<A volt from the blue>





「ユーリにコンラートが?」
「……ああ、数日前ユーリがなぜか突然現れ、コンラートとギュンター、それにグレタで彼をあちらへ返すためにその地点に赴いた」

グウェンダルの顔色は悪い。
城中が慌しいのもそのせいである。
彼の元に来ていたのはテッドただ一人。
残りは――残りは不明であるが、グウェンダルは今そんなことにかまけていられない。

「――が、何者かに奇襲されギュンターは瀕死、ユーリはどこかへ飛ばされ、コンラートは……」
「……なるほど」
テッドはだからかよと呟いて、グウェンダルを見上げる。
「ギュンターの様態は?」
「アニシナが何とかした、今は雪詰だ」
「……雪詰」
どういう状態かは聞かないで置こうと、テッドは話題をそらす。

「つまり、ユーリはどこにいるかわからないと」
「……そうだ」
「この世界にはいるんだな?」
「おそらくな」
「よし、話はわかった」

言って、テッドは脇に抱えていた本をべしっとグウェンダルの目前に突きつける。
「衣食住の礼もある、手を貸してやる」
「……貸してやるとは大きい態度だが、お前達にここでできる事など」
「シマロンがえらく不穏だったぜ、大方この本に書いてる事が関ってるんだろ?」
「……鋭いな」
「俺の人生経験、あんたの倍だぜ?」
にかっと笑ったテッドが開いたページには。
唯一つの題が乗っていた。


『箱』と。










落ち合い場所に決めていた、シグールとテッドにあてがわれていた客室へ戻ると、既にメンバーは全員支度を整えていた。
……と言っても、特に何が変わっているわけでもないが。
「状況説明から聞きたいか、それとも作戦から行くか?」

「状況」
「作戦」
「どっちでもいいですよ」
「話しやすい方で」
「……状況」

「じゃあ状況」
えーとクロスが不満げな顔をするが、無視して進める。
「ユーリがこの世界に飛んできた、それが予定外だったので返すためにコンラートとギュンターが向かった。だが何者かが罠を張ってたのか、ギュンターが狙撃され、コンラートはユーリを逃がそうと庇い戦闘中に失踪。ユーリは絵の中へ飲み込まれ多分どこかに転移」
「……詳細がわかった理由は?」
「グレタが一部始終見ていたそうだ」

ああ、とクロスが顔を曇らせる。
親しい人が襲われ傷付いているのを、彼女はどんな気持ちで見ていたのだろうか。

「ギュンターは特殊な毒にやられているらしい。当分動けないし、動いても監視が必要だとか。俺の見立てじゃ操術系だな」
で、肝心のユーリなんだが、とテッドは話を続ける。
「どこにいるか一切不明、多分人間の国だ、魔族の国なら即行連絡がくるはずだからな」
「だよね」
「それと、ちょっとヤバイもんも関ってる――が、時間が惜しいので割愛する」
「「え」」

ちょっと待ってよと声を上げたシグールだったが、テッドは首を振った。
「一刻も惜しい。セノにシグール、お前ら今すぐにルックに飛ばしてもらってユーリと合流しろ」
「えっ!?」
「なんで僕とシグールさんなんですか?」
「ジョウイにルックは城で待機、俺とクロスは情報収集を兼ねて別行動だ」
「「…………」」
文句はなし、必要な事は全部伝えた、後は適宜自分の頭で考えろ。

なんとも無責任な事を言い放って、テッドはシグール、と名を呼ぶ。
「大シマロンの周りにどんな国がある」
「……大シマロン?」
「コンラートを連れていた奴らは大シマロンの奴等だ、ユーリが居るとすれば大シマロン付近のどこかだろう」
なんでそう思うのさ、と聞かれて、そうじゃないと話が面白くないだろうと返す。
「どういう意味」
「――どこに飛んだか不明と言う事は飛ぶ先はランダムか本人の意思による。この世界では転移はそう簡単にできないし、大きな力を必要とされる。ユーリの意思ならコンラートの近くかグレタの側か故郷のはずだ。ならランダム――と言いたいが、この国は眞王の意思とやらが働くんだろ」

なら、ユーリは家に帰れるわけも無くこの城にこれるはずもなく。
ユーリを飛ばすのが、眞王の意思であるならば。

「――大シマロンの手前に小国カロリア」
「……寄ったな」
「うん、寄ったね、でもあそこ本当に小さいよ?」
クロスの言葉にそうだけど、と呟いてシグールは情報を頭の中から引っ張り出す。

「確か、小シマロンの支配下でほとんど権限を握られてる。代表はノーマンなんとかだったかな。結構大きな港だったけど、船舶は全部大小シマロンからのだったから、安く輸出品を買い上げられて高い輸入品を仕入れさせられてる んだろうね。一番活気があるべきの港で働いているのがみんなお年寄りだったから、たぶん若い男は兵に取られてる。つまり、小シマロンはカロリアの戦力をそいでるわけだ。それほど仲のよろしくない大シマロンと近いのもあるし、安心して側における飼い犬じゃないって事だね」

濃厚だなと呟いてテッドはルックへ視線を向けた。
「飛ばせるか」
「……やってみるけど、ミスっても知らないよ、近場じゃない」
「頼む。シグール、セノ、お前たちの目的はユーリとの合流及び護衛だ」
絶対に、俺らと合流するまで大人しくしておけ、いいな?
念を押されて、シグールとセノは頷いた。

 

 

 

 



***
うっかり飛ばすところまで書いちゃう所でした。
作戦が多いのでムラケンとテッドが大活躍、の、予定。(喜

眞王はほんとにこれくらい逐一考えて色々やってる人……と、アニメではなってました。
多分原作ではもっと意地悪いと思いますが(原作の展開を見ながら遠い目



A bolt from the blue:青天の霹靂