<三人と琥珀>
「………………」
「………………」
「………………」
扉の向こうから声が聞こえて、綱吉は足を止める。
守護者用の談話室だから誰がいても構わない。
目を閉じて扉の向こうに聞き耳を立てる。
俺はボスなんだから構わないはず、うん。
「……だからテメェは変態なんだフサ」
「まったくだなナッポー」
「ちょっと二人とも、僕の理想に異論があるなら輪廻に突き落としますよ!?」
話し声はXANXUS、リボーン、骸だった。
なんてメンバー。
なんて核融合フラグ。
実は中でドンパチとかやってんじゃないだろうな!
しかし綱吉の想像に反して、彼らは普通に話し合っている。
「だいたい年齢なら僕がこの中で一番若いんですから、オヤジとか言われる筋合いはないです!」
「実年齢じゃなくて趣味の問題だ」
「即答する時点でオヤジだ南国植物」
「ちょ、あなた達だって絶対いい勝負ですよ!! じゃ、じゃあ手に入ったらどうしますか!?」
確かに六道骸は最年少だろうが、輪廻を繰り返しているなら関係ないんじゃぁ……と内心突っ込みながら綱吉は息を押し殺した。
もしかしたらヤバい話しかもしれない。
いったい、何が手に入ったらなんだろう。
「オレは閉じ込めて放さねぇ。ねっちょり可愛がってやる」
「クフフ、それに関しては僕も同意見です。貴方ほど洗脳するつもりはありませんが」
「手元に来たならそれが基本だろうが」
「僕しか映さない琥珀を想うとゾクゾクします」
何の話題かサッパリ分からない。
「甘ぇな。俺なら見せびらかす」
「ほう? 手元に置いておきたいとは思わねぇのか」
「それより俺のモンだと主張したほうがいい。ここにこう――つけてテメェらカスの顔も見てみてぇしな」
「クフフフフフフ、想像でそんなに思いあがれるなんてお幸せですねぇ」
「まったくだ、自分に自信がねぇ証拠だな」
「閉じ込めておくっつーテメェらのほうが自信がねぇだろうが。まあ片やガキで片や……カスが」
「子供の姿でも負けねぇ。まあ…………こいつはナッポーだからな」
「ちょっと貴方達!! 僕をナッポー呼ばわりはやめなさい!!」
最近幻術でも好んで使っているくせに。
突っ込みながら綱吉は首を傾げる。
会話の内容がいまひとつ分からない。
見せびらかしたいとか手元に置いておきたいとか……貴重なものなのだろうか。
自信がない? 思いあがれる? 子供でも負けない?
さっぱり分からないが、どうやら三人はおなじものについて話し合っているようだ。
この三人の共通点………………「性格が悪い」くらいしかないような。
あと「攻撃的」?「綱吉の命令無視メンバー」?それなら雲雀恭弥も入るけど。
「それにしてもいいですねぇあの琥珀。ゾクゾクしますよ」
「育てたのはオレだ。オレのものだ」
「はっ、ふざけんなカスが。誰がそう決めた」
「年を経るほどきらめいていく。それが僕だけのものになることを思うと本当に……クフ」
「なんで興奮する時もキモいんだお前は」
「そう言いながら焦っているのでしょう、アルコバレーノ?」
「いつまでもテメェだけのモノじゃねぇってことだ」
琥珀、と綱吉は声に出さず呟いた。
なるほど、どうやら三人は希少価値の高い琥珀について争っているらしい。
それもどうやらリボーンが育てた? ものらしい。
琥珀って育てるものだっけ? と疑問が去来したが知識がなかったので首を振って追いやった。
それで「手元に置いておきたい」と「見せびらかしたい」になっているのか。
確かに骸やリボーンは手元に置いて自分でひっそりと見て喜ぶタイプな気がする。
XANXUSは大勢の前で見せびらかす方が好きそうだ。
そうか……琥珀か。
あの粋人を自称する三人がこんなに食いつく琥珀とは、どんなレア物なのか興味がある。
「だいたい骸、XANXUS、おめぇらは生意気なんだ。一度は壊そうとしたくせに」
「はっ、忘れたな」
「クフフ、そのおかげで輝きを増したと思ってはくれないのですか?」
「オレがそのたびに強くしたんだぞ。あれはオレの物だ」
「んなのテメェが決めることじゃねぇ」
「そうですね、「彼」自身が決めることです」
こいつらヤバイな、と綱吉は心底思った。
琥珀に「彼」とか言っちゃってるよ。
イっちゃってるよ。
「XANXUS、お前は先週もガッツリ連れ出しやがって」
「本人の希望だ。息抜きしたいってヌかしやがったから特攻部隊に投げ込んだだけだ」
「骸、お前も任務放って戻ってきたよな?」
「だって僕の誕生日じゃないですか! だいたいですね、貴方だって外見子供の特権乱用して一緒に風呂に入ろうとしたでしょ!?」
「……んなことしてたのか」
「そうですよ! コロネロがとめてくれたからよかったものの!」
「おいカス、死にてぇなら表でろ」
「使えるモンつかって何が悪い」
「男のプライドはねぇのか」
「使えるモンを全部使うのがオレのプライドだぞ」
ん? と綱吉は首を傾げた。
先週連れ出した?
綱吉も先週はXANXUSに首根っこ引っ掴まれて最前線に投げ込まれたのだけど。
XANXUSまでついでに殴れていいストレス解消だったが。
任務放って帰った?
そういえば骸が「おめでとうって言ってください!!」と涙目で言った時があった気がする。
イライラしてたので殴って沈めたが。
一緒にお風呂に?
コロネロとラル・ミルチが「風呂は一人で入れ!!」と説教をした事ならあったけれど。
そういえばリボーンの姿を見なかったような。
……あれ?
「しかしどのアタックにもまるっきり反応がないので困りましたねぇ」
「テメェがキモすぎて嫌われるだけだろうが」
「お前はただの体のいいサンドバッグだ」
「貴方こそ「先生」として完全にアウトオブ眼中でしょうね」
「「………………」」
沈黙が落ちた部屋の扉を開けるのが怖くて、綱吉はすすすと後ずさりたくなる。
超直感、遅い。
これって、もしかして、「琥珀」って、宝石のアレじゃなくて。
「ったく、ツナは優柔不断でやさしいからな。オレに決めたって言えねぇんだ可哀相に」
「可哀相なのはテメェの頭だアルコバレーノ」
「そうですよ、綱吉君はいつかきっと僕の愛にこたえてくれるはず!」
「その前にフサ切れパイナップル」
「ちょ、ガタイでかくてゴツイだけがとりえの、見かけは三十代心は中学生に言われたくないですね!!」
「ついこの間までツナに怯えられていたクセにな」
「今はんなことねぇがな。むしろアイツはテメェらの方を怖がってるぜ?」
「そ、そんなわけないです!! このドSアルコバレーノはともかく!」
「水牢に逆戻りしてぇのか植物」
「ちょ、銃構えないでください!!」
「テメェこそその三叉向けんじゃネェ!!」
ギャアギャアうるさくなってきたので、綱吉はす、す、すすす……と後ろすり足に歩いてその場を立ち去る。
だんだん早く、終いには後ろ向きから前向きになって全力ダッシュ。
着いた先は慣れ親しんだ執務室で、バタン! と扉を閉めてそこに飛び込んだ。
「十代目、どうされました?」
きょとんとした顔でこっちを見ている獄寺に、半泣きになりながら聞いた事をそのまま伝えた。
しばらくヴァリアー隊長も黒衣の家庭教師も南国術師も綱吉の視界には入らなかったらしい。
***
満足した。
これ以上かくとどうしてもザンツナ魂が出るので。