<幼馴染と守護者>
「やってられるか!!」
ばさばさと数枚の紙が空を舞い、一瞬遅れて羽ペンまでもが飛び上がる。
「……」
パシリとペンだけ空中でキャッチしたゲールは、冷めた目でジョットを見下ろした。
「何をホザいているんだ、お前は?」
「ゲール! 俺を何日間拘束するつもりだ!」
「仕事が終わるまでだな」
散らばった書類をタンと目の前に置かれて、ジョットは低く呻く。
呻きついでに金の髪が揺れた。
「俺はもう飽きた」
「そうか。俺はまだ頑張れる」
「貴様がやれ!」
ダンッと机を叩いて睨みあげると、いつもの気難しい顔で見下ろされる。
「冗談言うな。きりきり働いてくれ、ボス」
「……ぐぅ」
唇を尖らせて、ジョットはすたんと立ち上がる。
このままダッシュで逃げれば捕まるまい。
「席に着けチビ」
容赦なく頭を押さえつけられ、その直後に耳に届いたいたく屈辱的な言葉にジョットは目を白黒させて振り返った。
シチリア広しと言えど、ジョット相手にこの手の暴言を吐くのは奴だけだ。
「き……貴様この俺になんてこと言うんだ!?」
「チビはチビだろう、Bambina」
「俺は男だ!」
「シチリアでは仕事をできる奴のことを男と言うんだが」
「……ゲール、貴様は年々性格が悪くなってゆくな?」
「お前も年々酷くなっていくな。そこちゃんと目を通せよ、banbina。否定は認めない」
Bambinaとは「おじょうちゃん」だ。せめてBambinoにしてほしいところである。
いかんせん、ジョットは幼少期実際にBambinaと呼ばれていたので否定しがたい。
ええい、これだから幼馴染は。
「やったら自由だな!?」
ペンを走らせながら問うと、なんだか鷹揚にゲールは頷く。
「だがこれは今日の分だ」
「なんだと?」
「昨日お前が弟と遊び呆けていた間にも仕事は溜まったわけだ」
ぎらりとジョットの琥珀の目が輝く。
「あれは遊んでたんじゃない。意見の交換だ」
「殴り会いが意見交換か」
「実に効率的だ。その後で身体で対話しようとしたら逃げられたが」
「……」
さらりとジョットの放った問題発言にさしものゲールもコメントを控える。
ジョットが実弟のセコーンドを(どんな意味かは不明だが)追い掛け回しているのは承知していたが、未だに良い言葉なぞ見つからない。
「よし、終わった」
「昨日の」
「それはこっちだろう? 終わった。では俺は行く。アラウディが来たら知らせろ」
立ち上がったジョットが投げてきた書類は確かに全て終わっていて、ゲールはふうと小さく溜息をついた。
「お疲れ様でした、プリーモ」
「いつもそうしてろよ、俺の嵐」
背中越しにひらひら手を振って、ジョットは颯爽と部屋を出て行った。
***
嵐のキャラがヤバイです。