<esporre risoluzione >
冷えた布など要らず、空気に触れさせているだけで目のほてりは静まっていく。
号泣した事を恥ずかしく思う気持ちより、別のことで頭がいっぱいな自分に思わず苦笑しそうになって、ジョットはゆるく首を振った。
「どうした」
しっとりと落とされる声は、気がつかない間に大人の男のものだ。
気遣うようにこちらを見ている目が翳っているのも、年不相応なものを感じさせる。
「冷えるか。スープなら今温めて……」
頬に触れてくる手はまださほど大きくない。
だがすでにジョットの手よりは大きいし、すぐにもっと大きくなるのだろう。
いつか彼も誰かをその手で守ろうとするのだろうか。
誰かをこんな風に、触るのだろうか。
心配そうな声を出して、ジョットの知らぬ誰かを。
一瞬のその思いに、思わず顔をしかめる。
ますます心配そうな顔をした彼を見て、目を細めた。
「決めた」
真っ直ぐに見上げる。いつの間にか大きく成長した彼を、見上げた。
見上げながら頬に触れている手を握る。温かい。
「今日から貴様は、セコーンドだ」
「……二代目?」
「俺に続く者。二番目、二番手、俺の――」
握っている手を握りこんだ。
「目的成就まで――俺のものだ。セコーンド」
静かに告げた新しい名前を受け取ったセコーンドはほころぶような笑みを見せる。
ジョットとは似ない青い眼が細められて、一層輝きが増した。
「ああ」
「目的まで、突っ走るぞ。我々は表裏一体だ」
「ああ」
嬉しそうに頷いたセコーンドの手を握り締めたまま首を動かし、彼の手の平に軽く口付ける。
「……っ?」
「貴様は俺に忠誠を誓う。俺も貴様に忠誠を誓う。これから先は茨の道と心得よセコーンド……それでも俺についてくるか?」
静かな問いかけの中で、声が震えていた事に気がついた。
気がついたのが自分だけであったようにと祈る。
震える声での問いかけに、セコーンドは頷いた。
「ああ、ついていく」、
そう言って、床に膝をつきジョットを見上げる。
「兄貴に忠誠を誓う」
見上げてくる両眼に自分だけが映っている事に、これほど高揚するとは思わなかった。
ジョットは、最後の一歩を踏み出す。
ここを越えたら、戻れないだろう。
上等だ、戻ろうとも思わない。戻らない。望んでこの道を行こう。
「兄ではなく、ジョットに誓え。俺と言う個人に、弟としてではなく――次席として、俺に連なる者として」
セコーンドの顔が引き締まり、ジョットは鷹揚にそれを見下ろし。
そして最後の一言を放った。
「これより、貴様と俺は兄弟ではない。それ以上のつながりだ。わかるか?」
「……忠誠を誓おう。貴方に、ジョットに、セコーンド、貴方に連なる者として」
誓いの言葉を囁いて、セコーンドはジョットの片手を取る。
むき出しの手を両手で厳かに受け取ってから、ゆっくりと手の甲に口付けた。
「……っ」
背筋を駆けていくその感覚は――歓喜、と言おうか。
もしかしたら他の感情も混ざっているかもしれなかったが、もうそんな事はどうでもいい。
「……俺も、誓おう。貴様と最期までともにあろう。俺のセコーンド」
顔を上げたセコーンドは小さく笑う。それに答えてジョットも微笑んだ。
「くすぐったいな」
零された観想は彼の正直なものなのだろう、つい先ほどまでの関係を思えば当たり前だ。
だがジョットは、そうは思っていなかった。
立ち上がったセコーンドを見上げる。
伸ばした指が彼の頬をすべり、首元へと這う。
「あに……ジョット?」
聡いセコーンドはジョットが言った「兄弟ではない」という言葉の意味を一部にしろ正しく汲んでいた。
これまでのように「兄貴」ではなく、名前で呼びかける。
「俺のものだ」
呟いた顔は、泣きそうなのか、笑っているのか、それとも別の感情なのだろうか。
ジョットはわからなかったが、セコーンドはゆっくりと目を閉じた。
「そうだ。だから、好きにしろ」
「……殺すこともできるな」
「それがジョットのためになるのなら」
「……………………」
喉元をなぞりながら、セコーンドの予想以上の答えにジョットは小さく笑った。
素直だからなのだろうか。
他の理由があるのだろうか――それはセコーンドにしかわかるまい。
「そんな事はしない」
言ってから、するりと頬を撫でて手を離す。
背中を向けて、目を閉じた。
セコーンドにこの言葉の意味は分かるまい。
届くことも、ないかもしれない。だからあえて言ってやろう。
そう思って、ジョットは小さく微笑んだ。
「愛しているよ」
それは自虐の笑みではあったが。
***
前回で弟に惚れてしまったジョットでした。(ドーン
セコーンドはまだ??な状態ですがジョットの力になれるのが嬉しいのです。
早く本名を出してください(懇願