<二代目剣帝の場合>





「なんだぁ? 外野がゾロゾロとぉ。邪魔するカスはたたっ斬るぞ……ぉ?」
ビルの上から現れた、銀髪を風に靡かせて凶悪な笑みを浮かべていたスクアーロは、綱吉の姿を目にした瞬間にぴきりと固まった。
まるでなにかを思い出すような。
記憶の底から湧き出る情報に困惑しているような、そんな表情を浮かべた。

少し離れた場所にいた獄寺と山本は、綱吉とバジルに向かって走りながら、スクアーロの表情が驚愕から悲愴感漂うものに変わっていく様を見て言葉を交わす。
「スクアーロもなのなー」
「また悲惨な時に……」

この時の事は二人もよく覚えている。
助けに入ったつもりがスクアーロ一人にこてんぱんにのされて、結局綱吉に助けられた挙句、リボーンに足手まといの宣告を受けた時だ。
あの時の悔しさは忘れていない。

リボーンやコロネロ、京子達は違うようだったから、ヴァリアーはどうなるのだろうと思っていたが、スクアーロの様子からしてヴァリアーも守護者と同じ目に遭うらしい。
……てことは、いつかXANXUS達もかと思ってちょっとだけげんなりした。


そして巻き戻ったスクアーロもまた、この時の事は覚えているだろう。
彼はこの後綱吉からリングを奪ってイタリアに帰る……それが偽のリングだという事を知らずに。
しかし、巻き戻ってしまった彼はリングが偽物だという事を知っている。
そしてこの後、本物のリングを巡っての争奪戦が行われる事も。
もちろん争奪戦の結果が確定しているわけではないが、こちらとしても今回も負けるつもりは一切ないわけで、スクアーロはXANXUSがリングに拒絶された瞬間も見てしまっている。



バジルと綱吉の前で戸惑っているスクアーロに向けて、とりあえず獄寺が景気よくダイナマイトをばらないた。
反射的にスクアーロが手に固定した剣でそれらを一閃する。

その爆風に紛れて、山本が手にした刀でスクアーロに切りかかった。
ガキン、と刃同士が擦れあう音。
本当ならまだ剣の扱いなどちっとも知らなくて、スクアーロの太刀を受け止める事などできなかった。
けれど今は違う。
スクアーロもそれに気付いたようで、銀色の目を細めて薄く笑みを浮かべている山本をにらみつけた。

「……テメェ」
「ははっ、スクアーロも巻き戻っちまったのなー」
「一体どういうことだぁ゛」
ぎりぎりと至近距離で鬩ぎあいながら、スクアーロは吐き捨てるように、山本は笑いを噛み殺しながら言葉を交わす。
「よくわかんねー」
「わかんねーで済むかぁぁぁぁぁぁ!!」
絶叫したところに獄寺からのダイナマイトが届く。
綱吉達に会話が届かないようにするための配慮なのかは知らないが、山本もいるのに盛大にぶっ放している。
遠慮の「え」の字も見当たらない。

ダイナマイトを二人して切り捨てながら、山本が尋ねた。
「まあ戻っちまったもんはしょーがねーし。これからどーすんだ?」
「どうしたもこうしたもねぇ」
心底嫌そうにスクアーロは言った。
「どうせボスには殴られんだぁ。だったら……リングはいただいてくぜぇ!」
「どっちにしろ殴られるのか……」
哀れみの視線を向けた山本に、スクアーロは自棄気味に叫んだ。

まあ、偽物を持っていっても殴られるのであれば、それすらも持ち帰れなかった場合も当然殴られるのだろう。
そして条件が「綱吉に会う」ならば、まだイタリアにいるXANXUS達がたとえ巻き戻るとして、日本に来るまではその記憶もない。
なのでスクアーロがなにを言っても無駄である。
 


「次に会えるのが楽しみなのなー」
「……俺は心底嫌だ」

これから一体どうなるのか。
ボスの来日の事を頭の中で予想しながら、スクアーロは重々しく息を吐いた。


 

 


***
(きっともうすぐ。)