は行く。
闇に紛れて鬼が行く。

……現在の概要はこんな感じだ。



ノーマン=ギルビットの葬式をあげるべく自国に戻る――というのは建前で、要は何か起こる前にとっとと逃げ出そうというのが本音である。
何かとは、今回のカロリア優勝を快く思っていない者達がカロリアの独立を阻止しようとする事だ。
つまりは『自国に戻る前に殺っちまえ』である。

十中八九やってくるのは分かっていたので、できるだけ速やかに城を出てここまでは順調に走ってこれた。
しかしそろそろ追いつかれるだろう。
遠くから迫ってくる気配がちらほらとある。

荷台から顔を覗かせてシグールは左に聳え立つ崖を見上げる。
これだと崖から襲ってくるという事も考えられる。
反対側は逃げる事はできるが、かなり深い森なので遠慮したい。

「シグール、そろそろか?」
「んー……あと十分くらいかな」
「じゃあ配置ついとけ」
「ん」
そう言うと、よっこらせとテッドは御者台まで移動する。
馬を操るヨザックの隣を陣取って、視線を走らせた。
「そろそろっすかねぇ」
「そうだな」
「坊ちゃん達、無事に港まで行けましたかね」
「俺達の後に出発したしな。大丈夫だろ」
だといいんですけど、とヨザックは軽く笑う。

この馬車はいわば囮だ。
ユーリはギーゼラやダカスコス、ヴォルフラム、村田と共に別ルートで港に向かってもらっている。
上手く行けば港で合流できるがそれはあまり期待していない。
とにかくこちらに注意を惹き付けられればいいのだ。

何よりユーリがいなければ、手加減をする必要もない。


「その馬車止まれ!」
背後から鋭い声がかかった。
そんなもので止まる馬鹿はいない。

ヨザックが馬に鞭を入れ、五人を乗せた馬車は速度をあげた。
もちろん単独で乗っている追っ手の方が速いため徐々に距離は狭まってきている。
「放てっ」
掛け声と共に飛んでくる矢を数本打ち払って、後方に控えていたシグールは暗い笑みを浮かべた。
「……『冥府』」
「うぉい」
いきなりそれかよ、とテッドは苦笑いする。
「ヨザック最大速度でよろしく」
「はーい、振り落とされないようにしてくださいねー」
その言葉と共に更に速度が増す。
気を抜けば投げ出されそうな空気抵抗を受けながら立ち上がり、テッドは崖の上を見た。
「『震える大地』」
詠唱と共に馬車の上の崖が崩れ落ちる。
五人の乗った馬車が通ったすぐ後ろに土砂が積もって退路を塞いでしまい、その向こうで何やら馬が嘶く声が聞こえた。


「よし」
「……怖いわぁ」
これで当面は平気だろと笑顔でのたまうテッドに、やはり彼も後ろの彼らと同じ分類に入るのだと再認識したヨザックだった。




 

 



***
助けに入ってくれるアーダーベルトの出番はなし。
彼らに助けなぞいりませんでした……。

No man fouls his hands in his own business:芸は道によって堅し