<十年越しの片思い>
ゼミが終わった途端、そんじゃな、と荷物を持って立ち上がった元親に、それまで同じデスクを囲んでいた友人達が半笑いで声をかけた。
「なんだよー」
「前みたいにどっか行こうぜー」
最近付き合い悪いじゃん、と言う彼らに、元親は笑みというよりもにやけと言った方がしっくりする表情で、さっくりと言った。
「やっと本命とくっつけてさ!」
「……やっと? アレお前本命いたの? いたのにアレだったの?」
「いたの!」
元親は力強く肯定したが、今までそんな素振りを一切見ていなかった友人からすれば、まさに晴天の霹靂だった。
あれだけ散々派手に遊んでいたから、本命を作らない主義かとさえ思っていた。
遊び人に見えて、本命には固かったのか。
逆に匂わせないあたりが、元親の本気を垣間見せている気がしなくもない。
一人が興味津々といった様子で身を乗り出した。
こんな面白いネタを黙って見送るつもりはない。
「だれだれ〜、大学のコ?」
「でもチカが大学でつるんでるのって俺らと毛利ぐらいしかいねーじゃん」
顔の広い元親だが、実際つるんでいるのは、両手の指で足りてしまう。
その中で遊びを抜きに元親と付き合いのある女子は、それこそ片手でも指が余る。そして彼女達にはしっかり彼氏がいた。
学校にいる間はそれこそ自分達か毛利か、他学部の伊達達(目立つので学校中で知られている集団)と一緒にいるので、知らないところで会っているというのはなかなかない気がする。
なによりそんな事があったら、目撃情報があるはずだ。なにしろ元親だって目立つのだから。
となるとバイト先か、とアタリをつけた友人達に、焦らすでも照れるでもなく、元親はあっさりと正解を口にした。
「え、ナリ」
「………………は?」
「いやいやいや、落ち着け。毛利元就は男だ。オトコ。male。オス。生物学的にお前と同性」
「わかってるよ。ちっせー頃に一緒に風呂入ったこともあるからついてるの知ってるし」
「……そういや幼馴染つってたな」
変なところで納得してしまった。
まあ、正直納得はしてしまう。
性格はドSだが見た目は綺麗目だし、線も細い。
元親と並ぶと結構いい感じだし、と普段からどつかれている元親を思い出して、ああ結構お似合いかもと思ってしまった。
「アレ? でも幼馴染ってことは、長期片思い?」
「十年くらい?」
「…………」
十年。
十年片思い。
そんでもってこの間ようやく付き合いだして……。
どんだけ長いんだ。それ。
ガタリと友人達は席を立った。
そして、元親の背中をぐいぐいと押して、教室から追い出した。
「アホかお前は!!」
「オレらと遊んでる時間勿体ねぇ!!」
「今すぐでてけ! そんでもって仕えてこい!!」
「お、おう」
「ノロケ話なら今度たっぷり聞いてやるからなー! むしろ聞かせろよ!」
ひらひらと手を振って、元親を見送った。
微妙に戸惑いながらも、すぐに上機嫌そうに去って行った元親は、どうやら幸せ絶頂期らしい。
そりゃあ十年越しの片思いが実れば、嬉しくもなるだろう。
机に戻って、友人達はやれやれと笑みを交わす。
「そういえば毛利が声かけたら元親ぜったいそっち行ってたな……」
「昼飯はいっつもあいつと食ってたし……」
「あ、なんか宿舎追い出されて毛利んとこに居候していた時期もあるって」
「「………………」」
なんで気がつかなかったんだろうか。と今更にちょっと思った。
***
付き合いだしてすぐの頃。