<青春時代>



ざわりと開場がざわつく。
搬送指示に忙しい元親は気がつくことなぞなかったし、元就は我知らぬ顔で闊歩していた。

「げっ……高3でも出るのかよ……」
「どうしたんですか先輩」
全国大会連続参加者の強豪校の一人が、隣で準備していた他校の知り合いに話しかける。
「あいつらが出たら今年も優勝できねぇ!」
「くっそ……俺達の代はツイてねぇ……!」
「先輩?」
初めてきた一年生に、良く覚えておけよ、と涼しい顔で歩いていく細面の青年を指差す。

「あいつが毛利元就、プログラムをやらせたらプロも顔負けの天才。で、あっちが長曾我部元親。ロボットのボディは一パーツから研究してくみ上げてるこれまた天才。二人タッグでチカナリコンビ。中学校時代から無敗完勝の伝説持ち」
もう嫌だと三年生は肩を落とす。
「いくら何でもあいつらレベルが違いすぎるんだよ……」
「そうなんですか?」
「……全国いった高校同士での交流日が去年あったんだけどよ、酷かった」

大会内容は、ボールや小物を運んで入れる、という内容だった。
交流日は小物のサイズや掴みやすさがいろいろかわり、各校が「うわあ、つかめない!」と笑う会になっていたのだが……
「……チカナリコンビは、オートでやりやがったんだ」
「はい?」
「だからオート。他の学校が手動で苦戦してる中、最後にやってきてオート。俺らが絶句する中、長曾我部はコントローラーに手を触れないまま終了。そして颯爽と立ち去った。三年の先輩は、号泣してたな……」

チカナリコンビは圧倒的な実力者だ。正直、また会いたくはなかった。
ため息をついて自校のロボットの調子を見る。
「まあ……上位三校が全国大会に出場できるからよ、二位か三位になればいいんだ」
頑張ろうぜ、二位。
そう言ってたそがれた先輩の言葉を、一年生達は正しく理解することになる。










「ふん、コントロールがなってない」
「無茶言うなよ! お前昨日勝手に弄ったろ!?」
ぶっちぎり優勝を果たしたチカナリコンビは、帰り支度をしながらお互いぎゃあぎゃあ叫んでいた。
「正確無比なコントロールがなければデーターが取れぬ」
「……またアレやるの? 去年の交流日、数名マジ泣きしてたんですけど」
「それが?」
元就ぃ、と元親は苦笑して頭をかく。
「お前の腕には感謝してる。っつーか俺が引っ張り込んだのに付き合ってくれてマジ嬉しい。だけど大人げねぇだろ、さすがに」
元就の興味は主に人工知能にある。その開発のためにロボットが使えるならという理由で手伝ってもらってはいる。だから去年の出来事はある意味約束どおりではあるのだが。

さすがに、あれは。
と泣いている先輩をみながら長曾我部元親は思ったわけである。
「だから今回はさ」
言いかけて、背中を向けていた彼が手を止めて振り返ったから驚いた。
切れ長の目に真っ直ぐ見上げられる。
「お前は、このようなところで満足なのか?」
「え?」
「……愚かな駒が、ぎゃあぎゃあ指図するな。片しておけ」


さっさと立ち上がって立ち去られ、元親はぽかーんとしたままそこ場に座り込んでいた。







苛々する。
元就はコートを羽織って開場を突っ切る。
「あ、先輩! アニキはどうしました?」
たたたと走ってきた後輩に、あの愚か者ならば荷物の整理だと答えると、では手伝ってきますと走り去られる。
(不愉快だ)
眉を寄せ、元就は会場を出るために足を速める。

(大人げない、だと?)
これはれっきとした競技だ、競争だ。
もてる力をつぎ込み高みを目指すのをなぜ躊躇う。

中学生に上がった時に、すでに簡単なプログラミングで遊んでいた元就は、幼馴染の元親に久しぶりに再会した。
紆余曲折あったが、といかく彼に誘われて飛び込んだロボットの世界は自分が将来的に目指すものとは少し違っていたが、面白かった。
二人で相談して喧嘩して、一つのものを作り上げていくのは面白かった。

元就が元親と同じ高校に進学したのは、それを続けたかったからだ。
そして高校三年間もあっという間に過ぎて、これが最後の大会で。
大学でも同じことをしたいのなら、もっと高みを目指さなくてはいけなくて。
(……お前、は)
コートを掴んでいた指に力がこめられた。


(続けたくないのか)

これからももっと、一緒に。






 

 

***

あれ。まさか最初がチカナリ。


チカナリはプラトニックにラブラブですが別にそうでなくしても構いません。
ここはオクラが我慢できなくなるパターンな気がする。