<Nothing is unexpected after experience>
「……話を整理しよう」
箱が開いたおかげでもろに影響を喰らい、現在ぼろぼろのカロリアに着いてテッド・クロスと合流してしばし。
幻水メンバー(+ヨザック&村田)は表立って動けないわけではないが、とりあえず一時持ち場から抜け出して集まっていた。
いつのまにか増えている――黒目少年・その名は双黒の大賢者☆ とTの字が白抜きされた羊・その名もTぞう――を見やり、テッドは溜息混じりに言った。
最近というかシグールと再会してから俺の役回りはこんなんなのか。
なんでお前らそんなに自分勝手なんだと言ってみたいが、そう言うとクロスに過去のことを持ち出されそうだったのでやめておいた方が賢明そうだ。
そんなテッドの葛藤を知ってか知らずか、ルックにお久しぶりなクロスが上機嫌で口を開く。
「じゃあとりあえずユーリ班から」
「……あの女誰」
ぼそっと呟いたルックの問いに、セノが答える。
「フリン=ギルビットさん。ここの領主の奥さんで、旦那さんが死んでから旦那さんのふりしてずっと頑張ってきたんだって」
セノらしい好意的な解釈に、横で腕組みしていたシグールが付け加える。
「国のためなら手段厭わず、ユーリもそのおかげで大シマロンに引き渡されるところだった。まあ敵じゃないと思うけど、この状況でユーリが黙っているとは思えないから火種にはなるかもしれないね」
無言で同意した七名の内、ジョウイが続いて口を開く。
「ギュンターさんが撃たれた毒は「ウィンコットの毒」で、ウィンコットの血筋の傀儡になるものらしい。アニシナさんが全力で解毒中……らしい。カロリアはもともとウィンコット家の土地だったそうで、その関係で……」
「ああ、だからフリンが大シマロンにその毒を裏取引で渡したんだね。ここの兵役軽減のために」
「兵役軽減?」
眉をしかめたルックに、シグールが説明した。
「十二の男の子は軒並み軍人としての訓練をされるらしい。戦いがはじまればその年でも容赦なく宗主国の小シマロンのためにかりだされる……フリンはそれが嫌で、取引に応じたらしい」
そう、と呟いたルックは、目を若干眇めたがそれ以上何も言わない。
隣のクロスが僕たちが聞いたところによると、と続けた。
「お互い仲良しとはいえない大シマロンにも小シマロンにも箱がある。小シマロンの王、サラレギーは相当の切れ者らしいね。対して大シマロンは、王様に権限がほとんどないらしい」
「ンモォォォォッ」
Tぞうの相槌だか突っ込みだかが入るが、クロスは気にする様子はない。
「――今の王の、叔父……だったかな、が実際の権力者だね」
「……コンラートの腕を狙ったのが大シマロンだとすれば、その叔父あたりが黒幕かな」
ずいぶんと物騒なことを呟いたシグールに、テッドが目をむいてなんだと? と聞き返す。
「コンラートがなんだって?」
「コンラートさんの腕が、鍵なんだそうです」
繰り返したセノにテッドはくそっとかうわっとかそんなことを呟いて、実はな、と話し出す。
「調べた所によると、「鍵」はある一族がそれぞれ守っている物らしい。正しい「鍵」で開けなければ「箱」の力は暴走する。……コンラートの苗字は「ウェラー」だろ? どうやらこれはもともと大シマロンの方の一族だったらしくてな……詳しい事は歴史書紐解かないとわかんねぇけど、関っているのは間違いないな」
そう結んだテッドの後に続くものはいなく、場は沈黙に満たされる。
そういえばさ、とぼそり発言したのはジョウイだった。
「君は、つまるところどういう人?」
「――僕?」
自分を指出した村田は、僕はねえと考え込んでから話し出す。
「渋谷の対なる存在で、僕がいると渋谷はより大きな力が使える、かな」
「でも人間の土地ではあてにならないんでしょう?」
「そうだね、疲労が激しすぎる」
「セノ、守りの天蓋使っても疲れてないよね」
「うん、全然平気」
それじゃあ、僕達の紋章は問題ないというわけか、とジョウイが言うと、村田が首を傾げる。
「君達は……たぶん、この世界の法則に縛られないんだろうね」
それを聞いて六人はなんとなく視線を交わす。
……別に、出身世界でも縛られている気はしないんだが。
あれですか、何か色々踏み倒してますかもしかして?
ンメメモモモッというTぞうの鳴き声の意味は「そうなんだよ」かもしれないしそうではないかもしれない。
それでですねぇとヨザックが口を挟む。
「話は大体分かりましたが、どーすんですか、これから?」
「……どーするって、ユーリがここを復興しようと頑張るわけで」
「フリンは倒れてるし」
「カロリア、ぼろぼろだし……」
「でもユーリは国に戻らないといけないだろ」
「……婚約者が戻すでしょ」
「……最悪の方向に転がって眞魔国に帰るどころじゃなくなる、に俺の魂賭けてもいい」
「ですよねェ、グリエ困っちゃう」
先見の目を持った、というよりはいい加減トラブルメーカーな面子のおかげでパターンに慣らされたヨザックとテッドの意見が綺麗に一致した。
***
話題整理。
大シマロンと小シマロンは敵対していないこともないかもしれません(曖昧
コンラートが連れて行かれたのは大シマロンですが、何がどうなって小シマロンに彼の腕が行ったのかは……謎。
Nothing is unexpected after experiance:経験の末には予想外はない