<身長と肖像>
それは、ボンゴレが懇意としている画家に描かせた絵が届いた日の事だった。
「一度でいいからボスと守護者の揃っている絵が描いてみたいです!」と言われ、まあ描かれたところで減りもすまいと了承したのだが(実際絵の下書き段階でアラウディが群れるのが嫌だと抜け出したりスペードが臍を曲げたりランポウが疲れたとだだをこねたり色々とそりゃあ色々とあったが)それがようやく届いたのだ。
それなりに出来上がりを楽しみにしていたジョットが、その絵を前に酷く不愉快そうな表情をしているので、ゲールと雨月はそんなにお気に召さなかったのだろうかと首を傾けた。
贔屓目でなく、あの画家の腕は立つ。
まだ知名度は低いが、今後きっと世に名だたる画家になってもおかしくはないほどの技量はあると、そう以前褒めていたのはジョット自身ではなかったか。
「……ゲール、雨月」
「なんだ」
「今後、お前ら俺の隣に立つな」
「……はあ?」
何を馬鹿な事を、と思いつつ、ジョットの後ろに回って件の絵を二人して眺める。
中央にジョットが立ち、その両脇を固めるようにゲールと雨月が立つ。それは普段からの定位置に近い。
その両脇に、更にナックル、アラウディ、スペード、ランポウがいるのだが。
「おお、洋画というものも味があるでござるな!」
「いったいこれのどこが気に入らないんだ」
ぱっと見てもまじまじ見ても、出来はいいと思うのだが。
もともと向こうが自分で申し出た事だから、気合も入っていたのかもしれない。
しかしジョットは絵を机の脇に立てかけて、それからだん、と机を両手で強く叩いた。
「お前達が! 俺の両脇に立つから! 俺が小さく見えるだろう!?」
「…………」
「……ジョット……」
それで不機嫌だったのか。
あまりにも普段から当たり前すぎてすっかり忘れていたが、そういえばジョットはこの中では一番背が低いのだった。
普段囲まれて過ごしている分にはそれほど気にならないが、絵という第三者視点からその事実を突きつけられたらしい。
「じゃあ僕が今度から隣に立ちます!」
「ついでに僕も立ってあげるよ、国では低い方なんだ」
どこからともなく現れた二人が会話に加わる。
どちらも神出鬼没なので、その唐突な登場の仕方には誰も突っ込まない。
それよりも、善意(?)のスペードの言葉はともかく、明らかに善意だけからくるとは思えないアラウディの言葉に、ジョットは吼えた。
「お前達全員柱に頭ぶつけて縮んでしまえ!」
「と、歳を取ったら全員どーせ縮むでござるよ」
「同じだけ縮んだら差は一緒だ!」
雨月の慰めは完全に跳ね返される。
そして、こういう時に地雷を踏むのはいつもスペードなのだ。
「大丈夫です、ジョットは小さくて可愛いですよ!」
「……黙れ」
絶対零度の視線と言葉と共に零地点突破初代エディションが発動して、ピキン、と笑顔のままスペードが凍りついた。
「相変わらず余計な事を言うから……」
「ジョット、落ち着くでござるよー」
「普段あれだけ態度がでかいと、身長なんてそんな気にならないって」
「お前まで火に油を注ぐなアラウディ!」
言い合う三人をぎろりとジョットが睨みつける。
明らかにキている視線に「あ、これちょっとやばいかも」と三人が思う前に、天の助けが入った。
「……何してるんだお前は」
今まで傍観者に徹していたセコーンドがとうとう見るに見かねてか、口を挟んだ。
この絵を描く時に「初代とその守護者」というコンセプトのせいでセコーンドは絵には入らなかったので、我関せずを決め込んでいたのだが。
ジョットは怒りの炎を少し治め、それでもなお声を荒げて机を叩く。
「お前なんぞに俺の気持ちがわかるか!」
「……いいから、とりあえずスペードを溶かしてやれ」
「ヤダ」
即答して頬をふくらませるジョットに、セコーンドは溜息を吐いて、言った。
「素直ないい子は背が伸びるぞ」
瞬間、スペードの氷が溶けていた。
ぽかんとしているスペードに手を差し伸べ、にっこりとジョットが笑う。
「スペード、怪我はないか?」
「は、はい、大丈夫です!」
凍らせたのはあんただ、と全員の心の中でツッコミが入ったが、当の凍らされた本人は、ジョットに笑顔で話しかけられるという滅多にない現象に頬を赤らめているのでまあいいのだろうか。
「……三十過ぎて背が伸びると思ってるのかなあの子は」
「言動はまるっと子供のままだからな……望みは捨ててないんじゃないか……」
「ゲール、アラウ。お前らの仕事を砂漠緑化運動に変えてもいいんだぞ?」
「知っているか。怒ると人間は細胞が死んで身長が伸びなくなるらしいぞ」
「お、怒ってなんかいないぞ!!」
セコーンドの言葉にころっとジョットの態度が軟化する。
「…………」
「……単純」
明らかに眉唾ものだと分かる情報をどうして鵜呑みにするのか。ご自慢の超直感はどうしたのか。
色々言いたい事はあったが、とりあえず信じているジョットが面白いので当分これで面白がろうと思う守護者だった。
そして最初から最後まで話に加われずに部屋の隅でぴるぴると震えていたランポウと、話が始まるやチーズと牛乳を買いに出ていったナックルは、ある意味一番正しいのかもしれなかった。
「……それでその時代は立絵姿がないんですねえ」
一通りの話を聞いて綱吉はなるほどと頷いた。
もともと初代の時代のものはほとんど残っていないのだが、今の話に出てきた守護者一同と一緒に描かれたという絵も、すでにボンゴレの倉庫にはない。
「あれなら五代目かそこらの時になくなっているからな」
「あ、プリーモがあれからすぐに破ったとかじゃないんだ」
「……さすがにそこまではしない」
人目につかないように厳重に厳重に封印はしたが。
そのせいで、倉庫が火事になった時に運び出される事もなく燃えてしまったわけだが。
結果的にあの画家は若くして死んでしまい、その名が世にでる事もなかったために、その作品は残されていない。その数少ない一品を失ったのは申し訳ないと思う部分もあるのだが、彼が書いたプリーモ単品の肖像画は今も飾られているからいいとしよう。
「で、お前はその話を聞くためにわざわざ俺を呼び出したのか?」
普段は出てくるなとあれだけ言うくせに、今回何度も人を呼ぶからこうして出てきたのだ。
「……いや、実は」
逆に問われて、綱吉は滔々と初代を呼び出した理由を話し出した。
普段毛嫌いしている相手をわざわざ呼び出す理由とは。
「……守護者との集合写真を撮る、と」
「普通に立つとクローム以外全員俺より背が高いから……初代なら俺の気持ちわかってくれるかなって……」
「……なるほど。わかりたくもないがその気持ちは痛いほどわかる」
ふ、と笑みを浮かべて、ジョットは綱吉の肩に手を置く。
「神に祈れば来世ではきっと伸びる」
「来世!?」
「と、俺も当時ナックルに言われた」
「…………」
まともそうに思えても、やっぱり晴の守護者は晴の守護者だった。
「まあ、それは冗談として。俺も使った一番手っ取り早い解決策がある」
「え、なに!?」
「椅子に座れ」
「……あ」
「座ってしまえば身長差など目につかん。ボスだけ座れば威厳もあるように見えるしな」
「な、なるほど……! ありがとう初代! なんか初めてあんたがタメになる事言った気がする!!」
「俺はいつでもタメになる」
「さっそく椅子を用意してもらおうっと!」
すでに綱吉は用済みといわんばかりに、ジョットの話など聞いちゃいなかった。
***
身長ネタは「Working!!」から。
ジョットとセコーンドとぽぷらと佐藤さんに当てはめたらどこまでいけるだろうか。
<オマケ>
「あ、 俺の方が背が高い!!」
「ええええええええ!!?」
「髪を寝かせてみろ! ほら! 俺の方が高い」
「髪を入れたら俺の方が……って嬉しくねえ……」
「日本の血が混ざっただけはあるな……ありがとう、子孫よ」
「…………orz」
「まあまだ若い、育つかもしれんしな」
「だ、だよな!俺まだ十代だもん!」
「俺の背が止まったのは十六の時だったが(真顔」
「…………」
「俺がそのまま止まれと念じたら 止まる」
「おおおおおおおおおい!?!?」
「当たり前だ、俺より図体のでかい十代目はいらん」
「ちょっと待てよ! 歴代のボス全員あんたより身長でかいだろ!」
「だから十代目くらいはな」
「十一代目に期待しろ!」
「十一代目は……とある未来ではでかかったので期待しないことにした」
「とある未来?」
「ああ、素直で可愛かったが……十一代目襲名が決まったときにはもう……orz」
「……どんな未来を見てきたんだあんた。そんなに俺の子供って背が高いの?」
「高い。あれは許しがたい。だが仕方がない」
「え、じゃあ俺もっと伸びるのかな。奥さんがそんな背が高いわけじゃないよね?」
「……そうだな(お前が嫁だったからな)」