<破廉恥な話>
うららかな初夏の日差しの中だった。
授業が休講でぽっかり空いた元親が芝生でごろついていると、頭をぽんと何かで叩かれて振り返ったら政宗がいた。
サボリ? と聞けば「あんなクソ授業誰が聞くか」と笑顔で返されたので彼はサボリだ。
「よくわかったなー」
「目立つんだよ、silverがな」
「あー……」
頷いて髪に手をやる。
たまに誤解されるが長曾我部はアルビノとかではない。ので日光浴は平気だ。
これは先祖返りの一種らしく、目の色も人とはちょっと違う。
「髪だけじゃねぇよ、pankなファッションしやがって」
「イヤミにブランドの服の政宗もどーかと思うけどな。今日のファッション全部で幾らよ」
「…………かわいそうな頭だな。靴と時計以外はてめぇでも買える駅前の店だ」
「あれ」
しばらく黙って二人で日差しを浴びる。
芝生で同じく日光浴していた小さい生き物が、何かを求めてこちらへ歩いてきたところで政宗が口を開く。
「なあ、チカ」
二人並んで腰をおろして、足元に擦り寄ってきた野良猫の喉をうりうりと撫でながら、政宗は尋ねる。
「なんだ政宗」
「お前元就と幼馴染ってマジ?」
「ああ」
元親も政宗に習って猫に手を伸ばすと、フシャーと威嚇される。
なんでこいつだけ……と呟くと、動物の扱いは慣れてるんでなとか涼しく返された。
「俺としては同族が判るのかと」
お前猫耳と尻尾つけたら似合いそう、当然黒で。
そんなささやかな戯れに、政宗は柳眉を上げた。
「てめぇこそ似合いそうじゃねーか。これ」
頭の上に片手を持ってきて、ぴょいぴょいと曲げる仕草に元親は顔をしかめる。
「兎かよ」
「お似合いだぜえ」
けらけら笑った友人に蹴りを入れるふりをすると、ふにゃあと猫が鳴いて政宗の膝の上に飛び乗る。
そこでぷるぷると首をふってから、まったりと膝の上に落ち着いた。
「何でそんなこと聞くんだ」
ぐるぐると喉を鳴らす猫の身体を撫でながら政宗は答える。
「Little bit、意外でな」
「そーか?」
「まあ、じゃあ幼馴染のお前に聞くんだが」
ぽん、と猫の背中を軽く叩いてあやしながら、政宗は普通に、本当に顔の筋肉一つ動かさず、さらりと聞いた。
「あいつオナニーのオカズなに使ってんだ?」
「ぶっ! ごはっ、げほっ、がはっ」
噴出して突っ伏して上半身を折り曲げて咳き込む。
大丈夫か、となんだか普通に聞かれて目尻の涙を拭った。
「知るか!!」
「ほんとにか」
「しらねぇよ! だ、だいたい元就ってそんなカンジじゃねぇじゃん!」
「お前はあの根暗にdreamを見すぎだ。健全な18歳のオトコならヌいててとうぜ」
「ああああああああ!! 聞こえません何も聞こえないきーこえーなーい!」
耳をふさいで芝生に転がる。
今は授業中である。
真昼間である。
というか昼前である。
何言ってるんだこいつは!!
「直接聞くとかわいそうだからてめぇに聞いてやったんだが」
「恩着せがましく言うな! 純粋に興味だろうが!」
「That's true, thou not all」
「……まさむね、おれ、英語ワカンネ」
へらりと笑った元親の足を笑顔で蹴って、政宗は同じく芝生に転がった。
顔をちくちくと葉が刺す。
「俺はヒトを見るのが好きでな」
「はあ」
唐突な独白に戸惑ったような顔をしてから、元親は政宗のほうに顔を向ける。
「それを知ったらちったぁアイツのことが判るかと思ってよ」
「えーと、なんかいい話にもって行こうとしてちげーよな?」
「なんだ、smartだなチカのクセに」
馬鹿にしたように笑われて、元親は左目を細めて苦笑した。
「相変わらず素直じゃないこと、政宗は」
「俺ぁいつでもinnocentだぜ」
「……うっわぁ、日本語で言ったら死ぬほどハズくねぇーかそれ」
「気のせいだ」
そろそろいくか、と立ち上がった政宗に、どこに? と首をかしげる。
次の授業までまだ時間がある、というかまだまだある。
「Work.二束の草鞋だからな」
「へー、じゃあ今度の給料で食べ放題つれてって♪」
冗談で強請ってみると、それぐらいならな、と笑われた。
「……え、政宗さん、お給料幾ら?」
政宗はけしてケチではないが、もちろんそれほど奢ってくれるわけではない。
その彼があっさり頷いたというのはどういうことか。
なんとなく聞いた後で怖くなって、やっぱいいわーといおうとしたのに、政宗が笑顔で腰をかがめて、座ったままの元親の耳元で。
え、それ、給料? みたいな額を呟いてくれた。
***
政宗さんは会社運営を手伝う傍ら学生ですので、学生は適当にしかやってません。
元親さんは実家はでかいですが金銭感覚はむしろ貧乏です。