<History repeats itself>





三人目は、仮面を被った、まだ大人とはいえなさそうな体躯の人影。

「……テッド」
フリンを襲った刈ポニを彼自身のワイヤーでふんじばっていたシグールが、つんつんとテッドの服の裾を引っ張って舞台を指差す。
三人目の大シマロン代表の男は、高い背を白い軍服に包み、この地方によくある茶の髪を雪舞う風になびかせて、その穏やかな相貌はこれだけ離れていても分かる。


あの人は。



あの人は。




「なん、でっ」

ユーリ側から、人影が飛び出す。
雪積もる舞台の中央前で、転ぶ。
何を叫んでいるのかはわからなかったけど、アレはユーリだ。
そして、今彼の側に行ったのは。
大シマロンの、三人目の代表は。
ユーリの、対戦相手は。

「おい、まさか……」
「なんで、なんでコンラートが!!」
手すりを握り締めて叫んだシグールの手を、テッドは無言で引っ張る。
「テッドッ、なんで、なんでコンラートが!」
「俺の知ったことかっ!」
怒鳴り返して、テッドはジョウイを振り向いた。
「お前はフリンさんとここに」
「あ――ああ」
「こい、シグール」
「なんでテッド……なんで? ユーリは? ユーリはどうな……っ」

らしかぬシグールの取り乱しように、ジョウイは眉をしかめた。
彼のことだから、ふいと一言で切り捨てるか理由を言い当てるか、どちらかだと思ったのに。
コンラートの事は無論ジョウイだって驚いている、だがまだ現実感がない。
なぜシグールはそこまで……。

「なんで……なんで……なんで戦わなきゃいけないの、なんで……」
顔を歪めて、今にも泣き出しそうなシグールの肩を掴んで、テッドは揺さぶった。
「シグール、お前はユーリじゃない、コンラートはテオ様じゃない。落ち着け」
「…………」
「ったく、おいジョウイ」
「な、なん」
「シグールも置いてく、ここに残ってろ」
「テ、テッドは?」

「俺は箱をすりかえてくる、クロスがこの先で待ってるはずだし……ええと、お前名前は?」
「ダカスコスと言います」
「おし、じゃあダカスコス来い。ジョウイ、任せた」
じゃ、と言い捨てて箱を持ってテッドは去ってしまう。
ジョウイは混乱して、とりあえず視線を闘技場へと向けた。










「待て! その試合ちょっと待った!」
コンラートとユーリの対戦――コンラートは「手加減します」宣言と言う史上類を見ないものをしたが――が始まろうとした瞬間、声が響く。
声の主はどかどかと舞台中央に進んできて、こう言った。

「この勝負は勝ち抜き! 天下一武道会だったはずだな? だったら二戦目の勝利者は、そのまま三人目とやる権利があるってことだろ」

アーダルベルト。
元、魔族の男。
というか実際はフォンが苗字についたりする、りっぱな十貴族の一員……であった。
何を思ったか彼は魔族としての地位も名も捨て、人間の国をうろちょろしている。
そしてユーリを、というか魔族全般を憎んでいるらしい。

「その通り、勝者は引き続き次の対戦者と闘う権利を有する」
控えにいたヨザックとヴォルフラムと村田の横顔が硬直する。
コンラートなら、間違っても死にはしない、と思う。(負けるだろうが
だが、アーダルベルトは。
……危ない。

審判がそう言うが早いか、舞台の一部がせり上がりだす。
どうやら、空中で戦うらしい。
……悪趣味。

舞台に乗り損ねたコンラートは、慌てて手を伸ばすが審査員の一人に止められる。
何か叫んでいるのだろうが、ジョウイとシグールのいるここでは聞こえない。

「…………」
無言で舞台を見つめるシグールが、アーダルベルトが剣を構えると、身をこわばらせた。
「シ、グール?」
「……ねえジョウイ……る?」
「え?」
「雷鳴つけてる?」
「つけてるけ……いやだめだから!」

ぼそぼそと喋るシグールは見かけ恐ろしいが実体も非常に恐ろしい。
こうなると本気でぶちきれる寸前だ。

「!」
アーダルベルトがユーリへ剣先をつきつけるっ、だがユーリは間一髪で防いで見せた。
……二度目はなさそうだ。
だが二度目は危なげがかなりありながらもなんとか避けてみせ、ジョウイは冷や汗を拭う。
この距離で雷は――厳しそうだ。
「え!?」
そうこうしているうちに、なんだかユーリを見ている角度がおかしい。
違う、目がおかしいんじゃない、これは。
……舞台が回ってるよ。
……なんたる悪趣味な。


「ユーリっ!!」
観覧席から落ちそうなほどに身を乗り出して、シグールが絶叫する。
アーダルベルトの剣が。ユーリの喉元に突きつけられていた。
「あいつっ……許さないっ」
「おい!」
右手を上げかけたシグールが何をしているか悟って、ジョウイは慌てて背後から彼を押さえ込む。
「バカはよせっ」
「……はなせ」
「ユーリまで巻き込むつもりかっ!!」
「…………」
ジョウイの叱咤に、シグールはしぶしぶ片手を下ろす。
だが、すぐに左手を掲げた。
それについては、ジョウイはなんらコメントせず、とっさにフリンを抱えて柱の側へ身を寄せた。

「炎の壁!」



闘技場を、豪雪が襲った。


それは、ユーリの聞こえない叫び。





「お前の魔術よりも俺の剣がお前の喉をつく方が先だろうよ!」
魔族ではなくなったアーダルベルトは、法術をふるい、ユーリの豪雪の魔術に抵抗する。
「さあ、魔王。早く試してみろ。その指で、雪玉でもなんでもぶつけてみせろ」

ユーリの魔術が作動し

アーダルベルトが踏み込んだ瞬間だった


本当にその刹那、荒れ狂う雪の中舞台の頂上へと、這い上がったコンラートは叫んだ。

「やめろアーダルベルト!」
雪にはためく髪は昔のままなのに。
彼の着ている服の色が違う。
「ユーリの魂はジュリアのものだ!」

 


 




***
む……無理やりまとめた……。
この周辺をユーリ視点で書くのは無理ですorz

History repeats itself:歴史は繰り返す