<夏だ!>
 



「プールでござるぅぅぅぅぅぅぅ!!」
「……Shoutするな幸村」
目をきらきらさせて叫ぶ幸村の後頭部を叩いて政宗が止めた。
八月末でそれ程多くないとはいえ、プールサイドにはそれなりに人もいる。
プールサイドで叫ぶ大学生が目立たないわけがない。

「……ああ、いきなり人様の注目浴びちゃってるよ……」
「人込みでごった返す時期でなくてよかったな」
「まったくです」
頷いて、佐助は持ってきたビニールシートをパラソルの陰に敷いて荷物を小十郎から受け取った。
有料のレンタルスペースは、パラソル一つと寝転がれるタイプの椅子が二つの広さだ。
六人だから隣同士のところを二つ借りて、その片方を荷物置き場にする事にした。
有料スペースだなんてもったいない! と思ったが、せっかくレジャーランドに遊びにきているのだから、この際気にしない事にした。
それに、ほとんどは小十郎持ちだ。

「二人とも、ちゃんと日焼け止め塗らないと後が酷いよー?」
「某は平気でござる!」
「俺は塗る」
散々走ってすでに真っ黒な幸村を放って政宗がスペースに戻って来た。
日焼け止めを渡して、隣のスペースで揉めている二人にも一応声をかけておく。

「そっちの二人はどうする?」
「我はいい。ここから動く気もない」
「ほんっとーに泳ぐ気ねーのなお前」
「最初から言っておろう」
椅子に座って持ち運び用のノートパソコンを開いている元就に、元親が呆れていた。
佐助としてはむしろ元就が付いてきただけでも驚きだと思う。
日にたまにはあたらないと苔が生えると元親が半ば無理矢理に引っ張ってきたらしいが。
「それに十分以上陽の下にいたら倒れるわ」
「そんな虚弱体質聞いたことないぞ!」
ああでも元就ならありえる。十分どころか五分でも危ない気がする。
とこっそり思った佐助だった。

「小十郎さんも塗る?」
「いや、俺はいい」
「佐助ー背中頼む」
「はいはい」
政宗の背中に塗ってやると、Thankと言い残して政宗は待っている幸村の元へさっさか行ってしまう。
その間に幸村はボート型の浮き輪を借りてきていて、どうやら波のあるプールにいくらしいと分かった。
「俺様を待つって事はしないのねあの二人は」
やれやれ、と肩を竦める。
「俺達も行こうぜ佐助」
「うん」
「荷物の見張りは我がしておく」
「俺も当分はここだな」
「わかったー」
それじゃああとよろしくー、と手を振って、佐助は意気揚々と元親と一緒に二人の後を追った。

諸々の諸事情でプールに入る機会がほとんどない佐助にとって、今回のプールは非常に楽しみだった。
学校だと上半身を出さないといけないが、ここであればTシャツを着ていたところでそれほどおかしくないし、丈の長い水着を履けば足の半分は隠れる。
思いっきり泳げるなんてそうそうないから、今日は目一杯楽しもうと。

思っていたわけだが。





「…………」
「生きておるか」
「……カロウジテ」
元就に気遣わしげな声をかけられるだなんて、どれくらいレアだろうか。
ぐらぐらする頭で考えながら佐助は椅子に寝そべって撃沈していた。

プールは楽しかった。
楽しかったが、いつもよりテンションがあがっていたのと、普段プールに入らないため自分の限界とかそういうものを計りきれなかった佐助は、日射病でぶっ倒れた。
……厳密に言うと、ボートに乗せられて波の出るプールを三人に引き回されたら波に酔った上に直射日光でへばった、と言った方が正しい。

考えてみれば、普段から炎天下で走り回っている幸村や、ジムに通っている政宗や元親と違って、佐助は元就に近いインドア派だった。
もともとの体力値が違う上、畑を手伝う時はきちんと帽子を被っていたから、直射日光にはあまり慣れていないのだった。

「おい」
「あー……片倉さん」
「ほら、飲め」
「……きーもちいいー」
首筋に当てられたペットボトルの気持ちよさにうっとりと目を細める。
水で塗らしたタオルを首筋に巻いたまま、起き上がってスポーツドリンクに口をつけた。
ぷはっ、と半分程を一気に飲めば、少し胸がすっとした。

「あーもう俺様最悪」
「そんなに遊べないのが悔しいのか」
「それもあるけど。なんかせっかく皆が楽しんでるのに水差した気がしてさ」
現に片倉さんプール全然入れてないじゃない。

ペットボトルを顎につけて憂鬱そうに溜息を吐いた佐助の頭に小十郎が手をおいた。
そのまま思い切り撫でようとして、揺らすのはまずいと判断したのか、数秒でそのまま手は離れていく。
「気にするな。俺はもともと入るつもりはなかったしな。あの三人は三人で気にせず遊んでるだろう」
ほれ、と顎で示されれば、遠くから聞き慣れた叫び声が聞こえてきた。
……ウォータースライダーをやっているらしい。

「どうせ奴らは昼を食べた後も遊び足りぬとばかりにまた泳ぎに行くであろう。これくらいの途中休憩を挟まねばあの体力バカどもにはついていけぬよ」
元就にまで言われて、佐助は思わず噴き出した。



 

 



***
半実話。インドアでごめんなさい。
一番怖かったのは、ダントツでプールのスライダーでした。