<もふもふ>





「ベッスタァvv」
匣から出された途端にたてがみに突っ込まれて、反射的に噛み付きそうになるのをなんとか堪えた。
匣動物にもある程度備わっている動物としての本能をなんとかねじ伏せられたのは、これが初めてではないからだ。

「もふもふーあったかーいやされるー」
ぐりぐりと首に抱きついて幸せそうにしているのはツナヨシだ。
ちっさくてその気になれば簡単に引き剥がせそうだが、こんなのでも主の上司らしいので、無体はしない。
主からも好きにさせておけと以前命令が下っているので、好きなようにさせている。
多少鬱陶しいが。


足を折って座ると、ツナヨシが今度は頭を抱えるように手の位置を変えた。
気持ちいいなあと頭の上に顎を乗せ、両手が耳の後ろと顎の下を軽く引っかくように動く。
猫科は総じてその仕草に弱い。しかも度重なる経験で、ツナヨシは非常に上手かった。
思わずぐるると喉を鳴らすと、頭上でほんわかと笑う気配がする。

「ベスターも気持ちいー? 俺もきもちいー」
「……おい、カス」
「なんだよXANXUS」
「…………」
ちっ、と主が舌打ちをする。
さすがに自分が出した匣動物にあからさまに嫉妬するのは、我が主としてもどうかと思う。

ツナヨシは冬になってから度々主の部屋を訪れ、その度に俺を呼び出す事を所望するようだ。
戦闘でもないのに呼び出されるのはいささか不本意ではあるが、主の意向なので異は唱えない。
……唱えないが、毎回不機嫌そうな主を見ると、ならば呼び出さなければいいのにと考えることもある。
呼び出さないとツナヨシに拗ねられるから呼び出さないわけにはいかないらしいが。

「てめー、自分の匣動物がいるだろうが」
「ナッツも抱きかかえてるとあったかいけどさぁ……ベスターみたいに全身あっためてはもらえないじゃん?」
「……寒いなら暖房を強めればいいだろうが」
「そういうあったかさじゃないの! このもふっとした感触がいいんじゃんか!」
XANXUSもやってみればわかるんだ、と力説するツナヨシに、主はどこか嫌そうな表情をされる。
オレとしても、さすがに主がオレをもふもふするのは遠慮していただきたい。

「あ、そうだ」
よいしょ、とツナヨシがオレの頭から手を離し、腰につけていた匣に指輪を嵌めこんだ。
出てきたのはオレと同じ大空ライオンで、しかしずっとチビなナッツだった。
外に出されたばかりのナッツはオレを見て少々怯んだが、すぐにツナヨシに抱きかかえられた。
「えへへへー」
オレの脇に腰を下ろして体を凭れさせ、ナッツを両手に抱えたツナヨシは、至極ご満悦だ。
「…………」
ああ、また主が舌打ちをしている。
「XANXUSも羨ましいなら……」
「全く」
切り捨てて仕事に戻る主に、ちぇ、と唇と尖らせて、ツナヨシはナッツを抱えなおす。
「……XANXUSが隣にいてくれればもっとあったかいのになー」
ぽつりと吐き出された言葉は主には届かなくとも、オレやナッツにはしっかり聞こえてしまう。
そんなツナヨシの言葉だって、もう何度聞くかわからない。




寒い日にこうしてやって来るのはオレに会うためという口実の下に主に会いにきているツナヨシと、オレを出して機嫌を取りながら結局自分の機嫌を降下させた挙句ツナヨシの本意にも気付けていない主と。
どちらもどちらだと、ナッツとオレは呆れた視線を交し合って、ぐる、と一鳴きした。




 

 


***
ベスターがいい子になってしまいましたが、これくらい大人の方がいいかなって思いました。
……匣動物に呆れられる主ってどうなの。