<Today's friend, tomorrow's enermy>





明日も沢山移動するんだからよい子は寝た寝た。
そう言って皆を寝かしつけてから数時間ほど経ったのだろうか。
小さくなった火に薪をくべるという単調作業を繰り返しながら、ヨザックは空を仰ぎ見る。

相変わらず空は暗い。ようやく夜半を回ったといったところか。
雪はあれから深々と降り続いている。
安全のためにも夜明けと同時に出発した方がいいだろう。



「見張り、交代しましょうか」
徹夜は大変でしょう、と声をかけられて、意識がそちらに向けられた。
いつ起きたのか全く気配を察知できなかったのは、武人として少々問題がある気がしたが、彼ら相手だと納得できてしまう。
ジョウイは寝る時にはほどいていた長い髪を今はきっちり後ろで縛り、寝起きスッキリといった顔で微笑んでいた。

ありがたい、と素直に礼を言ってヨザックは位置を譲る。
ここが一番火に近いのだ。

手近な幹に寄りかかって目を瞑ろうとし、ふと尋ねてみる気になった。
二人で話すのは船の上での日曜大工から数えて二度目だが、あの時気になった事がひとつ。
ほんの、些細な、どうでもいいといえばいい事だ。


「ジョウイさんとセノさんとは幼馴染なんですよね?」
「そうですよ」
「……いいよなぁ、可愛くて」
冗談交じりにぼやいたヨザックにジョウイは苦笑した。
その中に僅かに苦い物が混じるのは否めない。

「俺もなーあんな可愛い幼馴染だったら歓迎したのにさ」
全く世話と心配ばっかりかけやがって。
小さく笑ってヨザックは視線を伏せる。
その心中を察して返答に窮したジョウイは、曖昧に笑うしかない。

「でも、手合わせした時にはびっくりしましたよ。小さいのに一撃はめちゃくちゃ重いんだから」
以前やった手合わせでその一撃の重さに面食らった。
単なる子供だと思っていたのに、歴戦の戦士と同等の一撃を繰り出してくるのだから。

グリエびっくり、とおどけて言うヨザックに、ジョウイは笑って追い討ちをかけた。
ジョウイにしては全く無意識だったが。
「三十年生きてれば色々ありますって」


…………。
…………。
沈黙が、落ちた。



……えーと。
何ですって?
知らなかったんですか。
聞いてませんよ。
誰も話してなかったんだ……。
魔族じゃないんですよね?長命な種族……なんですか?
(たぶん)人間ですよ。まぁ、諸事情ありまして。


あははーと笑うジョウイに、呆れとも感嘆ともつかない溜息をヨザックは吐いた。
「諸事情ですか」
「ええ」

今となってはそれで括ってしまう事もできるが、当時は散々苦しんだ。
周りが見えていなかったといえばそうかもしれないが、あの時はその道しかないと思っていた。
道を違えた過去はいつになっても心の奥にしこりとして残り続ける。

それを思うとヨザックとコンラートが少し羨ましかった。
口では何と言っていても、絆がしっかりと結ばれている。
小さな頃から顔を合わせて、同じ死線を潜り抜けてきたからこそ、今の不在が信じられないのだろう。






……言ってしまった方がいいのだろうか。
まだ自分達しか知らない情報。今後も彼らに自分達の口から語られる事はないのだろう。
けれどテッドに口止めされているからそれもできない。
怒らせるとどれほど怖いかはすでに体験済みだ。

自嘲気味な笑みを漏らして、ジョウイはこれだけ言う事にした。
ほんの気休めにしか、それすらならないかもしれないけれど。

「――大丈夫ですよ、きっと、彼なら」
「……だといいんですけど」
へら、と笑って、ヨザックは休むべく目を閉じた。

 



僅かな希望を胸に抱いて時は進む。
現実は残酷なまでな事実を彼らに用意したけれど。

 


 







***
幼馴染同士の対談。

Today's friend, tomorrow's enermy:今日の友は明日の敵(造語)