<Necessity knows no law>



とうとう追い込み残り……直線と曲線の混合物、推定数万歩ぐらい。

な、所まできていたテンカブ速度決戦だったが、馬を操っていたジョウイが後ろにいる遠眼鏡要らずのシグールに尋ねた。
「敵は?」
「ん〜……後ろにマッチョ軍団はっけーん」
「……うげ」

何を想像したのかは知らないが、ルックが顔をしかめる。
前を走るユーリのチームは、速度は落ちていないが後ろのマッチョの追い上げがなんか凄まじいんですけど。

「降りしきる雪の中、十二人の怒れる筋肉男達が、血管浮かせて突っ走ってくる。真赤に染まった半裸の肉体からはうっすらと湯気が立ち上っていた」
「やめろ!!」
鬱陶しいシグールの中継をジョウイは遮ると、馬の手綱を握る手に力をこめる。
彼らの仕事はここまで、あとはユーリ達を優勝させるのみ。
「僕達は減速できるが……あっちはどうするんだ、前に割り込むか?」
「そんなばればれだろ。というわけではいルック」
「……何」
揺れに揺れる馬車(?)だったが、あんまりに揺れすぎるので酔っている間もない。
蒼白になってはいたが、まともであったルックにシグールは向き直ってにっこり笑う。

「局地的旋風起こしてね」
「……そっちの方がばればれじゃ」

ツッコミを一応は入れるは入れたが、ルックは揺れる中立ち上がると、呪文詠唱を始める。
すぐに彼らの前方からびゅうびゅうと向かい風が吹き付けてきた。
……今思ったのだが、馬やその他の動物ならともかく、人間相手に風って結構意地悪?

たちまち減速する二グループを引き離して、ユーリ達のチームが先頭切ってゴールへと向かってゆく。
……向かってゆくが……。

「・・・生卵」
「腐ったトマト」
「熟れたオレンジ」
「海草」

以上、ユーリたちが投げつけられていたもの。

「優勝しなくてよかったね」
「……まったくだ」

そして先頭チームが門に入ると、問答無用でそこは閉じられる。
鉄格子の向こう側で、馬車から降りたシグールが伸びをした。
「いやぁ〜あ、疲れたねー」
「……あんたは何をした」
ずーっと御者台にいたジョウイが馬の首を叩いてねぎらいながら呟くと、にこりと微笑んで振り向く。
「テッドと交信」
「……ソウルイーターで?」
「そうそう」
「……へぇ」
「な、わけないだろ」
何納得しかけてんのさと、後ろからルックがぺしりとジョウイを叩く。
「いや、奴ならありかと」
「……不気味なこと言うな」
二位のチームは二名が顔を青くしたまま、脱落となった。










「というわけでお仕事しゅうりょ〜」
「……と、思ったか?」
「え」
別働隊のセノ等と合流して、テッドに笑顔で報告をしたシグールに、いや〜な笑みが向けられる。

「会場の見回りだ」
「なんでー!?」

とっとと行くぞと、テッドはシグールとジョウイの腕を掴んで立ち上がる。
なんで僕も……とトホホ状態のジョウイはさておいて、残りのメンバーは対戦を見ることしかする事がないのだが。

「ユーリ側の勝ちに一口」
「途中でユーリが魔法使って無理矢理勝つに一口」
「大シマロン側にコンラートなんていると面白いからそれで一口」
にこり笑顔で言ったクロスに、ルックが溜息交じりに答えた。
「……そんな賭け筋ないから」
「じゃあユーリチーム……ああ、カロリアチームで一口」
「じゃあカロリアチーム三口ですねー買ってきまーす」


どうやら賭けに乗るらしい。

 


 




***
……なんでこんな短いシーンで一話書こうと決定したのか謎。
軍資金が実は乏しいです。

Necessity knows no law:必要の前に法なし