<Virtue is its own reward.>





どおん、と。
大きな音がして、「水関連で流されるユーリが流れ着くならこの辺かな〜」とカロリアのギルビット港にて散策中だったシグールとセノは顔を見合わせた。

「今の」
「……はい」

異変だ。
とりあえず異変だ。

異変には大体自分達が関るという事を色々な過去の経験からよおっく知っていた元軍主二名は、自分の体質が事件体質なんだろうという事から視線を逸らし、疾走を始める。
まさかそれでこの二人を組ませたんじゃないだろうなテッド。

が、異変の原因は走るまでもなくすぐにわかった。


「なに、あれ?」
「な……」
ぽかんと口を開いて、馬鹿みたいに突っ立って、二人は丘の上にそびえる館を見た。
そこは確か、領主のノーマン・ギルビットの住まう場所。
「三階部分ですかね」
「……丸々、何にもないね」
「まるで、山の上から水が押し寄せたみたいですね」
「あるいは爆弾で三階だけ爆破とかね」

これは自分達が関る範囲の異変なんだろうか。
なんか、トンデモなことに足を突っ込んでいやしないか?

――自分達はもっとすごいこともやっているというのに、認識不足らしい。

「と、とにかく行こう」
「ですよね、ユーリだったら大変だし」










屋敷に――護衛の皆さんは突然の出来事にびっくり仰天で、一発づつ叩くだけで済んだ――乗り込んだ二人は、唖然として暫く動けなかった。

足首までに満たされた水。
……どうやら三階を破壊したのはセノの見立て通り水だったらしい。
ぶち抜かれて大きくなった中央に、ユーリを抱きかかえるようにして座っていたのは見知らぬ少年。
その髪は金色、片目は青で、もう片方は。

「……シグールさん」
「うん」
黒を宿す人間は希少。


「なぜ、服が濡れてないの?」
「僕らを避けて通るから」
絵に書いたような美女の質問に、金髪の少年がそう答える。
美女は傍らの屈強な男達に命じた。
「どんなに抵抗しても一緒の部屋にいれ」

がふっ

へぶぅっ

ヘンな声を発して倒れた用心棒から、美女はきゃっと小さく叫んで飛び退る。
同時にその屈強な男達を一撃でのしたシグールとセノは、ユーリと少年の前にすべりでた。

「あっ……あなた達、誰」
今まで誰もいなかったはずの所から、突如現れた不審者に怪訝な目を向ける。
少年二人だ、別に何の害でもないはず、なのに。

「ひとぉ〜つ、人世の生き血をすすり」
緑のバンダナの少年が棍を持ってにやりと笑う。
「ふたぁ〜つ、不埒な悪行三昧」
茶の髪の少年が、見慣れぬ武器を構えて言った。
「みっつ、醜い浮世の鬼を」

「「退治してくれよう天魁星攻撃っ!!」」


「ちょっ、君達、何?」


「「え?」」



いきなり背後からかけられた声に、振り返ってシグールとセノははっと我に返る。
いけないいけない、ついつい思い切り暴れるところだった。
目的は「ユーリの護衛」であって、それ以上ではない。

「あ、ユーリのお友達ですか?」
「……渋谷の知り合い?」
「はい、お城でお世話になりました」
「……あ、そう……で、誰?」
「…………」










「どんなに抵抗しても同じ部屋に入れてはダメよ、ああ、絶対に傷つけないように人数を裂いてかかりなさい、特にあそこの武器を持った二名には気をつけて」
美女の飛ばす指示に、シグールとセノの顔に険がかかる。
だが、後ろからの少年の小声の制止がかかった。

「君達が渋谷の味方なら、投降してくれ、渋谷は限界だ、動かせない」
「……負けも作戦のうちかな」
「ですねぇ」
からんと音を立てて二人の武器がタイルの上に転がった。

「……領主の座がほしかったんだろ? 悪事に利用させたりはしないよ」
それが何のことを言っているかわからなくて、シグールとセノは首を傾げる。
「悪事になど使わないわ」
「……多くの人間は、力を得れば傲慢になる」
そこで切って、少年は僅かに目を細める。
視線を感じて、シグールは眉をしかめた。
この少年、残りの言葉をシグールに言わせようとしている。
セノの性格は先ほどの応答で十分わかったのだろう、それで今度はこちらに。

……幾つだか知らないが、ずいぶんと人を食った真似をしてくれる。

「力に振り回され、やがて身を滅ぼす。時には大切なものまで、巻き添えに」
「彼の力を使うのは、私の仕事じゃないわ」
「何を、欲してる? 力か、名声か、名誉か、それとも」
シグールを見据える美女の目の中に、良く知っている色が猛っていた。

「自由?」

揺れた美女の瞳を見つめ返して、シグールは冷やかな声で言った。
「矮小な正義と理想と責任を貫いても、それは何の役にも立たない」
きっと彼女の心を抉るであろう言葉を、平気で言い放つ。
それは、自分にも散々言い聞かせてきた言葉。

「英雄が湛えられるのは、偶々運が良かったからだ」

 


成功例は、ひたすらに皆無。





 



***

ムラケン登場です、「少年」とあるのがムラケンです、村田健です、わーい、ムラケンだ〜v
彼は実は「例のあの人」レベルの人なのですが、まあ原作を読んでいる方には今更ですね。

坊とムラケンの相性は悪そうでよさそう。


Virtue is its own reward:善行の報いはその中にあり