<Never judge by appearance.>





六人が来てしばらくばたばたしていたが、最近ようやく落ちついてきた血盟城に、もうひと波乱起きたのは穏やかな日の昼だった。

「へーいかーv」
血盟城に響き渡りそうな通りのいい声がユーリの名を呼ぶ。
食事のために食堂に集まっていた一同は突然の訪問者に動かしていた手を止め、視線をそちらに向けた。

腰まである豊かな金髪。
プロポーションを強調する黒のロングドレスは、彼女の魅力を引き立てるもののの決して嫌味ではない。
首につけている大きな宝石付きのネックレスも霞んでしまような美貌。
文字通りの『美人』がそこにいた。


がたん、とユーリが驚いたように席を立つ。左手にフォークを握ったまま、顔を綻ばせた。
「ツェリ様!」
「陛下!お会いしたかったわ〜」
ツェリと呼ばれた彼女は、ユーリに駆け寄ってその頭を抱えこむように思いきり抱きしめた。
顔を赤くするユーリに、ヴォルフラムが顔を赤くして引き剥がそうと躍起になる。
まあ婚約者としては面白くない光景だろう。

ヴォルフラムがけっこう……いや大分焼餅焼きだと悟っているテッドは苦笑交じりにその光景を眺めていた。
どうだろう、シグールとどっこいどっこいかもしれない。

はて、と首を傾げる。
この人は一体誰なのだろうか。
一見して彼等と随分親しそうに見えるけれど……。



「毎回毎回ユーリにちょっかい出すのを止めてください、母上!!」
「……は?」
今なんかすっごい事言わなかったか?
聞き間違いかと視線をずらすと、今の言葉が耳に入ったらしい他のメンバーもぽかんとしている。

それに気付いたのか、ツェリはユーリを胸から開放すると、テッド達に向かってにこりと微笑んだ。
あ、やっぱり美人。
「貴方達が異世界からやってきたという方々ですわね?初めまして、私ツェツェーリエと申しますわ。ツェリって呼んで下さいねv」
よろしく、などと一人一人手を取って握手をしながら朗らかに言う。
「は、ぁ……」

「母上……彼らが困ってますよ」
苦笑交じりにコンラートが言葉を挟む。
……正確には当惑してるんだが。
それよりコンラート、お前まで彼女をそう呼ぶのか。
ということは、さっきのは聞き間違いじゃないのか。

つまり、見た目せいぜい三十代にしか見えない彼女が、あの似てない三兄弟の母親……ということになる。
ぶっちゃけグウェンダルより若く見えるんだが。
……ああ、もしかして後妻とか。

ぐるぐると答えの出ない思考を巡らせているテッドにコンラートが説明してくれた。
「まだ言っていませんでしたね。魔族は長命でして、外見年齢は実際年齢の五分の一なんです」
「じゃあ、この人は」
「間違いなく俺達の産みの親です」

はあ、と納得するやらしないやら。
確かに、よく見ればヴォルフラムとはよく似ている。
あれか……他の二人は父親似か。

「で、ツェリ様が俺の前の魔王なんだ」
ユーリの言葉に再びフリーズ。
ほんと、異文化って難しいんだな……。

米神に手をやりながら軽く頭を振って、テッドは情報を整理する。
「……ということは、この三人実は元王族?」
「そんな大層なものではないですよ」

奥が深いなあとジョウイが頷く。
「じゃあ、実際年齢は大分上って事か……」
「びっくりするよなー俺も最初聞いた時びっくりしたし」
「ユーリは違うの?」
「俺は今までずーっと向こうの世界にいたから・・・まだ十五」
ヴォルフラムなんてこれで五十過ぎてんだぜ、とユーリは肩を竦めた。
「へえ……」
随分と落ち着きのない五十歳だ、という言葉はそっと胸の中にしまっておく。

「じゃあ一番年長はツェリ様?」
「そうね・・・あ、でも幾つかは内緒ですわよ」
「ギュンターは?」
「私は百五十歳になります」
ギュンターの言葉にへえ、と感心したようにクロスが声を漏らし、そしてぺろっと言った。
「じゃ、僕より年下だったんだ」
「「「……は?」」」


年下てあんた。
固まった魔族一同を見て、テッドが溜息を吐きながらクロスに突っ込む。
「クロス、そういうややこしくなる事を言うな」
「でもほら、せっかく向こうの年齢分かったんだし」

教えてあげないとさと言うクロスに、見た目のまんまでいいじゃねえかと言いたいテッドだった。
言わなきゃわかんねぇんだしさ。

「……エート、ドウイウコトデスカ?」
ユーリが尋ねてクロスはにっこりと笑う。出された右手はテッドへと向けられている。
「はい、説明よろしく」
「お前がしろや」
テッドに お前が振ったんだぞと半眼で睨まれて、クロスはやれやれと肩を竦めた。
「僕らがつけてる紋章って特殊でさ、宿主は不老になるんだよね」
だから外見は紋章を付けた時の年齢で止まりっぱなしなわけ。

この上なく簡潔な説明に、首を傾げるユーリ。
もしアニシナがここにいたら確実に質問責めにあっていただろうが、生憎彼女はここにはいない。
「じゃあ、あんた達の実際年齢って……」

そこでシグールが会話に加わってきた。
手を上下に振りながらからからと笑う。
「僕達は大体三十前後だよ。この二人は非常識的に長いけど」
「テッドは三百の大台乗ってるもんね」

三百歳。
魔族でいっても外見年齢六十歳のお年寄りだ。
「……なんか化かされた気分だ」
ヴォルフラムが額を押さえて呻くように呟く。
ツェリはいつまでも若いままなんて素敵ねえ、と目を輝かせていたが。

「歳を取らないという事は、死なないんですか?」
「いや、不老ってだけで怪我や病気で死ぬ事はあるよ」

それに相性が合わない宿主は短命だったし。
心の中だけでそう付け足す。


「ああでも、テッドより長生きな人もいるよね」
「まだいるのか……?」
「レックナート様がテッドより少し上だよね、ハルモニアのヒクサクが六百くらいだったっけ」
「生きてるならな」
「前レックナート様が奇襲かけに行ってたよ」
「何しにいってんだあの人」
「シエラさんは八百歳でしたっけ」
「……ああ、あの人」

よく分からない人物名がぽんぽん挙げられる中に、八百という言葉を聞き取って唖然とする。
八百といえば、眞王廟に控える巫女、ウルリーケと同列ではないか。
国内でも1・2を争う長命である。

人間見た目で判断できないんだと、ほとほと思った一同であった。










***
幻水メンバー、中に入っても違和感がないのがこの世界。
それでもテッドは飛びぬけるんだよなー……。


Never judge by appearance.:人は見かけによらぬもの