<世界の中心で愛を誓った>




『今……今、まさに、NIPPONの選手が一つの歴史を新たに刻もうとしています……!』
感動に震えるリポーターの声が、全世界に中継されている。
トラックの最後の一週をしようとしているのは、赤い風だ。
その姿が確実に、白いゴールテープへと近づいていく。
『残り50……30……10……』
固唾を呑んで世界が彼の一歩一歩に注目する。
堂々と提示されている時計が、一秒一秒時を刻む。
まだ、時間がある。
まだ……

白いゴールテープに、体が触れた。

『ゴ、ゴォール!!! や、破ったぁ!! 記録の壁を破って……せ、世界新記録で優勝ー!!』
リポーターが絶叫する。だがその声は会場の拍手喝采にかき消された。
直ちに各国のテレビ局や新聞会社がそのニュースに飛びつく。
『並みいる強豪を打ち倒し、世界新記録を樹立したのは……NIPPONのYUKIMURA SANADA!』

YUKIMURA SANADA。
その名前を全員が心に刻む。
新しい英雄、新しい王者。



「真田選手! 金メダルおめでとうございます!!」
リポーターが突きつけてくるマイクに、たった今42キロ以上を全力走ったはずの幸村は爽やかな笑顔で答えた。
「応援、ありがとうございました!」
「お、お疲れじゃないですか?」
「大丈夫でござるよ。座って失礼するでござるが」
タオルを首にかけ、ペットボトルを手にした幸村は曇りない笑顔で答える。
「真田選手、力強い走りでしたね!」
「一歩一歩の精進が、実を結んだでござる。それも皆様方のおかげ、今日の某は某一人で成ったものではござらぬ」
かたじけない、とカメラ相手に深々と頭を下げる幸村に、各国のリポーターはざわついている。

「そして世界記録! 日本人では破れないといわれていた壁を破りましたね!」
「某は時間をあまり意識してなかったので……さっきコーチに聞いて驚いたでござるよ」
にこりと少年のような微笑を見せた幸村に、リポーターも小さく笑う。
「それにしても世界選手権、ニューヨークシティ大会とあわせての堂々の三連覇!! 今回も閉会式の旗手を務めますし、押しも押されぬ日本の代表アスリートでもあります! 今後の抱負はなんでしょうか!」
「もちろん、次の大会の優勝でござる! オリンピックの金はとてもとても重いもの。されど金一つに変わりなし! この真田幸村、更なる邁進をする所存!」
今頃通訳する人たちは困っているんだろう、と思いながらリポーター(日本人)は幸村に負けず劣らず爽やかな声でインタビューを締めくくりにかかる。

「以上、我らが真田幸村選手でした。真田選手、何か一言ありましたらどうぞ」
「私事だがよろしいか」
「ええ、いいですよ」
かたじけない、と呟いて。
彼の表情がそれまでの爽やかな笑顔から、妙にこわばったものになる。
何か悪いニュースでもあるのだろうかと、リポーターが構えた時だった。

ゆっくりと下を向いて、それからきっと顔を上に上げる。
そのままザッと立ち上がったので、カメラは慌てて彼の顔を追いかける。
真っ直ぐにその目をカメラへ向け、幸村は口を開いた。


「伊達、政宗殿」
震える声で、けれど笑顔で。
「某、真田幸村と、結婚してくだされ」







思わずリポーターもカメラも日本全国の視聴者も仰天した。
ちなみに観客席にいた政宗と佐助も仲良くコーラを噴出した。
「あのあほがぁああああああああああああああああ!!」
絶叫したのは政宗だ。ちなみにコーラの入ってた紙コップは握りつぶされている。
突っ込む言葉もなく頭を抱えたのは佐助だった。当然至極の反応だろう。

客席に向けてでかでか表示されたスクリーンの中では、頬を染めた幸村にリポーターが何とか突っ込んでいる。
『え、ええと、金メダルとで二倍におめでたい話題ですね!』
『給料三か月分と言うが、某の給料では足りぬので、金を三つ取ったのです!』
誇らしげに言った幸村は確かに前人未到と言われていなくもない偉業を成し遂げている。
原動力は、ソレか。
「やっちゃった……全世界放送でやっちゃったよ……!」
どうしようと蒼白になった佐助の横で、仁王立ちで絶叫した政宗がばたばたと右手からコーラを流しながら呟く。
「やりやがった……後先考えずにやりやがった……どういう躾してんだお前!」
見事な責任転嫁に佐助も黙ってはいない。
「俺様じゃないよ! なんで俺様のせいなの!?」
「お前が世話してたらこうなったんだろうが!」
「世話してたのは政宗もでしょうが! 自業自得だよ自業自得っ!!」



観客席で彼氏?と母親?がそんな責任の擦り付け合いをしているとも知らず、言いたいことを言い切った幸村はご機嫌だった。
本当はすぐに観客席に飛んで行きたいが、競技が終わるまではそれは叶わないのは分かっているので留まっていられるのだ。
「え、えーと、あの……」
驚愕な歴史的瞬間(たぶん)を見てしまったリポーターは、おずおずとマイクを幸村に向ける。
「伊達政宗ってあの伊達政宗さんですか? 伊達グループの?」
「そうでござるよ。他の政宗殿は某は知らないでござる」
そりゃそうですよね、とその場の空気でうっかり納得してしまったリポーターは良かったが、彼が勤めているテレビ会社のディレクターはそりゃもう大変なことになっていた。
というかすべてのテレビ会社が大変なことになっていた。

「放送時間延長! 次の競技はしばらくやらん!」
「誰か日本に飛んで裏とってこい裏!」
「確か大学が同じだったな! その頃からの縁か!」
「なにぃ、同じ高校出身!?」

てんやわんやの戦争状態に突如投げ込まれたメディアの皆さんには頑張ってもらうことにして、ここに、全く違う頑張りを要求されている二名がいた。
そう、思わず喧嘩を始めたがそれどころじゃねぇやと正気に戻った二名である。
「……佐助、悪ぃが俺は今すぐ帰国する」
「そうだね、俺様も超帰りたい」
引きつった顔で政宗が言えば、顔を両手に埋めて佐助が呟く。
鞄をすでに手にした政宗は、速攻で踵を返そうとする。

そこで、スクリーンから不吉な言葉が聞こえてくる。
もちろんカメラは未だに幸村を大写し中だ。
『あの……そろそろよろしいか。その……返事を、聞きたいので』
携帯片手に頬を染めた幸村に、そ、そうですよね!気になりますよね!とリポーターは答える。
しかしマイクを下げてくれたのはリポーターだけであり。カメラちょっと離れたところで以前として幸村を写し続けている。
「……政宗」
「……what」
「大丈夫、政宗はイケメンだし今日は格好もバッチリだし、髪形も決まってる」
「Shut......shit」
政宗の携帯が震えだす。音はでていないので会場の喧騒で周囲には全く聞こえない。
だがその不吉なバイブ音は、佐助と政宗の耳には何よりよく届いた。

「政宗……どうするの?」
「…………」
手の中で震える携帯を政宗は無言で見下ろす。





一方こちらはディレクターs再び。
わさわさといる各国の記者やカメラマン達は、基本的に連係プレイをおこなったり行わなかったりである。
だが今回、彼らの心は一つだった。
「会場内にいますかね!?」
「わからん! だが携帯を持った奴を探せ!」
「まだ会話を始めていません! あっ……電話を取ったようです!!」
血眼になって会場を見回していたスタッフに、別のスタッフが自分の携帯から顔を離して叫ぶ。
「チーフ!! アメリカのカメラ#4が捕らえました!! うちのカメラ#2から十時の方向、紺のジャケットを来た眼帯つけた伊達男!!」
「よし、パンしろ! 生中継だな!?」
「大丈夫です!!」




『政宗殿……あ、あの、その……』
「幸村」
周囲はまだ喧騒の只中だったが、次の瞬間スクリーンに自分の姿が映されて政宗は溜息をついた。
さすがオリンピック、カメラワークのレベルも……関係ないか。

一斉に周りがこちらを振り返る。その視線はなんともいえないが、とりあえず居心地は悪い。
しかしソレをおくびに出さず、穏やかな声で続けた。
「Greatなプロポーズ、ありがとうよ」
『あの、そ、その……み、見てくださいましたか!』
「Of corse! 俺が見なくて誰が見るんだ?」
『あ、あの、あああの、それで!』
上擦った幸村の声にクスクス笑って、政宗はどこから撮ってるかよくわからなかったが、とりあえずカメラに向かって親指を立てた。

「Good job, baby. もちろん答えはYesだ」
『ま、政宗どのぉおおおおおお!!!!!』
おぉおおおおおおお! と続く受話器から耳を離して、政宗はぽちりと通話を終了させる。
「……佐助、小十郎に連絡。俺の有給追加」
しばらく帰国できそうにねぇわ、と投槍に言うと、はっはっはと乾いた笑いをもらして佐助は両手を上に上げた。
バンザイじゃなくてお手上げの意味だ。
「小十郎さんからメールきてるよ……、全業務持ってこっちに飛ぶってさ!!」
「……Oh, my……」
青々と晴れた空を見上げて、政宗はそう呟くしかなかった。




 

 


***
この後リポーターに殺到されたのを
華麗な笑顔でちぎって投げて
幸村引っ掴んでお仕置きだと思います。




TVでこの様子をみていた元親は爆笑(元就は失笑)
元親「あははははははやっちまったな−!!」
佐助『……俺様その場にいたからまったく笑えないけどね』
元就「感動的ではないか。我はごめんだが」
佐助『誰だってゴメンだよ!』

電話越しに佐助の悲鳴が聞こえましたby元親
週刊誌が愉快なことになってるぞby元就