<A fortune teller knows not his own fate>





声が響いた。
錠の落ちる音と共に。

「なんでっ――なんでだよっ、お前もっ」
鍵のかけられた扉にしがみ付いて叫ぶ。
「渋谷、君は守られることに慣れないといけない」

敵襲を受けた船。
甲板に飛び出していったヴォルフラムを捕まえようとしたユーリの手が空を切る。
後ろから彼を押し止めた村田は顔をゆがめてそう言ったが、ユーリは聞こえちゃいなかった。

「でもっ――!」
「ムラタの言う通りだよ、ユーリ」
「そうだよ、ユーリは王様なんだから」
「外の心配はいらないと思うけど」

「……れ? 何やってんだよシグールにセノにルック」
首を傾げた魔王に、けらけら笑ってシグールが口を尖らせた。
「だってテッドが、お前がいると死屍累々になるから引っ込んどけ、ってさ」
「僕は回復係だから一戦終わってからでいいって」
「……野蛮な戦闘には関らない」

つまり、ユーリの護衛というよりは「お前らいると戦闘が一方的になるからひっこんどれ」と言う向こう側(主にテッドとヨザック)の判断らしい。
なんて事が分かっているのは甲板に出ている組であり、こちら側は分かっていない。
だいたい、シグールがソウルイーター使ったりとか、ルックが切り裂きかましたりとかすれば、秒速で決着がつくが、そんなことを甲板でさせるほど無謀な人間は本人以外いない。
本当の意味でユーリの護衛になりそうなのはセノだが、いかんせんさすがと言うべきか、いざとなると常識をすっ飛ばした行動をするので、彼も要注意人物である。

なんて事は村田にわかるはずはないが、彼はユーリに掴みかかられてそれどころではなかった。
「どういうことだよっ、俺は、俺はお前と旅をした記憶なんてっ」
「僕はね、渋谷」


――君と砂漠を旅したね。
――君の保護者は君を太陽に掲げて言ったんだ。
――太陽になりますように、と。

――僕をつれていた医者は、笑って僕を掲げてこう言った。
――月になりますように、と。


それが太古からの約束で、君の魂と僕の魂が交した契り。


「――僕はね、渋谷……」

小さく笑んで、村田は語った。
彼には、四千年程前からの転生を繰り返してきた記憶があること。
彼は「双黒の大賢者」であり、「魔王」ユーリに対なる存在で、彼の力を増す能力を持っていると言う事。
その度重なる転生の記憶を全て持ち続けるのは、魔王を助けるためであること。



話し終えられ、放心したようなユーリに、村田は言う。

「だけど僕は、「村田健」は、十六歳の高校生だよ」

前世の記憶は、記憶ではあるけれど、感情注入した映画をよく覚えているようなものだと、彼は語った。
苛立ったユーリが、隠していた事を責めると、やんわりと彼は答える。

「君が言ってくれるのを待っていたんだ」
「んなっ――」
言えるはずがない、と言いかけたユーリは暫くして笑った。
自分が魔王だなんて、正気じゃとてもいえるわけがない。
だから、村田も同じだったのだと、そう納得したようだ。



「さて、話が落ち着いたところでね」
今まで傍観に呈していたシグールが声をかける。
振り向いたユーリがなんだよ? と問うと、にっこりと坊ちゃんは微笑んだ。
「僕らも暴れる資格あるかなと思ったり?」
「ですよね、ジョウイ心配だし」
「……下がってな」

え? と問い返すユーリの手をセノが引っ張り、村田の肩をシグールが掴む。
何がなんだかわからない二人の間に、ルックが割って入って唱えた。


「切り裂き」


大破した鍵のかけられた扉を乗り越えて、棍を手に飛び出していくシグールに後を追うセノ。
そんな二人を見送って、顔を引きつらせた村田が唯一そこに残るルックに問う。
「……今のは」
「大賢者……ふーん、あんたが」
「いや、あの、ルック? 今の何? 魔術?」
「そんなもんだね、ほら、あれいいの?」
「!! おい渋谷っ!」

外に出ようとしていたユーリの後を慌てて追う村田を見ながら、ルックは扉の残骸の陰に隠れながら、雷を落とす用意を始めた。

 

 

 

 



***
敵にはご苦労様としかいえません。

原作では色々ありました。是非ご一読を。
あのメンバーがそろうと、力でごり押しが利くので便利です。
(素直に言いなさい、原作を開いて話を確かめるのが面倒だったと)

A fortune teller knows not his own fate:易者身の上知らず