<Pull chestnuts out of fire>
競技用の道から大分離れた所には、観客や荷物運搬用の道が通っている。
雪もきちんと脇によけてあり馬車も貸し出してくれたので、ギーゼラ達と共にクロス達も便乗していた。
さすがに宿はないので馬車の外に火をおこして暖を取りつつ寝支度を整える。
白い息を吐きながら夜空を見上げ、今頃競技中の彼らも寝ているのだろうかと思いを馳せながら、クロスは毛布を肩までたぐりよせた。
先ほどから雪が降り始めてきて、ぐっと寒くなった。
この調子だと、明日は難儀するかもしれない。
ヨザックは今頃ぶつぶつ言いながらも見張りをしているんだろう。
ジョウイかもしれないが。
「お疲れ様です」
交代しましょうか、とギーゼラが馬車から降りて声をかけてきた。
それに笑顔で首を振るが、彼女は構わずクロスの正面に腰を下ろす。
しばらく馬車に戻る様子はなかったので、茶を振舞う事にした。
鍋に水を入れて火にかける。
もう少し火の近くに座るよう促して、クロスは尋ねる。
「眠れないんですか?」
「なんだか目が冴えてしまって」
陛下が大変な思いをされているのに、自分はこんな所にいていいのかなって。
「ユーリ自身が決めた事なんだから、気にすることはないんじゃないですか?」
大変ですよね、と言うと苦笑で返された。
それが陛下のいいところですから。
無鉄砲なきらいがありますけどねけどね。
それはまぁ……苦労なされるのは主にヨザックさんやコンラートさんですから。
そこまで言って、ギーゼラは顔を曇らせた。
その様子を見てクロスは僅かに目を細める。
クロス達はテッドから聞いて知っているが、彼女達はコンラートがあの騒動の後も生存している事を知らない。
知らせないのはその方がいいという判断からだが、何より彼がまだ生きているか確証はないのだ。
だから彼女達は、コンラートが死んだと思って話している。
その中に、一抹の希望を託して。
涌いたお湯にお茶の葉のパックを入れて即席の紅茶のようなものを作る。
差し出したそれにギーゼラは笑顔を作ると礼を言って受け取った。
クロスも自分の分を入れて一口啜る。
冷え切った体の中心が暖まってく感覚。
冷え切った夜の空気の中、焚火の爆ぜる音だけが響く。
互いに何も言葉を発する事なく向かい合って座っていたが、やがてギーゼラがぽつりと呟いた。
「どうして、ここまでやってくれるんですか?」
「え?」
「異世界からきた貴方達が、どうしてこんなに親身になって助けてくれるんですか?」
「……親身、ってわけでもないんですけどね」
心底不思議そうに訊かれて、クロスは苦笑して頬を掻く。
事実、ユーリ達を助けようと思ってここにいるわけではない。
セノとジョウイくらいは少しは思っているかもしれないが。
こちらに来てからの事自体ほとんどが成り行きのようなものだ。
今回の事も元々はテッドがコンラートを見つけたからだが、これもすでに他のメンバーの念頭にはないだろう。
シグールに至っては、「楽しそうだから」とか「暇だから」とか返されそうだ。
想像して笑いを零すと、ギーゼラに怪訝そうな顔をされた。
「乗りかかった船みたいなもの……かな」
あのまま城に残っていても、ばたばたしていてゆっくりできなかったろうし。
……結局、お人よしなメンバーが放っておけないのだ。
口元に笑みを浮かべてクロスはギーゼラを見る。
「それにほら、一宿一飯の恩は返さないと」
ギーゼラはきょとんと目を瞬かせて、それから噴き出した。
「一宿どころじゃないじゃないですか」
「だからその分だけ働かないと」
「お前ら何笑ってんだ……」
「あ、テッド起きたの?」
「起きないでか」
随分楽しそうだなぁおい。
半眼のまま呟いて、毛布を被ったままテッドも降りてくる。
笑いながら自分の分のカップを差し出すと、冷めかけたそれを一気に飲み干して、手を払った。
「ほら、見張り替わってやるからお前も寝とけ」
「テッド君やさしーv」
言ってろ、とカップで軽く叩かれた。
「ギーゼラさんも寝た方がいいよ」
「ええ、じゃあお言葉に甘えて」
「寝れそう?」
「はい」
笑って、おやすみなさいと馬車に戻っていったギーゼラを見て、テッドはクロスを見下ろす。
「何話してたんだ」
「……猫の恩返し的な話?」
「なんだそりゃ」
いいから寝ろ、と溜息混じりに言われて、おやすみなさーいとクロスも馬車に乗り込んだ。
もちろん、夜空に瞬く星に向かっておやすみを言うのも忘れずに。
***
なんで6人組は加担してるんでしょうね、面倒そうなのに。
たぶん理由は色々あるんでしょうが楽しんでるってのが大多数な気も。
Pull chestnuts out of fire:火中の栗を拾う