<Nothing venture, nothing gained>





話題整理したところで一応解散な形をとったのに、ルックとジョウイは笑顔のテッドに腕を掴まれた。
「さて、参謀サマの言う事が聞けなかった問題児s、言い訳をする機会をやろう」
「……あのままいて何かあったわけ」
「ヴォルフラムが」
「そうかそうか、人生最後の一言はそれでいいな? じゃあ心置きなく喰わせてもらおう」

「! ちょっ」
「何の冗談」
「冗談? じょぉーだん? それ何語のどういう意味の単語だ? 残念ながら俺は知らねぇなぁ?」

爽やかな笑顔を浮かべて、わきわきと右手を目線の高さに上げつつ、にじり寄って来るテッドから、少しでも遠くに逃げようと二人は後ずさるが、既に背後は壁だった。
助けを求めようにも、シグールもクロスもセノもおらず。
……もしかしてテッドは最強なのではと、シグールにも以前こういう風に詰め寄られた経験のある二人は思う。

テッドの方が、怖い、気がするのですが。


「――お前ら、なぁ、すこーしは俺の言う事聞いてくれねぇと困るんだよ」
「「…………」」
「例えば今、城から緊急の連絡を寄越さなきゃいけないとか、物資を送らなきゃいけないとか、そういう状況だったら役立つ……と思って残したんだぞ」
「……う」
「…………」
まっことにごもっともな意見に、二人は反論する術がない。
「だいたい、眞王から宣旨が下ったらどうやってこっちはそれを知ればいいんだ? こっち方向に最速で向かうには船しかないから、あえててめぇら残してやった俺の欠片ほどの良心は要らないのか」

ぐいと眼光鋭く詰め寄って、いいか、と短く言い捨てる。

「今度うかうか言った事破ってみろ、この世の地獄を見せてやる」

「「……はい」」

顔を背けたジョウイならずルックまでも小声で同意したのを聞いて、テッドはすっと身を引いた。
そのまま何事もなかったかのように歩いて行く彼の背中を見ながら、二人はへなへなとその場に崩れ落ちる。

……なんでシグールがテッドを怒らせないのか。
それがよぉっくわかった二人だった。










日のあたる場所に出ると、待っていたクロスに一瞬妙な視線を向けられる。
「……躾は俺の仕事なのか」
「あんまり苛めすぎないでよ? そもそもヴォルフラムの護衛でしょ、あの二人は」
「……結果としては、な」

単独で飛び出してくる可能性のあった、ヴォルフラムの見張り兼護衛(引きとめ役希望だったがそこまで期待はしていなかった)であの二名だったのだが。
……結果としてはともかく、せめてグウェンダルには連絡くらいしておけよ。
彼にすら完全無断で飛び出してきたとギーゼラから聞いた時は目眩がした。

「それより、ユーリが大変なことに」
「……今度は何を」
クロスが答える前に、向こうから走ってきたシグールが叫ぶ。
「テッドー! ユーリがテンカブに出るって!」

「てんか……?」

「大シマロン記念祭典、知・速・技・総合競技、勝ち抜き! 天下一武道会に出るって!」

それでテンカブ。
ステキに大胆な略称だ。
この世界は眞魔国といい、好きなのかそういう略称が。
そういえばアニシナの発明品にもそういうのが多いなぁ……。

「テッドー?」
遠い目をしているテッドの前でひらひらとシグールは手を振った。
「トリップしてるね」
「……してない。どういうことだ」

だからね、とシグールが繰り返した。

「大シマロンの主宰する、知・速・技・総合競技、勝ち抜き! 天下一武道会に出場資格があるんだってさ、カロリア選手が」
「カロリア選手が」
「うん、それでユーリがノーマンのフリして出るんだってさ」
「……フリンの旦那の本当ならもう死んでいるノーマンの振りをして仮面を被って」

そうそう、と頷いたシグールの笑顔に、テッドはやおら頭痛を覚える。
確かにさっき魂を賭けたが、何か展開方向が加速的にまずいような。

「それでね、優勝すると何でも好きなことを一つだけ叶えてくれるんだって。ユーリは箱を頼むつもりじゃない?」



はぁぁぁぁと溜息をついて、テッドはクロスの肩に額を落とす。
倒れたい。
いっそこのまま倒れたい。

「馬鹿正直にくれるわけねぇだろう」
「うん、それでムラタの案が発動」
「……分かった、とりあえず大シマロンか」

「うん、ドルーガー高速艇でね。試合開始まで日がないから」


ようやく回復して出てきたルックとジョウイが、それを聞いてまたも青ざめた。



 

 


***
テッドを中心に話を書くと書きやすいことに気がつく。

Nothing venture, nothing gained:虎穴に入らずんば虎子を得ず