<The end crowns the work>
とんかんとんかん。
晴れた日の甲板に軽快な音が響く。
ミス上腕二等筋――今はいつもの服に身を包んだヨザックは、日曜大工に勤しんでいた。
今日は日曜ではないが。
高速艇でカロリアから大シマロンへと向かっている最中に何を、と思いつつ、特に誰も気に留めない。
馴れた手付きで組み立てているそれは、人一人がすっぽりと入りそうな木の箱だった。
近づいてくる人影にヨザックが顔を上げると、木材を抱えて苦笑しているジョウイが立っていた。
「ご一緒してもいいですか?」
「いいっすよー」
気軽に返してヨザックは再び箱作りを始める。
その隣で木材を広げて、ジョウイが始めた行動は、ヨザックに非常に似ていた。
「ジョウイさんも箱作るんですか?」
「‘さん’は付けなくていいですよ」
ヨザックさんの方が年上なんですから、と落ち着かなさそうに言う彼に、ヨザックは首を振る。
「大事な客人を呼び捨てになんてできませんって」
寧ろ俺の方こそ、と言うと、年上だからと言われてしまった。
ヨザックにとって、彼らはまだ謎に満ちた部分は多い。
反則的に強いという事は知っているが、外見はまだまだ子供の域だ。
魔族ではないというから見た目通りと判断していいんだろうけど……それにしては色々場数を踏んでいるようにも見える。
それでもユーリ達が信用しており、また敵になりそうにないと判断できるため詮索はしないが。
そう思っているヨザックは、実際の所シグール達の実年齢諸々を未だ知らない。
「ヨザックさんはなんで作ってるんです?」
「俺はまぁ……ゲイカからの頼まれものですね」
それ以上は秘密です。
そう告げると、そうですかとあっさり引き下がってジョウイは着々と箱を組み立てていく。
随分と手馴れている。
作られている箱は、おそらくヨザックのものと同じ程度の大きさだろう。
「そちらこそ、何のために作ってるんです?」
「……入れる、んだそうです」
ヨザックのちょっとした問いに返って来た声は、心持沈んでいた。
とんかんとんかん板に釘を打ちつけながらジョウイは続ける。
「砂一粒零れないように、作るようにと言われたもので……」
はは、と乾いた笑いを漏らす。
……水でも入れるんだろうか。
なんだか聞いてはいけない事を聞いてしまったようで、ヨザックはぽりぽりと頬をかく。
「こっちは終わりましたけど、手伝いましょうか?」
「助かります」
「そういや、なんで他の方は手伝わないんですか?」
「シグールやルックは死んでもやらないし、セノにこんな事させたくないし」
クロスは船酔いしているルックの世話に忙しいし。
テッドに至っては今回の役目を押しつけた張本人だ。
勝手に城から出てきてしまったツケがこんなところにやってきた。
度重なる船旅の結果、文字を読んだりしなければそこそこ活動できるようになってしまった自分の適応能力が恨めしい。
そして、この箱が何に使われるかを知っているから、ジョウイとしては更に気が重かった。
「大変なんですね」
そう言ったヨザックに、ジョウイは乾いた笑みと共に応えた。
「慣れました」
慣れたくなかったけど、必然的に。
***
ヨザックとジョウイによる日曜大工。
それぞれ作っているものは同じだけど用途は違います。
The end crowns the work:細工は流々仕上げを御覧じろ