<当日の裏側の場合>




その日、学校の下駄箱に真っ黒の封筒が入っていた。
「…………」
無言のままそれを持ち出して、封にしてある刻印を確認して、そのまま鞄に突っ込んだ。
「どうしたの? 獄寺君」
「いえ、なんでもないっす」
その動作は綱吉の目には入っていなかったようで、小首を傾げて問う綱吉に、獄寺はいつものような笑みを浮かべる。
鞄の中に収めた封筒には、ヴァリアーを示す獅子の刻印がしてあった。





「……で、どうしてその場所がここなの」
「知るか」
綱吉に見られないよう、授業中に開いた封筒には、これまた黒い便箋が入っていて、そこに白のインクで場所と時間だけが書いてあった。
曰く、放課後に応接室に集合。

どうしてヴァリアーに呼び出しを喰らうのかとか、その場所が応接室なのかとか、そんなのは本人に聞けばいい事ではあるのだが。
獄寺と同じように封筒を受け取っていたらしい雲雀は、苛々オーラを隠さないままに、それでもソファに座っていた。
草壁達がいないあたり、人払いは済ませているのだろう。
「まー、いいんじゃねーの?」
獄寺の隣で山本がのほほんと笑っている。
綱吉は一週間ぶりの学校を満喫して、今頃は家に帰っているだろう。
二人とも途中まで綱吉と帰って、分かれ道でそのまま学校へUターンだ。

そんな面倒な事をするのも、今から会う人物達について詮索されないためだ。
……面倒な。


「しししっ、全員そろってんじゃーん」
「今夜からだっていうのに、登校するなんて随分のんきだよね」
ふよんっ、と開け放たれたままだった窓枠のところに、ベルフェゴールとマーモンが現れた。
マーモンの幻術で姿を消していたのか、それともこれが幻覚なのか分からないが、とりあえず三人は武器を構える事はしない。
「久しぶりなのな〜」
仏頂面な雲雀と獄寺に代わって、山本が片手をあげて挨拶する。
「……その能天気さは相変わらずだね」
フードから見える口元をすぼめて、マーモンは溜息を吐き、それからすたんと床に降り立ったベルフェゴールの肩に乗った。

「で、何の用だ」
「ん〜……遊びに?」
「……そんな事のために僕らを呼び出したの」
苛々、と雲雀の眉間の皺が更に深まる。
そりゃあ対戦前のギスギスしているはずの互いの人間が、応接室で顔つき合わせて「遊びに」なんて事が発覚したら、混乱するだろう。
主に綱吉とかリボーンとかが。

「まあそれは半分冗談として」
「半分は本気かよ……」
「今日からの対戦について、ちょっとね」
「……なんだ、今度は勝つつもりかって?」
ふん、と鼻を鳴らす獄寺に、マーモンは違うよと首を振る。
「僕らとしてはあの温いボスを、それなりに気に入ってはいたんだよ」
本来のこの頃の自分達は、綱吉を受け入れるつもりはこれっぽっちもなかったわけだけれど、「今」の自分達は違う。
「僕らはあのボスがほしいんだ」
それはヴァリアーの総意だったよとマーモンは重ねる。
そのために、綱吉には勝ってもらわないといけない。
あの時と全く同じように。
そうでないと、僕らのボスは帰ってこない。

沈黙した三人に、でもね、とマーモンは言った。
「綱吉には勝ってもらう。でも僕らだって手は抜かないよ」
「宣戦布告かよ」
「ま、それで負けるんなら俺らのボスじゃねーし?」
ベルフェゴールが歯を見せて笑った。

ヴァリアーの欲しがっている綱吉は、自分達を下した上で甘っちょろい綱吉であって、負けるような彼ではないのだから。
「あと、僕も今回は負けないから」
「ああ……」
「骸か……」
「…………」
三人はちょっと思った。
確かにアレには負けたくない。

「あの南国果実に二度も負けるなんて僕の矜持が許さないよ」
「クフフフ、僕だって負けるつもりはありませんよ」

いきなり聞こえた笑い声に、五人はざっと応接室の入り口に視線をやった。
そこに奴はいた。
……堂々と他校の制服で入ってくるな黒曜生。

「今回は僕は生身での参戦ですからね! 負ける要素なんてありませんよ!!」
「……お前復讐者に見つからないよう生身での出撃禁止だから」
「えええええええ!?!?」
阿呆か、と獄寺が呆れて呟き。
それに如実にショックを受けた様子の骸に、マーモンが鼻で笑った。








***
正直書きたかったのは後半の骸とマーモンであって、あとは取ってつけただけです。