<Any day is lucky on which the thing occurs to one.>





お天気良いしピクニック行きたいなー。
……と、提案をする人間は限られているわけで。

「ピクニックか! たまには良いものだな」
「何言ってんの、絶対嫌、面倒」
笑顔を自然と浮かび上がらせ同意するヴォルフラムに、部屋の隅で本を読んでいたルックがぴしゃりと反対する。
「自然の美を味わう事を知らないとは、全くオソマツな美的感覚の持ち主だな」
「そのオソマツな美的感覚を少しは絵に生かしたら?」
「何っ、僕の絵にけちをつけるというのか!?」
「へえ、アレ、絵なんだ? てっきりネコが絵の具を足につけて走り回ったのかと」

既に日常光景になりつつあるヴォルフラムとルックの言い合いを横目で見つつ、クロスとユーリはセノの提案に身を乗り出す。
「いいな、ピクニック」
「楽しそうだね」
「たまには気晴らしでいいかもしれないな」
微笑んだコンラートに、ルックの正面で座って本を読んでたシグールが返す。
「僕は気晴らしって言ったらもうちょ」
「……ヤメテクレ」
 隣にいたテッドが口をふさいだ。

「ピクニックって言ったって……この人数でかい、セノ」
「うん! 皆で行くと楽しいよ、ね、ユーリ」
「うん、そうだな」
「わわわわたくしも参りますとも陛下ーっ!」

バッターン。
扉を開け放ちギュンターが駆け寄ってくる。
……ユーリに抱きつく寸前で、笑顔の護衛にやんわりと肩を掴んで止められたのは言うまでもない。

「……どっからわいた」
「すごいな、まるでゴキブリだ」
先ほどまで言い争っていたルックとヴォルフラムは顔をあわせて好き放題言っている。
案外仲は悪くないのかもしれないとそれを見て思いつつ、シグールは笑顔で言った。
「じゃあ、グウェンダルとヨザックも連れてこーか」
「なんでだよ、つーかあの二人は仕事が」
「ああ、ヨザックなら今日は非番だ」
コンラートが微笑み言うと、テッドがセノとユーリに向き直る。
「じゃあセノにユーリ、グウェンダル引っ張ってこい」
「「はーい」」
「コンラートはヨザックに連絡を、クロスお前は弁当な」
「わかった」

的確に適任へと指示を出して、テッドは呆れたようにシグールの頭をなでる。
「ご満足か?」
「テッド大好きーv」
満面の笑みで抱きついたシグールの頭をなでつつ、はあっとテッドは溜息をついた。
たぶん彼は想像がついていたのだろう。
その後の惨状を。










ピクニックと称して城外に出たのはいいが(グレタは留学中)、各時点でばらばら好き勝手なので、一体何が「皆」でなのかは理解に苦しまれる。
例えばユーリとセノとジョウイとヴォルフラムは川辺でなにやら遊んでいるし、クロスとグウェンダルは木陰で編物、さらにその隣でルックが本を読んでいる。
シグールはテッドと森の方に行って、ギュンターがそれを追いかけている。
コンラートは静かにはしゃいでいるユーリ達を見つつヨザックと会話。
……はたしてこれが本当にセノのしたかった「ピクニック」なのか謎だが、個人が楽しければいいのだろう、たぶん。

「クロス」
「ん、なにー?」
「おなか減った」
「あー……そろそろお昼だね、じゃあご飯にしようか」
本を閉じて言ったルックに微笑み、クロスは立ち上がるとコンラートとヨザックに声をかけ、コンラートはユーリ達、ヨザックはシグール達の方へと昼を知らせに行く。

「さーて、人数多いからねー、シート持ってきたけど二枚あるからさ」
全員が集ったところでにっこり笑顔でクロスが言う。

「二グループに分かれて座ろうね」
「僕は当然ユーリとだな」
「わたくしも陛下と」
「セノは僕とだよなー」
「あ、僕もユーリとがいい」
「セノ……(涙」
「どーしよっかなー」

ほっとくと著しく偏りそうなグループの決め方を考えていると、テッドがなにやら差し出した。
「何これ?」
「さっき森に入って見つけた薬草なんだが、これをこうしてほら、短い草取ったらこっち、長い草取ったらこっちってのはどうだ?」
「おっけー、それじゃあ順番に引こうか」

俺引く引くーと乗り気なユーリがまず引き、続いてセノ、ヴォルフラムという順序で引いて行く。
そして最後にテッドが自分の分を取り。

「……これはまた……見事な……」

テッド側にはクロス、コンラート、ヨザック、ユーリ、セノ。
反対側にはシグール、ジョウイ、グウェンダル、ルック、ギュンター、ヴォルフラム。

「さーて、楽しいお昼にしようか☆ ジュースも持ってきたからね」
「あ、コンラッド貸せよついでやるって」
「ありがとうユーリ」
「ユーリ、僕のもお願いしていい?」
「任せとけ!」
「テッド、ツナサンドイッチ食べちゃうよ?」
「ああっ、俺にとって置けよクロスっ!」


平和だ。
悲しくなるほど平和だ。

誰がって隣のチームが。


「取るなルックっ!」
「先に手を出したのは僕だろ」
「グウェンダル……何が悲しくて貴方の酌で飲まなくてはいけないんですかっ」
「文句言うなら自分でつげっ!」
「……シグール、それは、僕の」
「おいしーv クロスの料理は絶品だね」
「…………」

というわけでぎすぎすずきずき約一名だけ楽しそうなこちら側を尻目に、ほのぼのチームは穏やかに盛り上がっていく。
いい加減嫌になったのか、ジョウイが離れた場所に座るセノに涙声で訴えた。
「セノ……」
「あれ? どーしたのジョウイ」
「そ……そっち行っても、いい、かな?」
「えーでもスペースないよ?」
「…………」
「あ、えっと、誰かがジョウイと交代すればいいんだよね?」

一気に暗くなったジョウイの顔を見て、さしものセノも焦ったらしくきょろきょろと周囲を見回す。
一番向こう側チーム(別名地獄チーム)に近い位置に座っているコンラートに視線を向け、心持ち首を傾げた。
「コンラートさん、ジョウイと代わってもらえます?」
コンマ数秒もおかず、滑らかな動きで隣のテッドへ視線を向けたコンラートが笑顔で言った。
「テッド、シグールが呼んでる声がするな」
「しないから」
即否定して、ツナサンドをほおばるテッド。
確かにシグールは一人で険悪な他五名を見るのに忙しそうだ。

「ヨ」
「陛下、さっき仰ってたほぉむべえすって何ですか?」
「あ、それはなっ」

反対側に座っていた友人に声をかけようとして逃げられたコンラートは、真正面に座るクロスに微笑みかけた。
「ルックが呼んでたようですよ?」
「ホント? じゃあちょっとあっち行ってくるね」
クロスが立ち上がるのと同時にジョウイが動き、彼の座っていた位置に無事座る。


一方、地獄チームにきたクロスは、思わず額に手を当て溜息ついた。
「なに、してんの……?」
「やあクロス」
「何してんのシグール」
「いや、ヴォルフラムとルックが言い合いを始めグウェンダルとギュンターが愚痴を語りだし」
「何か雰囲気は片や動物園片やお通夜だよ……?」

楽しいよ? と笑うシグールの片手には酒。
いつの間に持ち出していたんだ。
「それじゃまー……るーっく」
お目当ての人物をひょいと抱き上げ、彼の座っていた場所に座ると膝の上に抱き寄せる。
 ヴォルフラムと言い合っていたルックが、唖然として口を開き、また閉じ、また開く。
「な……な……」
「あれ、こっち減るの早いね、グウェンダルとかジョウイとかギュンターとか体格いいのが揃ったからかな」
半分事実で半分違う。
早いのはグウェンダルとギュンターが愚痴りつつ早食いしてたのと、シグールがジョウイの分まで大食いしていたからだ。

ちゃっかりルックの腰に腕を回し、ヴォルフラムににっこり微笑んでクロスは問う。
「ヴォルフはルックと仲良いねえ」
「「どこが!!」」
「二人とも可愛いなあ」
「「…………」」
こいつには何を言っても無駄だという空気が二人の間に流れる。
実際、クロスがヴォルフラムを可愛がるから、ルックが噛みついて行くのであって、この二人の不仲は突き詰めればクロスのせいなのだが……知っててやってるのか知らないでやってるのか。
どちらにしろ、面白いのに違いはないのでシグールはそれを肴に酒を楽しむ。


 そんな不健全なピクニックが隣で行われている事に、いち早く気付いたのはコンラートだった。
「酒の臭いがする」
「は? え、……あ」
ぼそり呟いた言葉にテッドが反応し、予想ドンピシャの光景を見て苦笑する。
「やると思った……」
「テッド」
「止めてこいとか言うんじゃねーぞ」
コンラートの次の言葉を予想し先に手を打ったテッドに苦笑し、長身の護衛役は立ち上がる。
「あれ、コンラッドどこ行くの?」
「ちょっと向こうに行ってきます」
 くいと地獄組の方を指して爽やかに笑ったコンラートは、そのままスタスタ真直ぐにシグールの方へと歩いて行く。

マズイ。
それはマズイぞ護衛役。

「お酒はやめてくれないかな、ユーリが嫌いなもんでね」
「ああ、誰かと思えばコンラート。飲む?」
「酒をしまってくれ、城に帰ってからなら飲んでいいから」
やんわりシグールの手に自分の手を添えて笑顔で言うコンラート。
それににっこり微笑んだシグール。
見えない火花が飛び散る。


「……ルック、クロス、その、サンドイッチも足りなくなった事だし」
「そうだね、向こうの分取りにいこうか」
「クロス、下ろして」
ここの三人は賢い。


「そんな固いコト言わないでよ」
「ユーリが嫌うんだ」
「あはは、過保護だなあコンラートってば」
「はは、シグールほど奔放じゃないからな」

「……ヤメテクレ二人とも頼むから」
 至近距離で笑いあう二名の肩に手を置いて、ガックリ項垂れたテッドが懇願した。

 

 





***
ピクニックです。
シグールとコンラートは絡むと怖いですきっと。
笑顔で嫌味を延延と言い合うんだと思います。

でもユーリの前では二人とも良い人、胃が痛いのはきっとテッド。



Any day is lucky on which the thing occurs to one.:思い立ったが吉日