<The men talks with their fist 1>





本日晴天なり。
命令により関係者以外立ち入り禁止とされた訓練場で。
「というわけで、『第一回全員集合!手合わせトーナメント大会!!』を始めまーす」
ユーリが手に持ったカンペを見ながら、アニシナ作『まあなんていい声がするんだろうくん』……略して「マイク」に向かって話す。



テッドの弓矢云々から数日後。
発案シグール構想テッド、下準備ヨザックによる手合わせ大会が開催される運びとなった。
暇を持て余し気味だったクロス達が乗ってくるのはまあ当然の事として。
コンラートは話を持ちかけたらすんなり乗ってきて、ギュンターとヴォルフラムはユーリの一言であっさり陥落。
一番難航すると思われたグウェンダルの説得は、アニシナが「男のくせに何を怖気づいているのです」という一言で完了した。
……不憫だったので、後で少しだけ仕事を手伝ってやってもいいかと思ったテッドである。

ちなみにユーリは当然の事、ルックも今回は純粋な武具によるトーナメント戦なので不参加と相成った。
彼曰く「殺す気か」だそうな。

「それじゃ、早速一試合いってみよー!」
明るい声が晴天に響く。
籤引きの結果決められた対戦表に従って、第一試合を戦う二人が丸く組まれた石舞台の上に昇った。





第一試合、クロスVSコンラート。
使い慣れた物の方がいいという事で双方真剣を携えている。
実力者同士なので「ついうっかり」はないだろう……たぶん。

クロスすらりと腰の鞘から双剣を抜いて、感触を確かめるようにくるくると柄を回す。
コンラートも剣を抜き、構えの姿勢を取った。
「お手柔らかに」
「こちらこそ」
間合いを取って、互いににこりと笑みを交わす。
一見まともでのんびりした様子だが、その実、浮かべられた笑みが黒くてなんか怖いと一部の評価。

「えーと、それじゃあ第一試合始め!」
全く気付いていないユーリが試合開始の合図をした。

じりじりと間合いを測るように二人は互いをみつめていたが、先に動いてたのはクロスだった。
一瞬で相手の懐に飛び込み剣を繰り出す。
並の兵士なら対応できずに喰らうところだが、そこは眞魔国屈指と言われる腕を持つコンラート。
根元の部分で剣を弾き切りかかるが、クロスはそれを左の剣で受け止めた。
ぎりぎりと近距離で二人が拮抗する。

キィン、と高い音を立てて離れ、再び剣同士がぶつかり合う。
激しい剣のぶつかり合いに、司会進行役のユーリ感心しきった声を上げる。
うわ、とかおおっ、とか、解説になってない。

その横で、こちらもまた好き勝手言ってる奴らが。
「どっちが勝つかなぁ」
「おお、コンラートも結構やる」
「五分五分?」
「んー……お、決着つきそうだぞ」

クロスが腰を落として横薙ぎの一撃を避け、右足でコンラートの足を払った。
一瞬コンラートがそれに気を取られた隙をついて、クロスの剣が首に向かって突き出され。
……そこで、真剣であった事を思い出した。
起きてしまった「ついうっかり」。
勢いを殺しきれずに剣はまっすぐ首へと向かい、クロスは咄嗟に手首を捻って剣の向きを変えた。
そして。


べちん


小気味良い音を立て、コンラートの顔面にクロスの剣の横面がヒットした。
「……あれは痛いね」
「痛い、な」
乾いた笑みを浮かべながら言うシグールとテッドの視線の先には、顔を押さえて蹲るコンラート。
「……ギブアップ」
押し殺したようにコンラートが呟いて勝敗は決した。
なんか微妙に間抜けな。

「コンラッド、大丈夫か!?」
顔を押さえて動かないコンラートに、ユーリが慌てて駆け寄った。
クロスは引き攣った笑いを浮かべて「思い切り当てたからなぁ」とぼやいている。
まあ刃の部分が当らないよう咄嗟に動いたからまだマシと思ってほしいと思ってみた。
その場合死んでるが。





第三試合、シグール対ヴォルフラム。
ちなみに第二試合はジョウイ対ギュンターだったが、曲がりなりにも国一番の使い手と言われるギュンターに勝てるわけがない。
というわけで試合内容は割愛。

真剣な顔で剣を持つヴォルフラムと棍を肩に担いだままのシグールを見比べ、なんか先が見えてるなあと半ば遠い目をしながら見守る幻水一同。
すでに試合開始の合図は出されているのだが、一向に構えの姿勢を取らない彼に、からかわれていると感じたヴォルフラムが激昂する。
発案者なのにやる気が全く見られないというのは。
「真面目にやれっ!」
それに笑ってシグールはくるくると棍を回し、
「いいからおいで」
こいこい、と手招きまでされて、ヴォルフラムは勢いよく足を踏み出した。

「……完全にシグールのペースに嵌ってるな」
復活して試合を観戦しているコンラートは苦笑し、グウェンダルも眉間に皺を寄せて見ていた。
ヴォルフラムの繰り出す剣は尽く棍で弾かれあるいは交わされ。
相変わらずのらりくらりとした態度に、ヴォルフラムはますます頭に血が上り、闇雲に剣を出すという悪循環。
これがシグールによる精神誘導作戦だとは全く気付いていない。
剣筋は鋭く腕は立つのだろうが、心理戦には慣れていないのだろう。
攻撃に意識を置く彼は、隙を突いてくださいと言わんばかりだ。


渾身の力を込めて出した一撃を弾き返されて、ヴォルフラムは数歩蹈鞴を踏んだ。
肩で息をしながら飄々としている相手を睨みつける。
試合開始からヴォルフラムの攻撃をかわすばかりで、自分から攻撃を一切してこないシグールに苛立ちは募り、最早試合だという事は頭から消えていた。
「くそっ」
小さく舌打ちすると、ヴォルフラムは掌を前に向けて詠唱を始めた。
シグールは僅かに目を見開き、楽しそうに目を細める。

「ちょっと、魔法は禁止じゃなかったんすか?」
「やめろヴォル「ストーップ」」
止めようとしたヨザックとグウェンダルを薄笑いを浮かべたテッドが止めた。
何故止めるのかと訝しげに視線を向ける。
「いくらなんでも魔法は危ない」
「シグールなら平気だって」
見れば、他の面々も全く意に介していない。

「行けっ」
獣の形を取った炎が、シグール目掛けて一直線に突き進む。
すっとシグールは腰を落とし、棍を自分に向かってくる獣に真直ぐに向けた。
足を踏ん張り息を止め、
「ふっ」
鋭く息を吐きながら、凄まじい速さで棍を横に炎ごと薙いだ。
炎獣は形を失って空中に掻き消え、ヴォルフラムは何が起こったか分からず呆然とするのみ。
シグールがそんな彼の前まですたすたと歩いて行って、その手から剣をぺしんと叩き落として試合は終了となった。

「……炎を、切った」
「うそーぉ」
シグールの行動に目を剥いている眞魔国一行を見て、戻ってきたシグールはにっこりと笑った。

 

 



***
続きます。