<Such captein, such retinue>
早速スタート。
かなり非道な方法で参加資格を手に入れたシグール・ルック・ジョウイの三名は、ユーリ達より先にとっとと会場入りしていた。
「まず筆記か」
「というわけで、ルックいってらっしゃーい」
「……はいはい」
もちろんこのチームはルックが代表となり、筆記試験を受けに行く。
シグールもジョウイもそこそこ文字の判読はできるだろうが、大シマロンの歴史なんて出題された暁には、恐らくお手上げだ。
試験会場に入ってみれば、なんだかやっぱり異質な空気が漂う。
最後に「技」で対戦があるのだから、確かにルックのようなのはお呼びではないに決まっているが……。
腰掛けて開始合図を待っていると、いきなり後ろから声が響く。
それが今試験会場に入ってきたユーリへ向けた村田の声だとわかるのに少し時間がかかった。
「いいかーぁ!? どんな事があってもー、自分の国の文化や教育に誇りをもてー! いっかぁー!? 誇りを忘れんなよー!」
「……性格悪」
頷く周囲の競争者を見てルックはぼそっと呟いた。
そんなことを言われたら……まあいいか。
配られた試験用紙の質は悪いが、大して気になるものでもない。
……それより、横に立っている試験官の存在の方がはるかに気になった。
ちらと目を走らせると、一人につき一人づつ……なぜ。
(なんて思ってる場合じゃなくて……)
頭をさっさと切り替えて、問題文を一瞥。
『我等が偉大なるシマロン王国の歴史について、以下の解答欄に文書で記せ』
ふーんと鼻で笑う――ほど常識なしではなかったので、必死に堪えてルックはすらすらとペンを動かしだした。
さっさかルックの書いた文章は試験官を大いに満足させたらしく、一行はとっとと次の勝負に移る事ができた。
ちなみにルックの斜め前に座っていたユーリも立ち上がったので、どうやら何をどうしたかはおいといで、クリアできたらしい。
しかし席を立つのはほんの数人で、その理由が分かっていたルックは溜息を着いた。
「少ないねー、合格者」
不思議そうな顔で言うシグールに、苦笑したジョウイが答える。
「大方、直前にムラタが「自分の国に誇りをもて」とか言ったから、素直に大シマロンを褒め称える文章を書かなかったんだろ」
「たぶんね。それよりとっとと行くよ」
「ハイッ!」
ルックの声に答えるように、勢いよくジョウイが声を掛け馬の背を叩く。
自慢していただけあって、なんとも見事な馬である――とは出発前のシグールとジョウイの会話。
……そろそろ例の可哀相な人は、仲間に見つけてもらえただろうか?
シグール達はユーリのチームと併走し、日没後合流した。
「まったく、陛下と猊下をいっぺんに護衛するなんて、何て俺って運がないんだろう。無事にご帰還された暁には働き者のグリエ・ヨザックとして、特別賞与をご検討くださいね」
「ゴケントウします」
ユーリに温かいお茶を差し出しつつ、ヨザックが火に薪をくべながら言う。
「それでジョウイさん、ほんっとーにテッドさんらは位置つかんでてくれるんでしょうねぇ?」
「あー……シグールの紋章とテッドさんの紋章があるから」
たぶん、と頷くジョウイ。
そんな彼に後ろから全体重をかけながら前のめりにさせつつ、シグールがヨザックに問い掛けた。
「ねーヨザック」
「はい?」
「ヨザックとコンラートってどんな関係?」
「……ま、一言で言えば戦友ですかねぇ」
「で?」
「……そうですねぇ……」
ヨザックが声のトーンを落として話し続けた。
ユーリは黒い目を瞬かせながら、ヴォルフラムと村田は寝ている。
先ほどから発言しないルックは……と思いきや、意外に目は開けていた。
二十年程前の魔族と人間との戦争。
その戦争で、人間の血が混ざった魔族による有志の団が在った。
人間との戦争は、魔族の地で、魔族として、幸せに暮らしていた彼らへの、差別の波を立てたのだ。
だから彼らは、武器を取った。
自分の子供が、自分の仲間が、何のいわれもなく暮らせるように。
「人間の血が混ざった者は、国家と魔王陛下への忠誠心に問題があると」
それは。
シマロンで人間と魔族の間に生まれた者達が。
監禁されていたのと、同じ理由。
「人間の血が何だって言うんだ!」
ヨザックの手に持っていたカップが割れる。
「魔族として生きると決めた俺たちの誓いが、そんな事で揺らぐとでも言うのか!? 敵国の血が流れているというだけで、祖国と愛する土地や、同胞の信頼を裏切るものか
! ……申しわけありません、取り乱しました」
「……いえ……それで、その時の……?」
ジョウイの促しに、ヨザックは頷いた。
「俺達は最も絶望的な土地、アルノルドへ向かいました。その時俺達を率いていたのがウェラー卿です。彼は俺達とは違う、当代魔王陛下の嫡子であったのに。……あそこは地獄でした。兵力も桁が違った。それでも俺達は戦ったんです、もしかしたら人間側の親戚を切ったかもしれない。それでも俺達は――」
国のために戦った。
国家のために――忠誠を示すために。
魔族として生きると決め、その地で授かった家族のために、自分達と同じ立場のものの未来のために。
たとえ、自分の未来が消えようとも。
「多くの犠牲を出したものの、アルノルドは死守された。そして眞魔国が一気に盛り返し、停戦へと持ち込めた……その功績を讃えられ、ウェラー卿は十貴族と同等の地位を得ました。それなのに……彼は軍を辞めて、今では……」
「ユーリの護衛ばかり、ってこと?」
ええまあ、と曖昧に笑って、ヨザックは壊れたカップの欠片を集める。
「……あ」
ユーリが声をあげ、全員が空を振り仰いだ。
「雪じゃん」
「難儀しそうだねー」
「……積もったらいくら馬でも難儀する。早く進めた方がよさそうだな……」
眉をしかめてジョウイが呟く。
「いざとなったら烈火使えば?」
ルックがシグールを指差す。
あそっかーと笑うシグールは、手袋に包まれた左手をさすった。
***
原作はこんなダイジェストより万倍良い話です。
ヨザックの素晴らしさに涙!
Such captein, such retinue:勇将の元に弱卒なし