<Wake not a sleeping lion.>
国外任務からようやっと解放された、オレンジの髪に青い目を持ち敬愛する陛下には「ミス・上腕二頭筋」とのお墨付きをもらった正しき肉体派女優のグリエ・ヨザック(男)は、帰国したついでに、朋友に会っておこうと思い城下にまで足を伸ばす。
「おやぁ?」
訓練中の兵の隣を抜け城の中庭に入ると、木の幹にもたれて昼寝をしているらしき黒髪の少年がいた。
「陛下……お昼寝とは珍しい……」
声をかけて起こすのも何なので、彼が起きるまで例の過保護な護衛と話でもしていようかと視線を巡らすと、同じ木の幹の影にちらと茶色い髪が見える。どうやらこちらに背を向けて座っているらしい。
「ひさしぶ――……?」
そういえばユーリがいるのにあのわがままプーこと婚約者のヴォルフラムがいないのは不自然だ。
いまさらながらそんなことに思い立ち、覗き込んだ顔が朋友のものではない事に驚き、ヨザックは首を傾げた。
穏やかな風に髪を洗われつつ眠っているのは、コンラートよりは幼い面立ちをした少年。
よく見れば服の色も違うし髪の色も若干異なる。
……ただ、隣の黒髪は間違いなく……
「…………?」
膝を曲げて覗き込んだその顔は、黒髪が降りかかっていれども、どう見たってユーリの顔ではない。
という事は、黒髪の魔族がユーリの他にもいたという事だ。
無論黒い色を持つ者は希少なだけで皆無ではないが……血盟城内で呑気に昼寝なんてしている身分といったらかなり限定されるはずだ。
「どーなってんだぁ?」
さっぱり検討もつかない状態にヨザックが呟くと、すうっと茶髪の少年の方が目を開いた。
「……あんた、誰だ?」
「いやねぇ、それはこっちの科白かもしれないんですが」
「ああ? 俺はテッド」
「失礼ですが、どちらの貴族ですか?」
「ん? 違う違う、俺達は――」
ざっと彼らの状況を聞いて、ヨザックははあと頷いた。
「そりゃまた災難でしたねぇ」
「まあ、なんてゆーか、いいけどな。ここの生活快適だしというか居候だし」
ただでじゃないが。
だってグウェンダルが書類仕事の雑用押し付けるから。
「んぁ……テッドぉ?」
「ああ、シグール起きたか?」
黒髪の少年が目を覚ますと、話に聞いた通りその瞳は漆黒。
ユーリとはまた違った輝きを放つその色を、ヨザックはしばし見つめてからよろしくと言う。
「グリエ・ヨザック。特技は女装と潜入ですね」
「ああ、ユーリの言ってたミス・上腕二頭筋……確かに」
ヨザックの見事に盛り上がった筋肉を見て、頷いたシグール。
笑ってテッドはヨザックへ視線を向けた。
「国外任務が多いと聞いたけど」
「ええ、まあ一段落着いたんでウェラー卿に会いにきたんですよ」
「コンラートなら確かユーリの私室に」
「セノとルックも一緒にお茶してるはずだよ? 一緒に行こう」
立ち上がってそう言ったシグールに、テッドははいはいと返して立つと服の汚れを払う。
「……ところでヨザック」
「なんでしょう?」
「……いや、なんでもない」
お前は俺と同じ人種かそれともシグールと同じ人種か?
……あのコンラートの友人と言うあたりで、既に聞くまでもなかった。
***
たぶん違っていた事が後日発覚、するといいね。
ジョウイはアニシナの実験室、クロスは厨房で遊んでます。
Wake not a sleeping lion.:寝ている獅子を起こすな