<Man is a wolf to man>
建物の影でごそごそとしている人影二つ。
不審といえば不審だが、自分のチームの事しか頭にないため他のチームにはスルーされている。
二人の視線の先には、数頭の馬の前で地図を見ている男が一人。
他のメンバーは先程食料調達に行ったのを確認している。
「目標確認」
「ではこれより捕獲に入る」
「ラジャー」
びしっと敬礼の真似をすると、嬉々としてシグールは答えた。
作戦開始。
「おじさん、おじさん」
くいくいと袖を引っ張られる感覚に、男は視線を地図から外して下を向いた。
そこに立っていたのは、十代半ば頃の少年。
毛で編まれた帽子を目深に被っているからよくは分からないが、かなり端正な顔立ちをしているようにも見える。
「おじさん達はどこから来たの?」
無邪気に笑いかけられて、男は自分の故郷の名を告げる。
少年は僅かに首を傾げて遠そうだねと言った。
男の故郷は大シマロンの勢力内でもかなり端に位置しているし、これといって名物もないため有名な場所ではない。
それ故に本国への出資もままならず、皆が貧困に喘いでいる。
このレースで優勝して負担を軽くしてもらうのだと、意欲に燃えてここまでやってきたのだ。
辺境の名を子供が知らないのも無理はないと、気を悪くする事もなく男は少年にもどこから来たのたと尋ねた。
「僕はね、応援なの」
そりゃそうだ、と男は頷く。
こんな子供が代表だった日には、その地域は勝負を捨てたも同然だ。
「応援か、頑張れよ」
「うん」
帽子の上からぐりぐりと頭を撫でてやると、少年はくすぐったそうに笑う。
故郷にいる自分の息子も丁度これくらいだ。
頭を撫でようとすると睨んでくる息子とは違い、自分と爛漫な子供に思わず警戒心も薄くなる。
顔の半分まで被った帽子を直しながら、少年は男の後ろに繋がれていた馬に視線をやる。
出来る限りの速度でここまでやってきて、なんとか手に入れた馬だ。
毛艶もよく、足にも自身のある馬を揃える事ができたのだと自慢気に語ると、少年が乗りたいなと呟いた。
「乗ったことないのか?」
「こんなに大きいのはないかな」
少しだけだから、と上目遣いに視線を向けられて、男は少しだけだぞと少年の体を持ち上げて馬に乗せてやる。
馬の背を跨いで、少年……もとい猫を被ったシグールは、上々かなと小さく呟く。
「おじさん」
「何だ」
「ありがた〜く頂戴しますv」
馬も、資格書も。
先程とは打って変わった笑みを浮かべる少年に声をあげる暇もなく、男は背後からの一撃を食らって昏倒した。
「ご苦労様」
「あー疲れた」
セノの真似も疲れるねとシグールはこきこきと首を鳴らす。
しかし効果は抜群だ。
男を昏倒させたクロスは苦笑して、男を叩いた棍もシグールに返す。
地面と仲良くなっている男の懐を漁って資格書を頂き、ついでにその顔を覗き込む。
「あー……綺麗に入ったなぁ」
しばらく起きないかも。
「この人どうする?」
「残りが戻ってくると面倒だよねぇ」
資格書を手に入れたとはいえ、出発前に諍いを起こすのは面倒この上ない。
というわけで、手ごろな場所に男をぐるぐる巻きに縛り付けておく事にした。
もちろん最初にいた場所とはかなり離れている。毛布と一緒に巻いてあげるのはせめてもの良心だ。
これでしばらくは見つからないだろうし、見つかってもその頃には出発している頃だろう。
「ごめんねおじさん、悪気はないんだ」
でもこっちにも事情があるもので。
邪気のない笑みで言って、シグールとクロスは馬の手綱を引いて皆の所に戻っていった。
***
名もない人すいません。
Man is a wolf to man:人を見たら泥棒と思え