<暗殺集団の場合>




黙りこくったまま喋らないボスを、全員がいぶかしんでいた。
ただ一人銀髪の男だけが哀れさを湛える瞳を持って口を開いた。
「……なぁ、ボス」
「……なんだカス」
「諦めろ」
何を諦めろと言うのか。
綱吉の隣に立っていたリボーンは分からなかった。
そして彼は、その後ろにいる獄寺や山本が労わりと同情を湛えて成り行きを見守っている事に気付いていなかった。

「知ってやがったなカス鮫が」
「言ったところで信じねえだろうがぁ……」
疲れた声音でスクアーロは答える。

何か向こうで手違いでもあったのか。
どうにも今回決めたこちらの守護者連中といい、何かを隠しているらしい事は薄々前から感じていた。
獄寺と山本だけでなく、あの雲雀や――今はマフィアが近くにいるため姿を現さない骸に至ってまで、共通した何かを隠している。
だが、自分の読心術をもってしてもそれは読めなかった。
そんな技術をどこで手に入れたのか……それが一体何なのか。

ただ自分の生徒に危害を加えるような連中ではないと、この点においては自身の勘が訴えていたため、あえて口出しはしていないが。



頭上ではまだ小声での言い合いが続いていた。
「ちょっと、ボスどうしたのさ」
焦れたようにナイフをかちゃかちゃと鳴らすベルフェゴールに、スクアーロが何事か耳打ちする。
促されるようにベルフェゴールが、ルッスーリアが、レヴィが、リボーンと同じくらいの赤ん坊が、綱吉を見た。
見て、固まった。

「あー……やっちまったなぁ」
「そうだな……」
山本と獄寺が何事か呟いていたが、一体何の事なのかリボーンには理解できなかった。





「……なんかお取り込み中悪いんだけど、いいかねぇ」
空気に耐えかねたのか、今まで潜んでいた家光が、戸惑ったように声をかけた。
おそらくは格好よく登場するつもりだったのだろうが、向こうの反応が予定外だったので焦れたのだろう。

さすがにこれがXANXUSも気分を害すだろうと見ていれば、じろりと家光を見たものの、XANXUSはただだるそうに頷いただけだった。
「……ああ」
その反応に、家光も、控えていた部下の者達も拍子抜けしたようだった。

九代目の勅命を読み上げている間も、チェルベッロ機関が割り込んできた時も、XANXUSはその苛烈と噂されるなりを完全に顰め、ただ立っていた。
その部下達も同様に。


女達が去ってから、XANXUSの口から漏れたのは、溜息だった。
――溜息。
あの、悪名高い暗殺集団のボスが。

「帰るぞ」
「……だよなぁ」
「そうね、帰って今日は寝ましょうか」
「えー、オレは遊んでいきたいかもー」
「今日は止めといたら……」
だらだらというのがまさしく正しい。
完全にぐだぐだだ。

登場の時のあの覇気はどこにいったのかと思うくらいのやる気のなさで、XANXUS達は踵を返す。

その後姿に声をかけたのは家光だった。

「おい! リング争奪戦は――」
「……好きにしやがれ」

こうなりゃ自棄だ、という声が聞こえた気がした。

――仕組まれていたはずのリング争奪戦に、嫌にやる気がない。
どういう事だ?


事態の把握ができていない家光やリボーンの影で、小さく綱吉の守護者達は肩を竦めていた。

 

 

 


***
(勝手に事態は進んでいく。)