<Absence is the best reason to be a topic>





がたごとと揺れる馬車の中。
決して広くない荷台は四人も座れば店員ぎりぎりだ。
カロリアへ出る船が出る港まで半日以上かかると聞いて、その間ずっと沈黙しているのはさすがに居心地が悪い。

そういえばギュンターさんの容態はどうなんですかとジョウイがギーゼラに尋ねると、彼女はアニシナさんに一任しているんですと答えた。
「ウィンコットの毒は特殊ですから……現状維持が手一杯なんです」
「ウィン……何ですか?」
聞き慣れない単語に問い返すと、ヴォルフラムがウィンコットの毒だと告げる。

「ウィンコットの毒は、その名の通りウィンコット一族の血液から作られる毒の事だ。毒に侵された身体は、血族の命令にのみ絶対的に従う」
「どれくらい忠実なの?」
「さぁ……」
実際毒に侵された者を見たのも初めてだから知らない、とヴォルフラムは鼻を鳴らす。
「不明な点の多い毒で、解毒できるのもどうやら一族の者だけらしいんです」
だから今はこれ以上毒が回らないようにアニシナさんに抑えてもらいながら、一族の方をお呼びしているところなんです。
「現状維持って?」
「氷漬けです」
「「…………」」
笑顔で言ったギーゼラに、ジョウイとルックは無言で視線を明後日の方に向けた。

現状維持で氷漬け。
凍傷にならなければいいんだが。

ちなみに先程のルックの「どれくらい忠実か」という質問だが、どれくらいかというと。
「一体なんだというのです!」
身体のあちこちに霜をくっつけ氷の破片を飛ばしながら襲い掛かるギュンターにアニシナが鋭く渇を飛ばす。
お手製の道具で氷漬けにし直し、一息つく。
「まったく、この私に歯向かおうなんて身の程知らずもいいところです」

……これくらい。





でも、とルックは頭に浮かんだ疑問を投げかける。
「なんでウィンコットの毒……魔族の物が、人間側にあるの?」
「カロリアは元々ウィンコット家の土地だったんだ」
だから毒を持っていてもおかしくはない、とヴォルフラムは言葉を切る。

「……・ジュリアがいれば」
「ジュリア?」
「ウィンコット家の直系にあたります。私と同じく治療班だったんです」
答えるギーゼラの瞳に翳った色を見て、その人が今はもういない事を察してジョウイは口を噤む。
「彼女がいれば、今回の事も大事にならずに済んだかもしれません」
「過ぎた事を言っても仕方がない」
溜息を吐いてヴォルフラムはふとギーゼラを見た。
その表情があまりにも真剣で、思わず息を呑む三人。

「ギーゼラ、ジュリアは婚約者がいたんだよな」
「え、ええ。アーダルベルトが」
「その……コンラートとはどういう関係だったんだ?」
「えーと……」
いい友人だと本人達は言ってましたけど、とギーゼラが苦笑交じりに答える。
そうなのか、でも……と何やら納得がいかない様子でぶつぶつ言っているヴォルフラム。

「……ギーゼラって人とコンラートが」
「へぇ」
ユーリ一筋に見えたのに意外。
あれにもそんな甲斐性あったんだ。

違うと否定が一応入ったにも関わらず、二人の意識はその前の会話に意識が完全に向けられていた。







***
毒とジュリアについての説明。
アーダルベルトは今後登場する予定。

Absence is the best reason to be a topic:不在は話の肴になる最適の理由だ(造語)