<Well begun is half done.>





――ちなみに現在、彼らはそのギュンターとやらが引き連れてきた軍隊と合流中。

「つまり、黒という色がそもそも高貴な色で、魔力のずば抜けて高い証だと」
「そうです」
「で、現在の魔族の国の王様も双黒――髪と目が黒い――の王だと」
「その通りです。ああ陛下のあの艶やかな御髪! そして……」
「……んで、魔族の中でも稀な双黒が、なぜかここにいると……」
確かに魔力は高いが、そこまで高かないだろ。
隣にいるシグールを見て、テッドは尋ねる。
「で、なんでフォン……」
「ギュンターで結構です」
「ギュンターはなんでここに?」

それはですね、と言ってギュンターは紫の髪を揺らす。
「ウルリーケという名の巫女から連絡がありまして、なんでも陛下以外の強力な力を持った者がこちらへ来たと……」
「そのウルリーケさんにお願いすれば、元の世界に帰れるんですか?」
セノの問いに、ギュンターは渋い顔になる。
「……お話を聞く限りでは、皆さんは陛下と同じ世界の出身ではない様子。その場合帰し方は……」
「わからない、と」
「申し訳ありません」

頼みの綱の魔族にあっさりとそう言われては、どうしようもない。
諦めに似た視線を交わして、クロスが口を開いた。
「それで……僕達はどうすれば?」
町に戻るわけにもいかないし。
かといって帰り方も分からない。

「ええ……双黒の方がいらっしゃるわけですし、よろしければ眞魔国へご滞在されませんか」
「シンマコク?」
「はい、我等魔族の国です」

行くあてもないので、六人は頷いた。










「こちらが! 偉大なる眞王とその民たる魔族に栄えあれああ世界の全ては我等魔族から始まったのだということを忘れてはならない創主たちをも打ち倒した力と叡智と勇気をもって魔族の繁栄は永遠なるものなり……」

途中で視線を彷徨わす馬上の六名。
あまりに長くなって聞いてられなくなったらしい。
目の前には綺麗に整理され美しく広がる町並みに、その向こうに聳え立つ城。

「……王国、王都でございます」
「国名かよ!!」
馬上でこけつつ、なんてリアクションを見事にこなしつつ突っ込むテッド。
「よく覚えられますね〜」
「国歌かと思ったよ」
「大体それで創世記が覚えられるね……」
「それをどう略すと眞魔国……」
口々に好き勝手な事いう彼らを完全無視し、ギュンターは隣にいるシグールに微笑む。
「いかがでしょう?」
「綺麗な王都だね」

簡潔に感想を述べたシグールが、軽い音を立てて馬の脇を足で叩く。
交通手段が主に馬でそうでなくても類似品だったので、六人はここまで馬に乗って来たのだが、馬に乗れない人物が二名ほどいたので、そちらは現在相乗りだ。
シグールはもちろん乗れるので一人で乗っている。
青毛の馬に。

元々双黒の人間が超高貴な存在とされる眞魔国。
そこの出身の魔族sにとって、シグールは別格の存在らしい。
どうしてもと懇願され、誰も乗れなかったらしい青毛に乗っているのだが。
……鍛えた兵が誰も乗れなかったのに平然と乗ってるってどうなんだろうか。


「ギュンター! 陛下がお帰りですよ」
「えっ!? 陛下がですかっ?」
カツンと馬の蹄の音を響かせ、その場に現れたのは二十代半ばほどだろうか、一人の好青年。
茶の髪は柔らかく風になびき、落ち着いた色の軍服は彼に地味な印象を与えようとしているが、逆に制服以外の印象を強く残す。
銀を細かく散らしたような色合いの目を細め、その青年は開口一番、こう言った。

「驚いた……! 双黒の人物がユーリの他にいたなんて」
「誰そのユーリって」
「眞魔国魔王陛下のお名前ですよ。貴方は?」
「シグール=マクドール」
「俺はテッド」
「僕はクロス」
「セノって言います」
「ジョウイ」
「…………」
「ほらルック」
「……人に聞く前に名乗ったら?」

冷然と言い捨てられた言葉に、青年は苦笑した。
「これは失礼を、俺はウェラー卿コンラート。陛下の護衛役です」
「護衛で陛下を呼び捨てとはフレンドリーだね」
シグールの冷静な突っ込みに、コンラートは微笑する。
「ええ、まあ」
「とりあえず……俺達はどうすればいいわけ?」
鞍も手綱をつけず裸馬に乗ったテッドが問う。
乗る際に散々言われたが、そっちの方が慣れているのだから仕方がない。
「血盟城へご案内しますよ」
「……血の盟約……やな名前だな……」
「あはは、そんなに生臭い話があるわけでもないですが」
笑って爽やか青年は馬の向きを変え、城へと向かった。
気付けばギュンターはいなかった。
……先に城に行ったらしい。










「コンラッド! ……ええっと、その人達は?」
城に入った一行を出迎えたのは、黒髪黒目の年齢――およそ十五、六のあどけない面持ちを残した少年だった。
着ている服の色は黒。
髪の色は黒。
目の色も黒。
黒……という事は。
「ユーリ、例の大シマロンに着地なさったお客様です」
「あー、そっか。えっと、こんにちは。俺、渋谷有利」
そう言って片手差し伸べて来たユーリの手を、ひらり馬上から飛び降りたシグールが握る。
「シグール=マクドールです」
「シグールか! ええっと……人間、だよな?」
「まあ、一応」
首を傾げる魔王ことユーリの、あんまりな印象に毒気を抜かれた一同は、馬上から降りて溜息を吐く。
道中のギュンターによる陛下トークは素敵に聞き流していたが、まさか十代半ばの少年が魔王陛下だとは思わない。

しかも何この、フレンドリーな、というか危機感がないというか覇気もないというか。
「ああぁっ!! この浮気者っ!! 男の手を気安く握るな!」
その時、荒い足音とともにユーリとシグールの間に割り込んできた金髪の、天使と見間違うような美貌と貴賓を持つ少年が、ユーリの手をシグールからひっペはがして怒鳴った。
「ちょっ――ヴォルフラム」
「ヴォルフラム、客人に失礼だよ」
「あっ……失礼した。僕はフォンビーレフェルト卿ヴォルフラム。ユーリの婚約者だ」
一応客六名の方に向き直り、真顔になってそう言った少年。
その様子を見て笑みを深くし、クロスが前に歩み出る。
「そっかー、僕はクロスね。そっちにいるルックの婚約者v」
「違う!!」
真赤になったルックが怒鳴ったが、意に介さない様子でクロスはぶんぶんとヴォルフラムの手をとって振っていた。

「すげぇ……ホモ公認……」
テッドが端の方で呟いたが、誰も聞いちゃいなかった。


 

 

 



***
眞魔国ではホモでもノーマルでも本人が幸せならそれでよろしいのです。
魔王も世襲制じゃないので、問題ないのです。



Well begun is half done.:始まりがよければ半分は終わったも同じ