<2727−2>





「兄貴、起きろ」
「まだねむい……」
土曜日だから寝ていてもかまわないけれど、さすがに昼近くまで寝ているのはどうだろう。
むにゃむにゃ言いながら夢の世界に戻った兄に、ツナのきつめの印象を与える眦も下がる。
「あーにき」
「ねむいもん」
布団を頭からかぶろうとした綱吉を止めると、さ迷った手がツナの服にかけられる。
「兄貴、それ、俺の」
「ツナもいっしょにねよーよーぅ」
んねーとまったり笑った綱吉の顔に、ツナの顔もほころんだ。
「ちょっとだけだぞ」
「んーちょっとだけーぇ」

甘えるようにくいくいと引っ張る手に敗北して、ツナはベッドの上に体を乗せる。
暖かくてふにふにしている綱吉の手は、ツナの顔をぺたぺた触る。
「えへへへへ」
「なんだ」
「ツナと二人で寝るの、ひさしぶりだよな」
「……兄貴、実は普通におきてたな?」
「うん」
超直感を使うまでもなく気が付いたツナがツッコミを入れると、えへへと綱吉は嬉しそうに笑った。
「だって最近、いろいろあって忙しくて……二人で一緒にいることも、少なくて」
さびしかったんだもん、と唇を尖らせた綱吉の隣にごろんと転がって、ツナは兄の顔に手を伸ばす。

「俺も、さびしかった」
「え、ほんと?」
「兄貴に嘘はつかない」
ぜったい、つかない。
繰り返したツナに、可愛いなあと綱吉は眦を下げる。
「ツナはしっかりしてるから、俺がいなくても平気かなって思ってたよ」
「んなわけないだろ」
「そうだよね」

互いに互いの頬を引き寄せて、同じ手触りの髪に指を絡ませて。
額を寄せ合って、唇が触れそうな距離で見詰め合って、笑う。

「だって」
「俺達」
「「双子だし」」


クスクスクス、と笑いながらそっくりの顔で二人は目を閉じた。















「……………………」
「……………………」
「……………………」
「こうしてればよく似てるのなぁあ゛あ゛……」
「寝てりゃぁよく似てんだがな、寝てりゃぁ」
「こ、この可愛い生き物コンビ……!」

たまたま沢田家にやってきたザンスクディノのトリオを迎えたのは、ベッドの上で互いを抱き合って寝ている綱吉とツナだった。
いつもはおどおどしているような目や眉間に刻まれた皺がないので、この性格が全く似てない双子が実は外見はそっくりだとよく分かる。

「ど、どうしよう! とりあえず写真は山ほど撮った!!」
「よくやった跳ね馬。おいカス鮫、起こせ」
「お、俺がか!?」
「不満か? じゃあ俺はこっちを起こすからテメェはあっちを起こせ」
「よく区別がつくな!? そっち絶対に綱吉だろうがぁあ゛あ゛!!」

片方の少年を指差したXANXUSは、見りゃわかるだろうと呆れた顔で呟く。
「大方、寝てた沢田が腹黒を引っ張り込んだんだろう」
「……あ、なるほど」
二人の性格を思えばその通りである。
XANXUSが綱吉と指したのはまだ寝巻きで、もう一人は普通の服だ。
「ね、寝起きの影は機嫌悪ぃから……」
「四の五の言わず、起こせ」
「…………起きろぉ影ェぇえええ!!!」
自棄気味にではあったが、ボス命令に大人しく従ったスクアーロには、寝起きで気分最悪のツナから鉄拳制裁が下ったのは言うまでもない。



なお、スクアーロが部屋の外でツナに一方的にコンボを決められていた間。
「んはよ……? あれぇ? ざんざすぅ?」
「相変わらずぐうたらしてんな」
呆れたような声が頭の上から振ってきて、上半身を手で支えられる。
綱吉は何も考えずにその腕にすがりつくと、ぐいっとベッドから引っ張り出された。
「やっほー綱吉♪」
「ディッ、ディーノさん! お、お久しぶりです!」
慌てて身体を支えようとしたのだが、がっちりホールドされてて動けない。
「な……なにしてんのXANXUS!」
「やっと目ぇ覚めたか」
「覚醒は早いんだよ!」

下ろせ! と絶叫するが早いか、マッハの勢いでツナが部屋に戻ってくる。
スクアーロは……彼方へ飛んでいった。
「……兄貴を下ろせこのロリコン」
吐き捨てたツナを見ることもなく、XANXUSはにんまりと唇を笑みの形にする。
「俺は寝汚いボスを起こしてやっただけだぜ。なぁ十代目」
「俺は十代目にはならないって!」
「ディーノ、兄貴を連れて避難しとけ。…………オペレーションX」
「ツナ! 部屋でXバーナーはダメ!!」

慌てふためいた綱吉のおかげでその場は収まりはしたものの、結果としてなぜか二人は部屋を飛び出していってしまった。
「ここ、二階なのに……」
「XANXUSとツナは仲よしだなー」
ズれた感想を述べたディーノは、そういえばと手を打つ。
「もうすぐ昼飯だって」
「ええ!? 探しに行かないと!」
ディーノさんごめんなさい、母さんにちょっと待つように言っておいてください!
そう叫んで綱吉はミトンを手にすると、ハイパー丸を飲み込んでひらりと窓から身を躍らせる。


「綱吉もハイパー化すればツナによく似てるなぁ♪」
そんなズれた感想を抱いて、ディーノは階下に行くために部屋の扉を開けようとし……
「う……うわぁあああぁぁぁぁぁぁ……」

階段を転がり落ちて行ったのだった。






***
つな→通常のへたれツナ(ボンゴレ十代目)
ツナ→ハイパーツナ(十代目の影武者)

な双子設定。
当然のようにザンつなで、XANXUSとツナは超絶仲が悪い。







(オマケ)


「まあ、XANXUS君にツー君ったら傷だらけ、どうしたの?」
「お袋は気にするな」
「ああ、男の話だ」
「まあっ! まあまあまあ! 聞いたツッ君! ツー君ってば男の友情を育んだのねえ!」
「うん、すごいね。さすがツナ」
ニコニコ笑顔で言った綱吉だったが、XANXUSとツナは無言になる。

二人とも結構ぼろぼろで、このうちのいくらかの傷はお互いにつけあったものである。
だが半分以上は、綱吉、なのだが。
(リボーンには言うんじゃねぇぞ)
(誰が言うかカス)
(兄貴に助けられるなんて助かったな?)
(ハッ! テメェこそ綱吉に助けられて助かったな)
(なんだとぅ?)
(受け手立ってやるぜガキが)
「ね、二人とも、それでいい?」
唐突に響いた綱吉の言葉に、視線(と直感)で会話していた二人は反射的にこくりと頷く。

「じゃあ一緒に買い物行こ。ディーノさんも」
「マジマジ? やったぁ♪」
「ツナ兄ぃ、ぼくもいっしょがいい!」
ふぅ太も加わって食卓はわいわいがやがやし始めた。