差し伸べられた手をとる。


きっとこれからも。


誓う。


 




<嵐は誓う>


 




むしろその言葉は衝撃だった。
今更、どうして、そう思った。


「十代目・・・何故」
改めて聞かれることではないはずだった。
そういう思いを乗せて問い返すと、そうだね、と柔らかく笑った。
「でも、オレのけじめなんだ」
「十代目?」
うん、とうつむいた綱吉の顔を覗き込もうとして、獄寺は数歩傍に寄る。

「もう一度言うよ、隼人。オレの守護者に、右腕に、なって」
「もちろんです」
もうずっと前から。
であったあの日から、そうだというのに。
どうしてこの人は今更。

その疑問を読み取ったのか、ふわと綱吉は微笑んだ。
でもその表情ははかなくて、泣いてしまいそうな顔だった。

「だって、オレが隼人を、右腕にするんだよ」
「オレはもともとっ」
「右腕だから、オレに一番近いから。オレに何かあったら」

何かあったら自分のために死んでくれ。
そういっているのと同じじゃないかと綱吉は呟いた。
「オレは嫌だよ、隼人が怪我するのは嫌だ」
誰かの血を見るたびに身がすくんだ。
ソレが自分を守るためであったならなおさら。
そして、獄寺がその血を流したのは一度や二度ではない。

「十代目・・・あなたの前で倒れたり、しませんから」
あんな無様な姿はもう見せない。
倒れた自分の隣で泣くあなたをみて決めたんだ。
「必ず、あなたを守って、オレ自身も、守りますから」
捨て身になってもこの人は喜んでくれない。
だから、できるだけ、自分の力の及ぶ範囲で全力に。

「だから、十代目」

泣かないで。










取り出した携帯電話をまた下ろした。
この時間なら絶対に起きているだろうけど、電話だけでいいとは思えなかった。

いらない猶予だとは思ったけれど、何をしなくてはいけないかきっと綱吉はわかっていた。
だからわざわざ時間をおいたのだと。
わざわざわかりきっていることを口にしたのだと。


「・・・クソ」

舌打ちをして、メール新規作成にする。
打っては文字を消し、また打って。
結局全部消去すると、溜息と共に立ち上がって階段の残りを上がる。
ここまで来ても会いたくなかった。
だけど。


扉を叩く。

よく響く音が木霊しきらないうちに、中から開いた。

「あら、隼人」
何の用? とロングヘアを揺らして尋ねた姉を見下ろす。
そういえばいつから、こんなに身長差ができたのだろう。
「・・・姉貴」
「はいりなさいよ、寒いでしょう」
すっと中へ身を引いた姉に言われ、一歩立ち入る。
けれど玄関から上がらず、後ろ手に扉を閉めた。

「隼人?」
「・・・・・・オレ、十代目の右腕になる」
「?」
今更なんだ、といわんばかりの表情をされて、獄寺は言葉を変えた。
「正式に、そうなる。だから、今まで以上にお守りする」
「そう、よかったじゃない」
「・・・」
隼人、と名前を呼ばれて顔を上げる。
綺麗に微笑んだ姉が、頬に指を滑らせた。

「ボンゴレの十代目の右腕。私はあなたを誇りに思うわ」
「・・・姉貴・・・」
「私も殺し屋。この世界の人間。あなたが死ぬ覚悟はできている。そうはならせたくないと、思わなかったことがないとは言わない」
でも、あなたがあの子を本当に大切にしているのをわかっているから。
「隼人が、綱吉を守りたいという思いを、尊重するわ」

こくりと頷いた獄寺に、ビアンキも小さく頷いた。

「・・・ありがとう」
呟いて、獄寺は背中を向けた。










ありがとう。

呟いた綱吉は手を差し伸べる。


黒のスーツの上下に、オレンジ色のネクタイ。
その右手に輝く指輪。


「いこうか、隼人」
「オレの全てをかけあなたを守ることを誓います」

持ち上げた彼の人の手の甲に、ゆっくり唇を落とした。


 




***
獄寺は肉親がマフィアなのであんまり悩んだりはしないかもしれないと思った。