<Morning Shot>
これはジョークだ。さもなければ盛大なドッキリか大掛かりな引っ掛けだ。
全部同じだということから目をそらして、ゲールは眼前の光景を凝視する。
「……」
やはり何も変わらない。
ゲールに幻術をかけられるような術師はここいらに一人しか思い当たらず、そしてその術師は死んでもこんな幻術なんて使わないだろうから……つまり。
「……」
そうだ、その術師が気付いたら面倒なことになる。
疾風の嵐と謳われていたが、ゲール自身は極力揉め事は回避する方向性だった。特に内部では。
災いの芽は早めに摘んでおくべきだと考えがまとまったが、さてどう切り込むか。
「考えるまでもないな」
そう言うが同時に、ゲールは足をあげベッドの上に転がっている男を蹴り落とした。
「ぐっ……!?」
「よぉ」
「っつ……ゲール? 何事だ」
黒い髪をがしがしと掻きながら起き上がったセコーンドを見下ろす。
「それは俺のセリフだぜ」
「は?」
切れ長の目を見開いたセコーンドを睨みつけ、くいと顎を動かす。
その先にシーツに包まれてすやすやと眠っているのはジョットだった。
僅かに開いたカーテンから差し込む朝日にきらきらと金の髪を輝かせ、本人曰く玉の白肌は――肩まで露出している。
「説明を要求するぞセコーンド。お前とジョットがマッパで同じベッドに寝てた理由をだ」
「…………」
限界まで目を見開いてから、苦虫を噛み潰したような顔をする。そうしていると本当に凶悪面である。
片手を床について立ち上がる時の一連の動きも、しっかりとついた筋肉のおかげで一つの作品のようだ、とはジョットの言だが。
「覚えてないんだが」
ガウンを着なおしながらきっぱりはっきり言い放ったセコーンドの額に、ゲールの足底が寸止めされる。
「思い出せ」
「……昨日はジョットが俺の部屋に来て、仕事をしている俺の横で酒を飲んで……」
眉間に皺を寄せながらセコーンドは記憶をたどる。そうしながらも僅かに開いたカーテンを閉めなおす。
「構え構えと喚きながらベッドの上でひっくり返って、うるさいから適当に俺も飲む相手をして……」
昨晩の記憶をたどっているのか、机を撫でてその上に転がっている瓶を立て直し、それからベッドの上で寝ているジョットを見る。
「そのうち勝手に寝たから、面倒でそのまま脇に転がして俺も寝た」
そこまで言って、セコーンドは明らかに項垂れた。
ので、ゲールも端的に言葉をかけるしかない。
「馬鹿だな」
「……すまん」
セコーンドが寝てから何が起こったのかはもう推理するまでもないだろう。
ジョットは起きていたのか起き出したのか、とにかく起き上がってセコーンドをひん剥き、恐らく自分の服も脱いで。
……それ以上は考えたくない。
「珍しく大人しく飲んでると思ったら……」
頭痛を堪えるように米神に指を当てたセコーンドを見て、ゲールも頭痛がしてきた。
酒を飲んで弟のベッドの上で構えと喚くのが大人しいのか。大した成人男性だ。
「起こしにきてくれたのがお前でよかった」
「まったくだぜ。スペードが来てみろ」
「悪夢だ」
ジョットを崇拝し懐きまくっているD.スペードがこの光景を目撃したら、セコーンドにはあらゆる意味で悪夢が降り注ぐだろう。
なにせ奴は屈指の暗殺者だ。さしものゲールも彼の幻術にはまらない自信はない。
しかしたちが悪いのはセコーンドの実力もで、つまるところ鬼のような攻防で無駄な争いが勃発するところだったのだ。
最悪の事態を回避した安堵もこめて、ゲールはぽんとセコーンドの肩を叩く。
「まあ了解はしたぜ。悪いのはやっぱりジョットか」
「……分かってもらって何よりだ」
諸悪の根源をたたき起こそうと再び足を持ち上げたところで、伸びてきた手に止められる。
「寝かせておいてやってくれ」
「何でだ」
「多分疲れている。普段は傍でこれだけ騒げば起きるからな」
「そういうところが甘いつってんだぜ?」
どっちが兄貴だよ、と相変わらず兄に甘い弟を揶揄すると、仕方がないだろうと苦笑いを返された。
「誰かが少しは甘やかさないと、全部一人で背負うからな」
「甘やかしが必要なドンが要るかよ。お前もそう思ってたと思ったんだが」
「たった二人の兄弟だ。それぐらいは大目に見てやる」
「……時々お前がすごいと思うぜ」
どうしてジョットが帰る場所にこの弟を据えているのか、なんとなく分かる気がした朝だった。
***
その後初代は爽やかに目覚め
「セコーンド、おはようのチューをしろ」
と堂々と請求します。