<Common sense ain't common.>
「騒がしいな、例の奴らか?」
そこに現れたのは、灰黒の髪を長く伸ばし後ろで一つに結わえ、蒼い目を鋭く光らせる、どことなくそこはかとなく某国宰相を思い起こさせる長身の三十代付近の男性だった。
そのたたずまいは堂々としていて、その声は低く重厚だ。
「兄上っ」
「「兄上っ!?」」
金髪美少年ヴォルフラムがそう声をあげ、たまげた六人は素っ頓狂な声を上げた。
「……フォンヴォルテール卿グウェンダルだ」
「に、似てな……」
ヴォルフラムの表情は豊かだが、こちらは全くの無表情。
「ついでに俺が次男です」
軽いノリで横からそう言ったコンラートに、仰天したジョウイが口を数度ぱくぱくさせてから、つばを飲み込み問う。
「し、失礼ですけど全然似てないですよね」
「まあ、外見は」
「苗字が違うって事は」
「はい、父親は全員違うので」
なるほど。
納得したような顔で頷いて、ジョウイは視線をユーリへとあわせる。
いつのまにか意気投合したのか、セノとなにやら会話して笑いあっていた。
……似てそうだもんなあ、性格とか。
「セノ」
「あ、ユーリ、あのね、これがジョウイ」
「こんにちはー」
「こんにちは」
本当にこいつ魔王なんだろうか。
魔王ってのはほら、シグールみたいな……なんでもない。
「ユーリの婚約者さんって綺麗だねー」
「い、いやこれはなんていうか異文化コミュニケーションが……」
目を泳がせたユーリに、横からヴォルフラムが突っかかる。
「お前はちゃんと僕に求婚しただろうがっ!!」
「ビンタやったら求婚だなんて誰が思うかよっ」
「娘もいて、何が不満なんだ!?」
「不満てお前――おかしいよなセノっ。男同士でなんてな?」
「え? だって僕ジョウイの事だーい好きだよ?」
「……え?」
「ここって、その、公認じゃ、ないのか?」
ジョウイが引きつった顔のユーリにそれとなく確かめるが、彼は返事を返さない。
横から苦笑したコンラートが助け舟?を出してくれた。
「ユーリの出身地では……あまりよくある事ではないらしいですが、眞魔国では問題はありません」
「男同士でも、僕はいいと思うよ」
「……そう」
項垂れたユーリに、ジョウイはかけるべき言葉が見つからなかった。
だが、そこはセノが上手く話題を繋ぐ。
「あ、ユーリ、あそこにいるのがルックだよ。ルック〜こっちおいでよ」
セノに笑顔でこいこいと手招きされ、無視するわけにもいかなかったのか、しぶしぶといった面持ちでルックがやってくる。
「うわー……」
端整なルックの顔は不機嫌一色だが、それもまた妙な艶を添えていて、真正面からまともに見たユーリは思わず見惚れた。
面白くないのは隣にいたヴォルフラムで、ユーリ! と耳を引っ張って叫んでルックを睨む。
「こんな女に惚けるなっ!」
「なっ、惚けてなんかっていうかいいじゃんか美人だしっ」
「僕の方がずっと綺麗だろっ」
「お前は男だろっ!?」
「え? ルックも男だよ?」
「「はいっ?」」
「……あんたたち……僕のどこが女に見えるって……?」
右手をゆっくりと掲げつつ据わった目でそう言いながら、それだけで人を殺せそうな視線を向けるルックに焦り、ジョウイはとりあえず右手だけでも引っ掴んで下げさせる。
ここで切り裂きなんて使われたら周り全員巻き込まれる。
「それに、どっちがずっと綺麗だって?」
「……そこかよ」
背後のジョウイのツッコミは耳に入らなかったらしい。
「僕だよ」
「僕だろ」
「はん、鏡見た事もないのかかわいそうに」
「井の中の蛙が何言ってんだろね」
「僕の方がずっと綺麗だろ、なあユーリ」
「そいつが見惚れてたのは誰だっけ?」
どんどん険悪になってゆく二人の空気に、いたたまれなくなったのか横で静観していたコンラートが口を挟んだ。
「ヴォルフラム」
「煩いっ、だまってろっ!」
「ルック、お友達になった?」
がしっとルックの後ろから首に腕を回し、笑顔で乱入してきた人物約一名。
「くろ」
「えーっと、ユーリにヴォルフラムだね。何の話してたの?」
「……なんでもない」
「どっちも綺麗だよね、ねえユーリ?」
「あ、う、うん」
「ほらね、お相子。引き分け。仲直りv」
後ろからルックを抱きしめるような格好になって笑顔で言ったクロスに、眉をしかめたルックが抗議しようと首を傾けるが、ちゅっと額にキスをされ、赤くなって腕を振りはらう。
「ッ、クロスッ!」
「ユーリ!」
「おやおや雁首そろえて何をしておいでですか?」
「グレタ、それにアニシナ、さん……」
赤茶の縮れた髪と褐色の肌を持った少女がユーリの元へ駆け込んでくる。
「紹介するね、この子俺の娘、グレタ」
「初めまして」
「はじめまして〜僕セノっていうんだよ」
「セノ様?」
「セノでいいよ」
「あ、僕ジョウイね」
「じゃあセノにジョウイ! 覚えた!」
「グレタは賢いなあ」
そんなほのぼのとしていたのは本当に一角。
かつんと歩み寄るアニシナに一歩下がる男性一同。
「こんな所に立ったままで話をするとは! だから男は気が利かないと女性が嘆くのです!」
「えーっと、あなたは……?」
「私はフォンカーベルニコフ卿アニシナと申します」
「アニシナ、さんですか。僕はクロスといいます初めまして」
「初めまして。おや繊細な指ですね編物などいたしませんか」
「アニシナっ!」
客人にいきなりそんなことを言い出した幼馴染を、青くなって嗜めようとしたグウェンダルだったが、杞憂に終わる。
「はい、編物好きですよ」
「すばらしい! 貴方とはいい友人になれそうです」
呆気に取られたグウェンダルの背後で、テッドの悲鳴らしき声が聞こえてきたが、気付かなかったのがグウェンダルの唯一の幸いかもしれない。
***
……頑張った。
魔族にてねぇ3兄弟登場。あとグレタにアニシナ。グレタは当然養女です。
因みにこの似てない三兄弟、元ロイヤルファミリーですよ、お母様先代魔王。
Common sense ain't common.:常識は皆に共通しない