「Mr.伊達! 熱烈なプロポーズへの感想は!」
「もちろん嬉しいぜ。あんなプロポーズをされるのは後にも先にも俺だけだろうな。細かいことは後日記者会見を開くからその時にしてくれねぇか。今は少しでも早くあいつに会いてぇからな」
「す、すみませんでした! どうぞ!」

さらりと記者達をかわし、政宗は幸村の待つであろう控え室へと向かう。
一人残された佐助は、今のやりとりのそこかしこに、キャスター達には見えていないであろう政宗の本音を感じ取って、ぶるぶると震えていた。

きっとこれから、政宗は幸村と会うのだろう。
そして、幸村が口を開く前に、思いっきり殴るに違いない。
殴るって言ってた。声になってなかったけど。

そのうち上手く記者を交わして、二人してホテルに戻ってくるのだろう。
だったら自分は先に戻っていようと、忙しなく動いている報道記者達に心の中でエールを送って、佐助は会場を後にする。
日本人の世界新よりもある意味衝撃的なニュースが今日本では流されているに違いない。
……ご苦労様です本当に。


携帯を開けば、小十郎からメールが一通。
すでに仕事はとりまとめ、明日の夕方にはこちらへ着くという事らしかった。
「……お待ちしてます切実に」
小十郎さん会いたいよぉ、と切実に呟く佐助は、残念な事に誰にも同情してはもらえなかった。





<代理記者会見>





そして、世界屈指の大企業である伊達グループ次期総裁伊達政宗と、世界に誇るアスリート真田幸村の電撃(?)結婚会見は、次の日の昼に決まった。

「なんで!?」
「……混乱を早く収めるためにはとっとと会見した方がはえーだろ」
せめて小十郎さんが到着してからにしてよと叫ぶ佐助に、もう決まった事だと政宗は哂った。
「……あれ、でも、旦那は?」
「まだベッドで寝てる」
「…………」
ああ、やっぱり昨日なだれこんだんだ。
ていうか政宗上だったんだ。
……そりゃそうか。

世間はたぶん、幸村の方が旦那だと思っていそうだが、このままだと、幸村は腰を庇って記者会見に出る羽目になるかもしれない。
となると、世間的に政宗が上と認識されるような……。
「……てか、まさか政宗、それが目的じゃないよね?」
「なんの事だ?」
口笛を吹く政宗はどこか上機嫌で、やっぱり確信犯かよと佐助は肩を落とした。


そして始まった記者会見。
どこから調達できたのか、しっかり金屏風を背後においた会見場は、それはもう賑わっていた。
そしてその内容は散々なものだった、と後に佐助はさめざめと泣きながら語る。

何しろ、前半はまだ幸村が起きてこられないのをいい事に、政宗がある事ない事(……全部ある事かもしれない。多少の誇張はありそうだけれど)を並べ立て、後半から入った幸村を盛大に慌てさせていた。
しかも。
「せっかくだからここでkissでもしてやろうか? 明日の雑誌と新聞の一面に載せるらしいぜ」
と、開き直っている始末。
楽しんでいるというより、自棄になっている。

さすがにそれはまずい。というか一面がキスシーンってどうなの。
「少なくとも俺様は見たくない!!」
親友と幼馴染のキスシーンが新聞の朝刊の一面を飾るなんて!!

と、キレた佐助は暴挙に出た。
政宗に迫られて「はははははははれんちでごごごごっごごっごござあ」と鼻血を吹いた幸村をすり抜け、開き直ってフェロモン全開な政宗を背後から殴り倒した。

その時の、フラッシュのたかれる音も、メモを取るペンの擦れる音も、人のざわめきも。
すべてが消えた空間が、怖かった。


「佐助! 政宗殿になにを」
「旦那も黙っていようか。ね?」
キレた佐助は怖かった。鼻血を出したまま咎めようとする幸村に笑顔で一撃を食らわせ、政宗ともども床とナカヨクさせた。
ゴン、という鈍い音が、異様に静かな会場に響いた。

「……え、ええと」
「あ、すみません会見途中で終わらせてしまって」
ぺこり、と頭を下げる佐助に、いえいえと思わず記者達も頭を下げてしまう。
しかしそこは記者魂というものか、二人を引き摺って出て行こうとする佐助を引き留め……佐助による、政宗と幸村の結婚記者会見が始まっていた。
なんで俺様が、と思ったけれど、本人達に任せるよりも、心労は少ないかもしれないと、このあたりから佐助も開き直っていた。
なにより二人の事を洗いざらいぶちまける、意趣返しのいい機会でもある。
というわけで。
「ご関係は?」
「二人の母親のようなものです」
「え……ええと、母親?」
「幸村は中学から、政宗は高校から面倒みてます」
「は、はあ。なるほど。ええとお二人の付き合いはいつごろから? きっかけは?」
「高校の時から無自覚でいちゃついてましたねーあの二人は。自覚したのは大学に入ってからかな」
「なるほどなるほど。日頃はデートとかしてたんですか?」
「勉強会とか入れていいなら結構? てか毎日同じ教室いましたからねー。大学に入ってからは、休日は大抵政宗のとこにいたと思います」
「へえ、あ、告白はどっちからなんですか?」
「それは教えてもらった事ないからなー……あ、でも自覚したのはたぶん政宗のが先だと思います」
「今後はどうなると思われますか?」
「これ、あの二人の結婚記者会見じゃないの?」
「まあそうなんですけど、今後どのようにしていくかという意味で。すれ違い生活になりそうですしねえ」
「一応携帯とかメールあるけど……まあ、会ってる間濃厚なら大丈夫じゃないですかね?」
「なるほど。ありがとうございました」
「いえいえ。これからも温かく見守ってあげてください」

こうして伊達政宗と真田幸村の結婚会見は、とても和やかな終わりを迎えた。


 

 

 



***
小十郎に「……なにやってんだ」と呆れられそうですね!