差し伸べられた手をとる。
きっとこれからも。
守る。
<晴は守る>
一緒に来てくれませんか、と。
バイト先に来た綱吉は言った。
「了平さんの力が、オレには必要で」
「極限に今更だな!」
笑った了平をぽかんとした顔で見ていた綱吉は、くしゃりと顔をゆがめる。
それは泣こうとしていたので、了平はぐしゃぐしゃと綱吉の頭を撫でた。
「極限に情けない顔だぞ沢田!」
「す、すみません・・・オレ、オレ・・・」
拳を握って、綱吉は頭を下げる。
「ごめんなさい」
「オレは最初からそのつもりだ! 極限に問題ない!」
胸を張っていってやると、綱吉はごめんなさい、と呟く。
「なぜ謝る?」
「・・・だって、オレ」
逃げていましたから。
そういって、綱吉は唇を噛む。
「もっと、はやく、こうしなきゃいけなくて」
逃げていた。
彼から了承も拒否も聞きたくなくて逃げていた。
だって、了承されたら京子から兄を奪うことになってしまう。
拒否されたら、彼と共に過ごすことが叶わない。
「京子のことなら心配いらん! あいつももう大学生になるしな、極限に大人だ!」
そういって肩を叩くと、小さく身体を揺らして。
それから了平を見上げて、へにゃと笑った。
「ありがとう、ございます」
「極限に任せろ!」
初めてあった時から、背が伸びた。
肩幅も広くなった、声も少しだけ低くなった。
でも彼は極限に、本当に極限に「沢田綱吉」であり続けた。
だから了平は了承した。
彼はきっと変わらない。
それは極限に予想できたから。
ノックをしかけた手を下ろした。
扉の向こうには妹が寝ているだろう。
結局、話せなかった。
両親にも言わなくて、了平は一人で身支度を整えていた。
親に言えば反対されるだろう。
余計な苦労もかけたくない。
折を見て「世界修行の途中で就職した!」とでも手紙を書けばいい。
・・・というのはもちろん了平の案ではなく、雲雀の案だったが。
ただ、妹には。
喧嘩をしに行くのではないと。
そう伝えたくて。
あと謝りたくて。
彼女を心配させるようなことをすることを、謝りたくて。
コツン、と額を扉に当てる。
「・・・京子、極限安心していろ」
獄寺も山本も雲雀も骸もクロームもリボーンもランボもフゥ太も。
沢田綱吉も。
「極限、守る」
この手で必ず。
守るから。
「お前は・・・お前は、普通に」
”普通に”
それは綱吉がよく使っていた言葉。
彼がことあるごとに、守護者やヴァリアー以外に言っていた言葉。
”お願いだから、君は普通に”
普通に。
平和に。
「平和に、暮してくれ、京子」
マフィアは嫌いではない。
綱吉がいるならなおさらだ。
それでも、だけど、危険なのに変わりはないのだから。
「・・・・・・極限に、すまん」
何も言わず立ち去った兄のことを、優しい妹はしかたがないなあと許してしまうのだろう。
そしてずっと待っているのだろう、兄のことも。
沢田綱吉のことも。
「もし――お前がどうしてもというなら、極限守れるようになってから迎えに来るからな」
その自信がついたら。
極限に守れるようになったら。
「それではな、京子!」
身体を扉から離して、了平はスポーツバッグたった一つを手に、住みなれた家を出て行った。
ありがとう。
呟いた綱吉は手を差し伸べる。
黒のスーツの上下に、オレンジ色のネクタイ。
その右手に輝く指輪。
「これからよろしく、了平さん」
「極限に守るからな、沢田!」
あいたたた、と笑った綱吉の指を、いつもより強めに握りこんだ。
***
了平さんはマトモな思考をしているとたまに思います。