<Too much courtesy becomes a bother>





ユーリの縋りつくような視線から逃れるように、城へ戻ろうとした帰り道、首筋に衝撃が走った――まではたしか記憶にあるような。
ふいと目を開けたコンラートの前に、にこやか笑顔のテッドがいた。

「て……ご、ごほっ」
「ああ、強く引っ張りすぎて一瞬意識抜けたろ」
「な、なにを……」
咳き込んで喉元を押さえるコンラート。
その首元はうっすらと赤い。
後ろから襟首をつかまれ、渾身の力で引っ張り込まれれば誰だってそうなるし、そのまま庭の奥の森の中まで引きずられれば気も失う。
本当は「何を」ではなく「なんで」なのだが、さすがに少々パニックかもしれないコンラート(推定120歳)

「さてコンラート」
先程と変わらない笑顔で、座らせているコンラートの前に膝をついてテッドは言う。
因みに彼の手は後ろでシグールが抑えていた。
テッドの後ろにぼんやり闇にまぎれて立っているのはルックだろう。

「何を思ってユーリから離れたのか俺に納得行くように話せ」
「……ここはもともと俺の土地だか」
「コンラート」
笑顔を崩さずテッドは右手の手袋を取ると、手の甲に浮かび上がる紋章を彼の目の前にかざす。
「この紋章の名を生と死の紋章、或いはソウルイーター」
ソウルイーター。
その特性は全くコンラートは説明されていない。
されていないが、不幸なことに彼には以前ユーリの魂を地球に運んだ際身につけた英語の素地があった。

ソウル=魂
イーター=喰らう者

ソウルイーター=魂を喰らう者

……もしや。

「お望みならこの中へ無期限ステキ地獄体験トリップ、今ならなんと強制的」
言ってる事が無茶苦茶だが、言いたい事はよくわかる。
――吐け、或いは喰う。



「……あなたたちには関係ない」
「ほーお? 関係ない? こっれだけ巻き込まれて関係ないはいただけねーな?」
「…………」
それもそうだと思ったのか、コンラートは苦笑した。
この状況で笑える彼は相当大物である。
「……箱です」
「箱ぉ?」
「――初代眞魔王のご命令で、箱を、回収に」

「今晩中に眞魔国に向って出発するよ」
背後からのシグール言葉に、コンラートはえ、と呟いた。
「どういう……」
「だから、箱を盗み出して……まあばれるのは時間の問題だろうけど、その前に運ぼうと思ってルックが転移術で」

だから、もう箱の事はいいんじゃないの?
そう言われて、コンラートはくっくと笑う。
「あなた達は……」
「で?」

「箱が……国へ戻ったのなら、俺は――……」


どうしましょうかね。
そんな言葉を吐いたコンラートを、テッドが思い切り正面から殴り飛ばした。
「っ」
「シグール、やっちまえ」
「はーい」


げっすん


思い切り手近にあった石で殴られたコンラートは、きゅうと声も出さず気絶する。
さすがの武人も、これをされるとアウトだったらしい。
……なんて情景をノーコメントで眺めていたルックだったが、むしろなんで自分がここにいるのかわからない。
そろそろ箱を戻す準備はじめていいですか。


「よーし、見張りの兵士が来ないように見張っとけ」
テッドに言われてシグールとルックは視線をざっと左右に走らせる。
幸い、この一連の騒動は誰にも気づかれていないようだ。
がさごそと後ろで音がして、何やってるんだとルックがふと振り返ると、そこにコンラートが立っていた。
いくら武人って言ったって、あの大きさの石――寧ろ岩――で殴られたんだからもう蘇るなんてバケモノじゃあるまいし。
「テッド似合うー」
「……でかい……ま、何とかなるか」
「…………」
ぱちぱちと手をたたいて笑うシグールと、声を交す人影を見て納得した。
どうやら、テッドがコンラートの服を着たらしい。

……それでどーすんだ?

「よし、シグールは打ち合わせどおりにな。ルックはここでコンラート見張ってろ」
ちらと視線を横へずらすと、そこには下着のみで放置されているコンラートが。
……哀れだ。
「あと、タイミング合わせてあそこの城壁を切り裂いてくれ」
「何のタイミング」
指差された場所を振り仰いで、暗闇の中目を細めて問う。
ここまで来て「何する気」と聞くほどルックもバカではなかった。
たぶん、知らない方が幸せだと思う。
「シグールが外壁目指して雷落したら」
「……わかったよ」

好きにしなとある意味諦めに似た言葉をもらって、テッドはおーよと答えると、剣を腰に提げてさりげなく森の外へと出る。
「あんたは?」
「僕は魔王役〜」
よくよく月明かりの下で見れば、シグールの着ている服はいつもの赤ではなく、ユーリが着ていそうな黒――に近い灰色かもしれないが、これだけ暗いとよくわからない。
バンダナはどこ行ったと聞けば、笑顔でコンラートを指差される。
……あ、手を縛ってある。
「起きたらどーすんの」
「殴っといて」
「……はいはい」

「あ、テッドが建物の中に入ったら、あっちにあるバルコニーに僕を転移してね」
「どこまで僕をこき使うのさ……」
ぶつくさ言うルックに、シグールは営業用笑み其の1(主に宿星用)を見せる。
「ルック?」

つたない月明かりの下、確かにテッドが城の中に入る。
ルックは溜息を吐いて、詠唱を始めた。






***
好き放題開始。
これがやりたくて〇マを書こうと思ったと言っても過言ではない。

Too much courtesy becomes a bother:分別過ぐれば愚に返る