<雨の戦いの場合>




昨晩のあのなんともいえない戦いを乗り越えた彼らは、今日の雨戦はきっとまともな戦いになるだろうと思っていた。
だってお互い剣士だ。
なによりスクアーロは頭が固そうだし、そんなパイナップルとか投げるような戦いにはならないに違いない。

ステージは、最早原型をほとんどとどめていない校舎。
今日も観戦に来ていた雲雀がそれを見て「噛み殺す」と言わないだろうかとひやりとした綱吉だったが、雲雀はチェルベッロに「直るんだよね」と確認を取るだけで、実力行使には出なかった。
なんだか雲雀さんが穏和だぁ、と思ったのは内緒にしておく。



そして始まった試合。
剣帝の名を有するスクアーロに一歩も引けを取らない山本の勇士に、綱吉達は夢中になっている。
「クフフ、なかなかやりますね山本武」
「まああれくらいはな……ってなんで普通にいるんだよお前」
「僕だけ仲間はずれなんて酷いじゃないですか!」
「無様な負け犬が」
「なんですってこの鳥頭!」

「……雲雀さん、全然穏和になってなかった」
ああでも殴り合いにならないだけいいのかなぁ、と綱吉はどこか達観しているようだった。

その間にも試合は進む。
スクアーロの剣戟を掻い潜って山本が剣を一閃させる。
しかしそれはスクアーロの肌を浅く切るだけで、決定打にはならなかった。
『さすがなのなー』
『ガキに負けるほど落ちぶれちゃいねーぜぇ』
カメラの音声機能から二人の声が流れてくる。
「山本、楽しそうだなあ」
「こんな時でも楽しめるとは、やっぱりあいつはこっちの世界に向いてるな」
「嫌な分析しないでよリボーン!」

二人の打ち合いは更に激しさを増し、水飛沫が絶えず立ち、カメラの視界を遮る。
「……そろそろ十分すね」
「山本……」
獄寺が手元の時計を見て告げた。
十分で獰猛な生物が放たれるという。
その前に決着がつけばいいのにと思っていると、カメラの向こうで動きがあった。

山本の突きがスクアーロの胸元を擂り、首に提げていたハーフボンゴレリングの鎖を切った。
かつん、とコンクリートに跳ね返ったそれをキャッチした山本が笑みを浮かべる。
『オレの……ち……』
『す……取り返……』
「……あれ?」
「音声回路がショートでもしたんでしょうか」
二人は何か喋っているようだったが、スピーカーからはやがて耳障りな電子音しか流れなくなった。










「まだやんのかー?」
「……いや」
楽しそうな山本の声に、スクアーロは微妙に注意を足元に向けながら答える。
カメラの音声回路をショートさせたのは半ば二人の意図的なものだったので、軽口の応酬になりつつある。
「てか、そろそろ十分じゃね?」
「……みてぇだなぁ」

だんだんと、気配が濃くなる。
血の匂いをかぎつけた何かが少しずつこちらに近づいてくるのがわかって、スクアーロの目がぎらりと鋭くなった。
「じゃあ俺はこのまま水に飛び込んで、今度こそあのクソ鮫をヒラキにしてくるぜぇ!!」
「え、は、ちょ!?」
「リングはてめぇの好きにしろぉ!!」
そう言い捨てて、スクアーロはコンクリートを蹴って、行ってしまった。
リング<鮫への復讐らしかった。

「……まあ、いっか」
とりあえずは俺の勝ちなのな、と山本はリングをひとつに嵌めなおしておいた。










「…………」
「…………っ」
「……く……は……」
「だめ……死ぬ……笑い死ぬ……」
山本の勝利が確定しても、すでに海洋生物は放たれている。
もう決着が付いただろうと叫ぶ綱吉は、その直後、水中に自ら飛び込んでいったスクアーロに唖然としていた。
事情を知らない全員が目を点にしているなか、事情を知る者達は別の意味で死にそうだった。

綱吉達は画面に釘付けで気付かない。
気付いて視線を向けていれば、世にも珍しい、爆笑するXANXUSが見られたはずだった。
「バカ? バカなの?」
「……まあバカなりになんていうか リベンジしたかったんじゃないかな」
「まあそのうち出てくるんじゃないかしら〜」
スクアーロの心配を毛ほどもしていない彼らを見ながら、獄寺はぼそりと呟いた。
「……一番まともなヤツだと思ってたんだがな」



 

結果:○山本vsスクアーロ×

 

 

 

 


***
その後水中からサメの顎を持って出て来たスクアーロの顔は晴れ晴れとしていたという。



「………………っ……ほん、と、退屈しない……っ」
「……意外と笑い上戸ですねぇあなた」