<No job is noble or humble>





「しっかりしてあなた、ノーマン! 嗚呼どうか、どうか神よ、私の夫をお救いください!」

それは、クロスと分かれたユーリが、パーティ会場へようやっと戻ってきた後だった。
フリンはプラチナブロンドの髪を振り乱し、ノーマン=ギルビットの仮面をつけた男が運ばれてゆく担架にすがり付いている。

「……はい?」
わけがわからず唖然としているユーリの前を、苦しみもがくノーマンが運ばれてゆく。
……てことは、俺って何?
ついさっきまでノーマンの振りをしてテンカブを戦い抜いたユーリの心境は、ご察しのとおりである。
「あ。ユーリ」
にこにこと笑顔で声をかけてきたセノに、ユーリは問いかける。
「どーなってんの?」
「え? ノーマンさんがね、倒れたんだよ」
「……ノーマンって俺じゃなかったっけ?」
「そうだったっけ?」
「? ……じゃない! いったいどういうっ」

「あ、えーっとね、ノーマンさん決勝で頑張ったから、その傷が悪化して倒れちゃったんだって」
「……なあ、セノ」
気安い友人の肩を掴んで、ユーリは言った。
「決勝に出たのって俺だよな?」
「うん、そーだね」
「ってことは、決勝で頑張ったノーマンさんって、俺だよな」
「そうだね……あれ?」
「おかしいな」
「おかしいねぇ」
首を傾げる二名だったが、はっとユーリは身を翻してノーマンが運ばれていった部屋へと走りこむ。

「フリンっ、これはいったいどういう……」
「しーっ」
部屋にいたフリン、村田、ヨザック、ヴォルフラムにそう言われ、ユーリとそれを追ってきたセノは、担架の上で苦しみもがくノーマンを……
「うぐぐぐぐぐ」
「! ジョウイ!」
くぐもった声に、セノが慌てて担架横にしゃがみこむ。
どうやら声の主はジョウイらしい。
「どうしたのジョウイ、どっか痛いの!? あれ、でも倒れたのはノーマンさんだって」
「大丈夫だよセノ。ジョウイはどこも悪くない。ほら、ノーマンさん、本当は死んじゃってるだろ?」
セノの肩に手をかけた村田に言われて、セノはこっくりと頷いた。
「だからね、ばれないうちにお葬式出しておかないと」
このままユーリがずっと代役を務めるわけにも、ましてフリンがまた代役を続けるのも無理だ。
どうせ葬式をするなら、異国の方がごまかしも効くし都合もいい。
「あ、なるほど」
「それで代役にジョウイがぴったりだね★って話にね」
「わかりました」

「というわけで心置きなく寝ててもらわないとねv」
「むぐぐぐ〜っ!!」

はい、とヨザックが取り出した薬らしきものを渡され、村田はジョウイに近づく。
薬を飲ませるために仮面を取り、猿轡を離すと、ぷはっと酸素を吸ってジョウイが怒鳴った。
「僕を! なんだと! 思ってんだ!」
「死体が喋っちゃダメだよ」
「黙ってろジョウイ」
「それともゾンビがいいんですか?」
「……ヨザックさんまで……」
あんまりだ、と唯一の助けに縋ったジョウイだったが、村田にこそこそと耳打ちされたセノは、笑顔で言った。
「ジョウイは今のところ何の役にもたってないから、せめて死体の役くらいにはたたないと?」
「Σ( ̄□ ̄|||)」

「……薬いらなかったね」
「ジョ、ジョウイ……平気なのか?」
陛下はお優しいとヨザックは苦笑する。
セノの言葉が相当ショックだったのか、ジョウイ君は気絶中。
「?? ジョウイー?」
村田から耳打ちされた言葉を何も考えずに言ったので、何がどうなったかわからずゆさゆさと動かなくなったジョウイを揺さぶっていたセノに、村田は笑んで声をかける。
「きっと彼は疲れたんだ、寝かせといてあげようよ」
「うん」


……大賢者村田健。
近似値、限りなくシグール=マクドール。




 

 


***
シグールの代打は村田で十二分。
哀れジョウイ。

No job is noble or humble:職業に貴賎は無い