DQ9の設定を借りたただのザンツナ。
だって展開が美味しかったんだもん。

今更だが主人公をザンザスとかリボーンにしなくてヨカッタ。





ツナ:
元天使。今は輪と羽を失ってしまっている。
人の笑顔を見るのが好きで、悲しんでいるのを見るのは辛いという天使気性。
誰にでもよく好かれる。
天界では当然恋愛とかない。性欲もない、のでその辺は知識が全くない。
食欲や睡眠欲もよくわからないので、たまにムリをしてぶっ倒れる。


ザンザス:
裏世界で有名な暗殺屋。
ルイーズには弱みをちゃっかり握られていて、強制的にツナの連れにされた。
ゴーインニマイウェイ。ルールは俺。世界の理とか知らない。
なのに綱吉の天然スマイルにばっさりやられた可哀相な人。たぶん。
正直ツナが天使の力を取り戻して、天界に帰ってしまうのではないかと心配している。


ディーノ:
どこかの国の王子らしい。ただし本人自称。
キラキラした容姿とオーラを持つが、とんでもないずっこけ王子でもある。
腕試しとか世間を見るためとか称して世をさ迷っていたところ、行き倒れていたのをルイーズに拾われた、そうだ。
腕力・体力はかなり低い魔法使い。
ザンザスと何か関係があるらしいが……?


ユニ:
これまたどこかの国の姫らしい。こちらも本人自称。
ほんわかした雰囲気を持ち、笑顔でくるくるよく動く可愛い娘。
腕力にはあんまり期待できない、が、魔法で後ろからぶっ飛ばすのはなぜか得意。
一行の紅一点。……たぶん。
一人では任務をこなすのが難しいため、ルイーズによくお世話になっていた。











『いっくよ〜う☆』
どこからかそんな声が聞こえた、気がした。
ガタンと彼らが乗り込んでいた箱が動く。

黄金に輝きながら、箱は空高くへと飛び上がる。

「うっわ〜、すごい……」
目を丸くしているユニ。
彼女の横で、窓の外から下界を見下ろしているディーノもはしゃいでいる。
「すっげーな! ザンザス、ちょっとのぞけよ!」

そんな彼の言葉をスルーして、ザンザスはそこに佇んでいたツナに声をかけた。
「おい」
「……動いちゃった」
「…………本当に、天使なのか」
視線を上げたツナは、へにゃりと笑った。
「うん」
「……天界に、戻るのか」
「どうだろ」
ことりと首を傾け、ツナはちらりと窓へ視線をやる。
「輪も羽もない。こんなオレをちゃんと迎え入れてくれるのかな」
「…………」

その様子は寂しげではなかった。
ただ淡々と語ったツナの横顔は、故郷へ帰れる事が待ち遠しそうなわけでもない。
「天使ってのは、輪と羽がねぇとダメなのか」
「う〜ん、わかんない。オレみたいな事例、オレは知らないから」
そう返したツナは、ぐらりと箱が揺れると、あ、と小さく呟いた。

「ついた」


浮かんでいた箱は、どこかに着地していた。
着地という表現はおかしいかもしれない、それははるか天の上なのだから。
「ザンザスたちは……どうしよう、ここにいた方がいいのかな」
「一緒に行く!」
真っ先に声をあげたのはディーノだった。
「ツナの故郷見たい!」
「私もついて行きたいです」
ユニもそう言うので、ツナは微笑んで頷いた。
「うん、じゃあオレの後についてきて。はぐれないでね」
「「はーい」」

嬉しそうな二人にツナはにこにこ笑って、箱の外に出る。
そうしたら彼は……天使に戻ってしまうのだろうか。
そんな不安を胸に抱いたまま、ザンザスも外へと足を踏み下ろす。

「ツナ……まさかウォルロ村の守護天使ツナか!」
そんな肩書きを向けられて、ツナはやはりこくりと頷く。
「おお……よく戻った!」
そう言ってツナに近づいた老人にしか見えない男の頭上には光り輝く輪が、そして背中には白い羽が。
確かに。

確かに、ここは天界だった。
そして確かに、ツナは天使なのだ。


ツナと天使達がなにやら会話を交わす。
ザンザスやユニやディーノについては彼らはなにも言わない。
まさか見えていないのだろうか。
「無視されてるのでしょうか」
ユニがちらちら左右を見ながら囁く。
その声にも誰も反応しない。
「天界だからなー。ツナの目にも見えてなかったらヤだなー」
ディーノがそう言って、ぱっとツナの前に手を翳す。

「やっほー…………あれ?」
ツナは反応しない。
どうやら、本当に天使には見えていないのか。
「俺達が人間だから見えなくなってるのかもしれねぇが……」
見えないものは見えない。
まあここに住むわけではないのだから、問題はないだろう。

「あ、ツナさん行っちゃいます」
ぱたぱたとユニがツナの後を追う。
ディーノとザンザスも慌てて後に続いた。










一方、三人が見えなくなったツナはしょうがないなぁと呟きながら世界樹へ向けて階段を上っていた。
「ザンザス、ディーノさん、ユニ、いるんでしょ?」
問いかけても答えが返ってこない。
聞こえてないだけだと思うのだけど。
「……本当に天使の力、戻るのかなあ」
まだ先は長い階段を見ながら、ツナは溜息を吐く。

輪と羽を失ってしまったツナには天使の力が極端に弱くなっている。
星のオーラが見えない以上、守護天使としての仕事はまず不可能だ。
空も飛べないし、他にも天使がもっているさまざまな力がふるえなくなっている。
人の心だって見えない。
「戻らなかったら……オレ、ずっと人間みたいに暮らすのかな……」
師匠や仲間にももう会えないのだろうか。
せっかく長い見習い期間を終えて守護天使にまでなったのに。

人間の生活は不慣れなものが多すぎて、大変だった。
まず食事、ツナは天使の間はほとんど食事をしなかったので、三食きちんと食べないと倒れるという事を知らなかった。
そして睡眠、夜には寝ないととても次の日動けない。
天使だったらこんな事もなかった。
喉が渇くから水を飲まないといけない。
体は汚れるから適宜洗わないといけない。
人間は、本当に不自由だ。

本当に不自由だけど。

「でも……楽しい、かも」
よいしょ、ともう一段上ってツナは世界樹を見上げる。
「皆優しいし、守護天使の時みたいにやたらと感謝されるわけじゃないけど、オレが頑張れば、皆認めてくれる」
もちろん誤解はあった、他にも嫉妬や損得勘定、早合点、責任の押し付け、人間は綺麗な生き物ではない。
だけど、悪いものでも、愚かなものでもない。

天使の生活、毎日決まった任務をこなし、人間は誰もツナのことに気付かない。
おなかも減らないしのども渇かない、眠りもいらないからずっと人々を守っていける。
影からそっと支え、無条件に崇められる。
人間の生活、毎日が冒険で戦いで、明日の宿のために懸命に野山を走りまわる。
助けられる時は助けられるだけ頑張れば、誰かが感謝してくれる。
もちろん虐められるときもある、裏切られる時もある、けれど。

「オレ……わがままだ」
気付いて、ツナは足を止めた。
「オレ……ウォルロ村の守護天使なのに、あの村の人たちを守らなきゃいけないのに、人間の世界にもいたいって……わがまま言ってる……!」
天使にはわがままもない。
神の、上級天使の教えに従っていくはずなのに。

イザヤール師匠も、オハロ様も、ツナが守護天使として再び任務に戻る事を望んでいるはずだ。
なのに、なんで。

「だめだ……! オレがいなきゃ、ウォルロ村を守る人がいなくなっちゃう!」
自分に言い聞かせて、ツナは先に進もうとする。
進もうとしているのに、足が動かない。
「オレ、天使に戻らなきゃ……だって、オレがいなくなっても、ディーノさんも、ユニも、ザンザスも、こまら、ない、し……」
彼らは新しい仲間を見つければいい、ツナの都合だけで右往左往するような旅はもう終わるべきだ。
けれどウォルロ村の人は困るだろう。
ツナはあそこの守護天使なんだから。
戻らないと。
天使の力を戻してほしいと、世界樹に祈らないと――


覚悟を決めて足を前に出そうとした時、ぎゅうと腕を引っ張られた。
「!?」
振り返ろうとしたのに、反対側の肩を強くつかんで引っ張られる。
「うわっ」
後ろによろけたツナの身体は、誰かに抱きしめられていた。

「…………ザ、ンザス?」
背後の気配と、背中にあたった装備でそう呟く。
天界にこんなごつい装備をしている天使はいない。
体に回された腕がしっかりと見える。
「なんで、見えるの?」
「テメェに触れると見えるみたいだな」
「……そ、なんだ」
ザンザスがしゃべると体に振動が走る。
それがなんだか――よくわからない感情を掻き立てて、ツナはぎゅうと目を閉じた。

せっかく決めたのに。
決めたのに。

「……天使に戻るのか」
「も……どらないと」
「テメェの意見を聞いてるんだ」
「お、オレはだって、守護天使だし」
「テメェはどうしたい」
「でも、オレが戻らないと皆困るし!!」

なんでそんな、ことを言うんだ。
決心が、鈍ってしまう。


「おい」

耳朶に吹き込まれる声が熱い。

「テメェが「しなくちゃいけない」じゃねぇ。テメェが「したい」ことを言え」
「……お、オレは」
唇を噛み締める。
乾いて切れた傷口がつきんと傷んだ。
心も同じに痛んだ。
天使でなくてはいけないのに、天使なら迷う事ではないのに。

「ツナ」
ぎゅうと後ろから抱きしめられる。
ザンザスの強い力で、厚みのある体に引き寄せられる。
名前を囁かれて、涙が出そうになった。
「ツナ……ツナ」
低く小さく、繰り返す。

ザンザスが何を言いたかったのか、思っているのか、ツナにはわからない。
天使である時は容易く読めたはずの人の心は、わからない。
時には嘘をつき、時には裏切る人の心は、わからない。

ザンザスの素性をツナは何も知らない。
ツナの身体を抱きしめている腕や、頭の近くに寄せられている顔に幾つも走る傷の理由を知らない。
年齢も、生まれた場所も、何も知らない。
彼がどうしてこうしているのかも、わからない。

「ザンザス……オレ……」
答えをもう一度考えてから、ツナは閉じていた目を開いた。
「もう少し、皆と一緒に、いたいよ。ザンザスと一緒に、いたい。けれどオレは天使だから、天使がするべきこともしたい」
ツナのその声に、ザンザスの体が震えた、気がした。

「俺は……」
呟いたザンザスの体が震えた。
彼は何度も言葉を吐き出そうとして、そのたびにツナを抱えている体は震える。
「……うん、いいよ、ザンザス」
「俺は、」
「わかったから、だいじょうぶ」
ザンザスの腕をそっと撫でて、ツナは微笑んだ。


「大丈夫、俺は……もう少しだけ、一緒に、いるよ」


ごめんなさい神様。
ごめんなさい師匠。
ごめんなさい皆。




俺は、天使の輪も羽も、まだ、要りません。
あと少しだけ、こうしていたいです。