眠いなーと思いながら綱吉は体を起こした。
ふわふわとした寝床は寝心地が良くてとても気に入っている。
……と思っていたのだが、そこはかとなく体の沈み込み具合が違う。
「……?」
伸びをしてからようやく覚醒した頭は、やっと気がついた。

「フッギャァアアアアアアア!?」
「……うるせー……」
低い声で唸って起き上がった男は、傍らに寝ていた綱吉を見上げて。
盛大に顔をしかめてから。

「何だ夢か」
「寝直すな夢じゃねぇええ!!」

枕に頭を落としたXANXUSを咄嗟に殴って覚醒させたのは、非常に正しい判断だったと今でも思っている。





<見知らぬ世界こんにちは>





「と、とにかくなんでお前が俺の部屋にいるんだよ!?」
「あぁ? テメーが俺の部屋にいるんじゃねーのか」
「そんな馬鹿な。俺にお前を絞め殺したいという潜在意識があれば別だが……あったのか俺!」
「じゃあ誰かが俺とテメェをおなじベッドに転がしたってことに……んなわけねぇか」
酷く嫌な顔をしたXANXUSに、綱吉はそうだよなまったくだ!と叫んだ。
「にしてもここ、どこだ?」
「こんな部屋ボンゴレにあったか?」
「いや……部屋の大きさと窓の形は俺の寝室なんだけど……」
置いてあるものはぜんぜん違う。
まずベッドはセミダブルであってこんなクイーンサイズではないし、布団の色も違う。
カーテンの色は綱吉の好きな橙で、これは記憶にある部屋と共通なのだが。

「俺は布団は青色派だ! なんでこんな赤紫を」
「せめてワイン色と言いやがれカスが。ちなみにこれは俺が使ってる寝具と色が同じだが」
「お前本当に見かけどおりだな!」
朝っぱらからうるせぇよと言われ、綱吉はぎゅうと黙り込む。
だがソレは一瞬で、次の瞬間は再び横になったXANXUSを叩き起こしていた。
「寝るな!」
「ボンゴレ内部なら何の問題もねえ」
「大ありだ!!」

怒鳴りながらベッドから降りる。壁にかかっている時計は就任祝いにもらったもの(の一つ)である。
それはそのままなのか。やはりここは綱吉の自室なのだろうか。
「いやでもなんか違和感が……」
ぶつくさと言いながらクローゼット(だとおもう)をあける。
自分が使っているのよりだいぶでかいそこを開けて、

速やかに閉じた。





「何の冗談だ!」
「どうした」
さすがに体を起こしたXANXUSが半目で問うと、綱吉は顔を真っ赤にして。
「見たくねぇもんがあったんだよ!」
とだけ叫ぶと部屋を出て行こうと扉へ向かってダッシュする。
「おい、少し」
落ち着け、とXANXUSが言おうとした瞬間、扉が外からバーンを開けられ、綱吉の顔面にぶち当たる、
「ぐぅえっ!?」
のをなんとか回避した綱吉だったが、扉を開けた人物も目を丸くしていたのでおあいこかもしれない。

扉を開けたのは銀髪を肩の辺りで切りそろえ、切れ長の目をした……
「は、隼人?」
「はい、どうかされましたか十代目?」
黒のスーツに身を包み扉を開けた人物は首を傾げている。
「い、いや……あの……まだ夢かなって……」
「十代目の悲鳴が聞こえた気がしたのですが、気のせいですか」
首を傾けたその人物は、綱吉の知る「獄寺隼人」にとてもよく似ていた。というか同じ顔である。しゃべり方も同じだ。
同じはずなのに、その人物はある一点が(他にもあるのだが)綱吉の知る「獄寺隼人」とは大きく違っていた。

「……大きいね?」
「は、なんですか?」
胸元を凝視して呟いた綱吉は正しく成人男性の反応だ。
だがその視線を彼――彼女は不可解そうに見ている。
「あ、ああ、ええと、ううん! あのね隼人、なんで起きたらXANXUSがいたの?」
「ザンザスは昨日の夜遅くに帰ってきたので。おいザンザス、ちゃんと報告書提出しておけよ!」
綱吉とXANXUSに対する態度の違いもそのまんま獄寺隼人である。
じゃあこの人はなんなのか。

「あー……えーっと、隼人……だよね?」
「はい、十代目?」
「…………ええと、俺、今日予定とか、ある?」
「いえ、今日はオフですよ。朝食はこちらで取られますか? でしたら運ばせますよ」
「あ、う、うん……」
ここで食べるということはXANXUSと食べるという事だ。それは嫌だ。
しかし昔からの右腕が女性になってしまっているというこのアンビリーバボーな現象が、この部屋の外で他にも起こっていると考えると……悪夢だ。
「隼人はいいよ……違和感ないもんね、声も高くなったけどなんかハスキーでカッコイイし……」

今更気付いたが、スーツに包まれた彼女のプロポーションは相当によろしかった。
背はスラリと高く(綱吉の知る彼と比べると低いが)足は長く胸は大きく。
「十代目、お疲れですか?」
俯いた綱吉を心配したのか、彼女が顔を近づけてくる。
「あ、いや、だ、だいじょぶ」
「せっかくですから家継も一緒の方がいいかもしれませんね。通達しておきます」
「え」

イエツグって誰? という綱吉の疑問は言葉になる事はなかった。
そして彼女はさっさと部屋を出ていってしまう。
「あぁああ、隼人ぉ」
項垂れている綱吉に、おいと後ろから声がかかった。
「テメェが悲鳴あげた理由はわかったぜ」
「あぁあああああそれ見せないでぇ!!」
ほい、と目の前に写真たてを見せられて綱吉は絶叫した。

そう、綱吉はクローゼットの中のものに反応したわけではない。
そこにあった鏡に映っていた、背後のテーブルに飾ってあった写真に反応したのだ。

「似合ってるじゃねーか」
「いやぁあああ、なにそれなんであるの!? 今すぐ焼き払わせてお願いぃぃ!!」

XANXUSの手から奪おうとしたものの、ひょいと彼が写真を持った手を頭上に翳したので届かない。
それでも顔を真っ赤にして飛び跳ねる綱吉を見下ろすXANXUSは、そりゃあもう楽しげだった。

「誰の合成だチクショー!!」
「いい腕だな」

XANXUSの持っている白い写真たてには、綱吉とXANXUSが写っていた。
XANXUSは日頃はまずもって着ない白い正装に身を包み、珍しくタイまで白い。
そして綱吉は、

「だいたいなんで俺がお前とそうなってんの!? しかもなんで俺だけ女モノなの!?」
「似合ってるぜ」
「嬉しくねぇよ!」

白の総レースのドレスにブーケ――つまるところウェディングドレス姿で、XANXUSにお姫様抱っこをされていた。
物凄くとてつもなくすっごく、釈然としない。
しかもその写真に写っている自分達が笑顔だったので――余計に抹消したくなった。
「それよこせXANXUS、燃やしてやる」
「しかし嵐の胸はでかかったな」
「ほんとだよな、隼人は男でも女でも美人――話そらすな!」
「てめーは女でも胸が小さそうだがな」
「俺は女じゃねーからどうでもいいだろうが!?」
「さっきのは幻覚かなにかか。てことはクソ植物か……」
「マーモン、だな。そうか、幻覚か……これも!?」
存在してるんだから違うだろうな、と冷静に言われたので綱吉は項垂れた。

合成した奴を殺したいと思った。
こんなに純粋な殺意なんて初めてだ。
「真顔で呟くんじゃねーよ」
「お前に俺の気持ちがわかるか」
「幸せそうだがな」
ぽつりと呟いたXANXUSは、手にしている写真を見る。

綱吉の拒否は理解できたが、写真に写っている綱吉はとても綺麗に笑っていた。
これが合成なのだとしたら相当の手腕だろうが、どうにもXANXUSには合成とは思えなかったので写真をさらによく見る。
以前合成写真との見分け方は幾つか習った。これにはそれがない。
日時を見ると――五年ほど前だ。

「それかえせーっ!」
「うるせぇ」
まだぎゃんぎゃんくる綱吉を引っ張り上げ、ぽいっとベッドの上に放る。
「せめて俺の目に届かないところに置け!」とか「なんで正視できんだそんなもん!」とか叫んでいる綱吉を無視して写真を見入る。
照れたように幸せそうに笑っている綱吉の表情は合成ではないと思うのだが……。

コンコン

ノックが響いた。礼儀正しくつつましく。
「……だ、誰?」
恐る恐る問いかけた綱吉の言葉の後に、カチャリとノブが回る。
「おはようございます」
「お……!?」
姿を現したのは少年か青年かよくわからない。
背だけみれば青年である。肩幅も広いし、胸板も厚い。
しかし下ろされた前髪から覗く顔にはまだ少年らしさが濃く残っている。

だがそんな事は問題ではない。
綱吉はベッドの上で、XANXUSは写真を手に、固まった。

「朝食持ってきたけど。二人とも紅茶でいいか?」
からからと銀色のカートを部屋に押し入れた彼は、きょとんと二人を見る。
彼は白のシャツにジーンズをはいていた。格好と口調は普通の青年だ。
黒い髪はばさばさと顔の前に下りてきているが、その後ろから覗く切れ長の目の色はほんのり赤のかかった黒。
鼻筋の通ったなかなかの美青年である。しかしただのハンサムと言い切るにはやや面構えが強面だった。
凶悪とまでは行かないが、一癖二癖ありそうな面構えである。
そして――まあ端的に言えば、XANXUSに物凄くそっくりだった。

そのXANXUSにそっくりな青年は紅茶を作りながら、首を傾げ。
「二人とも――どうかした?」
「「ちょっと聞きたいんだが」」
二人は声をそろえ、それから綱吉とXANXUSは視線を交換させた。

(これお前の子供?)
(ちげぇ)
(じゃあ親戚?)
(違うな……)
(……お前が質問する? 俺がする?)
(テメーがやれ)


さて、なんと尋ねたものか。







***
パラレル部屋とのコラボ。
なんとなくよく飛ばしています。