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「いやぁ……暇だねぇ」
「ホントだねぇ」

暇なら手伝え! と見張り番の二名に怒鳴られそうな会話を交わしつつ、シグールと村田はカップ片手に和んでいた。
和んで……は語弊がある。
厳密に言うと、二人以外の人間(+羊)は恐ろしくて寝た振りをしていた或いはとっとと寝てしまった、が正しい。


「ところでさぁムラタケン」
「なんだいシグール=マクドール」
「君ってつまるところ何なわけ?」
「ぶっちゃけ四千年ぐらいの輪廻転生記憶を持ってる大賢者様だけど、君こそ何なわけ?」

漆黒の目に見上げられて、シグールは微笑む。
因みに彼の腰から提がっているのは酒瓶なのだが、どこの飲んだくれ親父ですか? というツッコミは控えておく。
「僕はねー……略歴だめ?」
「却下かなー」
「六大将軍の嫡男で十五の時に親友に因縁たっぷり紋章を継承され、解放軍軍主として立って、一悶着終わった後は隠遁生活を送っていた、とってもお茶目なたしか三十八歳」
「解放軍軍主とはそれまた大変だったねー」
「刺激的な人生だったよ、二度とごめんだけど」

「うーん、軍主ねー……一回くらいやったかなー、あれは彼方のインディアで」
がりがりと頭をかきながら唸る村田の隣にシグールは腰を下ろす。
「豊富な人生経験のようで羨ましいよ」
「いやいや、君みたいに濃厚じゃない分、量がないとね。で、他の五人は?」
にっこり笑顔の応酬をしているが、はっきり言って、とっても、こわぁい。
「本人に聞けばいいじゃないか」
「セノは会話にならなかったし、ジョウイとクロスとテッドには笑顔で逃げられた」
「ルックは?」
「向う脛に蹴りを入れられた」
涼やかな顔でそう言った村田をシグールはまじまじと見てしまう。
ルックに蹴り。
何言ったんだこいつ。

「僕はただ「そこの綺麗なお嬢さん」って声をかけただけなのになぁ」
「あっはっは、ルックは女の子じゃないからねたぶん一応」
「あの顔で男なんて詐欺だよー、人類の宝の持ち腐れだ」
「あの性格で女だと玉に傷どころか玉真っ二つだけどね」

あっはっはっは。
笑い声が響く。
響くが、念を押しておく。
現在テンカブ真っ最中、おまけにあたりは漆黒の暗闇。
本来ならメェメェンモンモ煩いはずの羊達は、イビキ一つかけていない。

「それにしてもさぁ、ユーリはもうちょっと何とかしておいてよ」
「アレでいいじゃないか、何が不満?」
「敵にもほいほいついてくとことか。長生きしないよあれ」
「ユーリは大丈夫だよ」

「うん、僕みたいなのに引っかからなきゃねぇ」
「……なんだって?」
あはは、と笑ったシグールは、実際はちーとも笑っていない目で村田を見返す。
「面白いよね、ユーリって。何度か話したけど、アレの国政についての考えは問題大有りだよ」
「それは」
「彼に任せたら国が傾くよ? お飾りでいつまでも置いておくわけにはいかないし」
いいよ、と村田が呟く。
「闇の部分は僕の仕事だよ」
シグールはその言葉を鼻で笑った。
「裏を知らない人間が施政者になんかなれないよ」
「……セノはどうなのさ」
「セノは知ってるよ、ぜーんぶ分かってあの態度なの。アレはもう性格だね」

それに、と言ってシグールは風向きが変わったせいでなびいてきたバンダナの端を後ろへ払って言った。
「確かにセノは人を頭から信じるし、誰でも助ける。だけど裏切られるって事は一応念頭にある」
「裏切られるかもと思って助けるのか」
「そ。ユーリはそれすらないからね、純粋というよりアレは無垢。危険だよ」

ねえ、と聞かれて村田は顔をしかめる。
この奇妙な奇妙な渋谷の「友人」は、同じくらいの年に見えて、本当は見かけの倍以上年を食っているそうだ。
村田自身の年齢は「十六歳」だから、その意味でははるかに年上という事になる。
人生経験も聞いた感じではかなり濃厚。

……今までの言動を観察した結果、油断ならない相手という結論。
飄々としてからからと陽気に笑う裏腹、目的のためなら手段を選ばない狡猾さが見え隠れする。
同類、といえばそれまでなのだろうけど。
他の五人より、ずっと、自分と同じ臭いがする。


闇の


「――シグール」
「ん、何?」
「君は……どうして渋谷を助ける?」
愚問だねぇとその奇妙な客人は笑った。
「暇だからに決まってるだろ」
その言葉に村田は小さく笑って、視線を夜空の方へと向けた。

 


 






***
坊ちゃんの科白は決して本音ではありませんと小声でフォローをしておきます。(多分)
腹黒対決の予定が、結構微妙に終わってしまった……。
頭の中で書きたい事と、現実は一致していません。

船の上の話が砂漠の夜空の下の話になる不思議。


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