気のせいではない。
片倉小十郎は三度目にしてようやく確信を持ち、というかようやく認め、溜息を吐いた。
「ん、どうしたの片倉さん」
向かいで微笑んだ恋人(同棲中)を睨みつけ、新聞をたたむ。
「さっきから人のことじっと見てきて、なんなんだ」
「えー、いいじゃん」
「…………」
「片倉さん、男前だし」
「…………」
「俺様ほら、こ、恋人だし」
「…………」
「片倉さんが家に昼間いるの久しぶり、だ、し……」
「…………」
無言の小十郎にだんだん声が小さくなっていった佐助は「ゴメンナサイ」と呟いてうつむいてしまう。
そんな顔をさせたかったわけではなかったので、小十郎は眉を寄せた。
「違う」
「え、っと……すみません!」
「そうじゃねぇ。理由を聞いてるだけだろうが」
なんで怯える、と困惑したような声に驚いて佐助が顔を上げると、眉間に皺を寄せた小十郎がいた。
一見怒っているようで……いや怒っているようにしか見えないのだけど、確かにそれは片倉小十郎の「困った」顔だった。
「あ、あのね……ほんとにね、片倉さんがね」
口に出すのは恥ずかしいけれど、彼が困っているのだから話すべきだ。
腹をくくって佐助は口を開く。
「かっこいいな、って、思ってただけだから……あのね……」
話しながら頬が染まるのを自覚した。なにこれ、超恥ずかしい。
「……もういい」
ぼそりと呟かれた言葉に怒らせたと思ったのか、佐助の肩が跳ねた。
小十郎が立ち上がると、迷うように視線をさまよわせる。
そんな彼の肩をつかんで動けなくして、もう片方の手で顎もつかんで引き上げた。
「………………Stop. そこから先はいい」
仕事の手を止め、政宗は手のひらを佐助へ向ける。
やめろの意思表示に、佐助はえーと眦を下げた。
「このあと片倉さんがね」
「聞きたくねぇ」
ばっさり切り捨てて、視線はもう手元だ。
「キスしてくれてね!」
「バカでもわかるだろうがそんな展開!」
いらんこと言うな、と溜息を吐いた政宗に、えへえへと笑う佐助はクッションを抱きしめて顔をうずめる。
「もー、片倉さんカッコイイ!」
「聞き飽きた」
「片倉さん男前!!」
「それも耳タコだ」
「片倉さん最高!」
「はいはい」
政宗! と佐助は叫んで頬を膨らます。
「やめろ、いい年して」
「聞いてよ!」
「興味ねぇよ。小十郎がcoolなのは俺が一番よくわかってるぜ。Okay?」
「ちょ、これは政宗だって知りえない情報だよ!? 俺様がにこにこしちゃうスーパー情報だよ!」
「……All right. しょうもない話だったら容赦しねぇぞ」
やっとまじめに話を聞きそうな態度をとった政宗に、佐助はにこにこしながら言った。
「黒だよ黒」
「……what?」
「黒Tシャツだよ! 昨日片倉さんが珍しく着てたんだけどさあ、シャツからのぞく二の腕にさあ、こう筋肉がついててさ。しかもやけてて肌の色濃いじゃない? それがまたよく黒に似合っててさ! ふつーのシャツとは違うね、黒Tシャツって特別だよね!」
ね! と身を乗り出した佐助に政宗は半目を向ける。心底どうでもよさそうだ。
やばい、これは容赦しないコトされる。そう察して佐助はあわてて付け足した。
「だ、だからさ、旦那にもきっと似合うよ黒Tシャツ!」
政宗はうんともすんとも返さず。
なんとも気まずい沈黙が間に落ちた。
「……さすけ」
「なななななにかな政宗!」
「珍しく苛ついた」
「ごご、ごめんなさい!」
No problem, と政宗は笑顔になる。
そりゃあもう背筋が粟立つぐらいにきれいな笑顔だった。
ゆっくりと勿体つけるように人差し指を佐助に突きつけ、この部屋の主は歌うように言った。
「明日から一週間、好きなだけバイトを入れろ」
「な……なん、で?」
「明日からの俺の出張に小十郎を連れて行く」
ひ、と佐助の顔が引きつった。
「い……いっしゅうかんも!?」
「That's right♪」
横暴ー! と絶叫した佐助に、It's destiny. と政宗は言い切った。
そんなうんめい、あんまりだ。
***
黒Tシャツを着た筋肉質な色黒男子 の二の腕 にときめいたのは私です。
なんといううっかり。
そして重要なのは「二の腕」。
腕から肘。
佐助はもちろんキスの後に美味しくいただかれています。
こじゅうろうさんはそこんとこぬかりないよね!