<嵐の守護者の場合>
――獄寺隼人が沢田綱吉をその目で「見た」のは転校した初日だった。
もちろん、イタリアにいた頃に渡された写真でその姿は見ていた。
そして転入するより先に、面倒な手続きのために訪れた学校にて、バレーの試合に出ている彼の後ろ姿を垣間見はしていた。
後半になっていきなり活躍し出した不可解さはともかくとして、軟弱な男が――こんな貧相な男が、あの偉大なボンゴレの十代目となるという事に絶望すら感じた。
「イタリアに留学していた転入生の獄寺隼人君だ」
担任が俺を紹介する。
ぐるりと視線を巡らせて沢田綱吉を探すと、彼は最初興味がなさそうにぼんやりとしていた。
それが俄かに何かに気付いたように視線を彷徨わせ――はたと、俺と目線を合わせた。
こちらは睨みつけるように見ていたのだから、むしろよくそこまで視線に気付かなかったものだと思う。
その瞬間。
唐突に、目まぐるしく流れ込んでくる情報の多さに俺は硬直した。
映像として頭に流れ込んでくる大量のものは、今まで頭のどこにしまってあったのかと思うくらいのものだ。
春、夏、秋、冬。
日常と非日常を織り交ぜて、幾つもの戦いと穏やかな日々の記憶は鮮やかに蘇ってから、すとんと胸の内に落ちついた。
幻覚とは思わず、ただ「思い出した」と呆気なく俺はその事実を受け入れられた。
最後の記憶は……まだこの体では経験しているはずのない、十年後の自分。
けれどそれは自分の記憶として信じるべきもので、その記憶の中心には、紛れもなく、今こちらをびくびくと見ている「十代目」がいた。
「――獄寺君?」
呆然としていた俺に、訝しげにかけられた担任の声で我に返る。
まだどこの席につけとも言われていなかったが、場所などは覚えていたから、ずかずかと歩き出す。
歩み寄り、擦れ違う際に恐れ多くもちらりと視線を向ければ、十代目は引き攣った顔をされていた。
……この頃の俺は、ただの不良にしか見えなかったのだと思う。
そういえば「最初の頃の獄寺君は怖かったよね」と冗談交じりに言われた事があったような。
一抹の寂しさを抱えながら記憶にある自分の席に座ると、その隣にいた男の視線に気付いた。
意味ありげな視線を向けてきていたのは――。
「よ」
「……てめぇかよ」
気だるげに返せば、山本の奴は少し面食らった顔をしてからにかりと笑って手を差し出してきた。
***
(こいつもかよ)