<その一言が取り返しのつかない惨状を招く>
べったりと机の上に張り付いている綱吉の横で、XANXUSが無言で書類を片づけていく。
たまに顔を動かしてなにやら呟いているが、お気に入りのビーズクッションに頭を乗せている綱吉は指一本動かす気はないらしい。
そんなに疲れているのならばソファーに寝転べばいいのにと部屋に入って来た雲雀は思ったが、何故だかいつも執務室においてあるソファーは陰も形もなかった。
それにしてもあのXANXUSが綱吉の部屋に居るのは珍しい。
更に言えば、文句言わず書類を片づけているというのは、どういうことか。
そして大体綱吉にまとわり付いている獄寺がいないのもどうしたことか。
「……ねえ、聞いてる?」
不気味な二人を見ながら雲雀は報告を中断する。
「はーい。ご苦労様です、ヒバリさん」
カラカラに枯れた声でそう言って綱吉は上半身を机から離す。
「沢田綱吉。いくら君がボスだろうがその態度はどうかと思うけど」
「俺のせいじゃないんで」
しれっと答えた綱吉になんだか横のXANXUSが苦い顔をする。
「悪かった」
「本気でそう思ってるのかお前は?」
棘のある綱吉の言葉に、XANXUSは片眉を上げる。
「思ってるからここにいてやってるんだろうが」
「はぁ? いてやってるぅ? そういうトコが反省してないんだろ!」
「んなっ……テメェこそ昨日の自分思い出してみやがれ!」
「よぉーく覚えてるもんな! 俺はせめて寝室に連れてけつったよなぁ!?」
「はぁ? 何適当なコトぬかしてやがんだ! 今すぐつったのはそっちだろうが!」
「あーあーあーあーあーあ、おぼえてませーん、そんな事実ありませーん」
両耳をわざとらしくふさいで、綱吉はそっぽを向く。
「都合の悪いときだけ知らねぇフリすんじゃねぇ!! 机じゃなくてソファーがいいつったのもお前だ!」
「だから! 俺はそもそもこの部屋じゃなくて寝室がいいつったの! ソファーに運んだのはお前! それであの惨状!!」
「だから新しいの買ってやるつっただろうが!」
「あのソファー気に入ってたんだよ! そうやってなんでもほいほいと金で解決するんじゃねぇバカ御曹司!」
「どっちがバカだ! そっちから突っ込んでほしがっただろうが!」
「幻聴と幻影と記憶喪失かよ! 痛いってわかってるのに突っ込まれたがるアホがいるか!」
「昨日はそのアホがいただろうが! ここに!」
「大体なんで俺が突っ込まれる側なんだよ! たまにはお前がなってみろ!!」
「はぁ? テメェが俺にぃ? ぶあっはっは!」
「わーらーうーなーっ!! いつかお前を受け手にしてヒィヒィ言わせてやるぅうう!!」
寒々しくなるほど分かりやすい二名の喧嘩に、何がどうなってこの状況なのか合点がいった雲雀はああと呟いて目を細める。
「犬も食わずのなんとやら、だね」
「ヒバリさんまでそういうこと言う!?」
悲鳴に近い声を上げた綱吉に、そりゃ言うだろと雲雀は珍しく溜息を吐いた。
綱吉とXANXUSが愛人関係(他になんとも言いようがない)にあるのは守護者ではよく知られた事実でしかなかったし、二人のきわどい(というか今日はアウト)の口げんかを聞くのもはじめてではない。
「隼人もそう言ってでてったのに……」
「誰でも言うと思うけど」
大体内容が酷すぎる、と雲雀は珍しく言葉を続ける。
「ホモの痴話喧嘩を仕事に撒き散らさないでくれる? 綱吉、君が受け手になるのは色々な要素で決定してるんだからぎゃいぎゃい文句言わない」
「…………」
む、とした気配にはなったが何も言い返さない綱吉に、これで静かになると安心する。
報告の続きをしようとして書類を捲った瞬間、ガチャリと扉が開いた。
「………………さいあく」
「それは僕のセリフですね、雲雀恭弥」
カツカツと歩いて雲雀の隣に並んだ骸も、手に書類を持っている。
同時に報告か。最悪のタイミングだ。
「先に僕が終わらせてもらうよ」
骸の答えなんざ聞かんとばかりに、報告を始めようとした雲雀だったが、彼の言葉にかぶせるように綱吉の声が響く。
「骸とヒバリさんなら、やっぱりヒバリさんが受けだよね」
「「……は?」」
思わず骸と雲雀の声がハモる。
「俺……仲間がほしいんですよねぇ」
頭をビーズクッションの上に乗せたまま、にこりと綱吉は微笑む。
「な、なかま……って」
引きつった顔で骸が突っ込みを入れると、笑みはますます深くなる。
「大変なんですよね、受け手って。腹ぁ痛いわ尻も痛いわ、喉も枯れるし」
上半身を起こしていない綱吉は、本来とても小さいはずだ。
なのになんだろう、このプレッシャーは。
「ソレが語り合える仲間がほしいな、っていう俺のささやかな願いです。というわけでヒバリさん、骸とデキてください」
「な……なんでそうなるの!?」
目をむいた雲雀に、いいじゃないですかと綱吉は相変わらずの笑顔で答える。
……ああ、昔の草食動物が懐かしい。
うっかり回想に浸りそうになって、雲雀は己を奮い立たせる。
「大体、なんで僕が受け手なのさ!」
「……突っ込みどころがまたズれてるぞ……」
XANXUSの呟きは聞こえないことにした。
だんだんずらしていこうそうしよう。
「骸が組み敷かれてたって何も面白くないですから」
「…………」
しれっと答えた綱吉に雲雀は絶句する。
雲雀ならば楽しいのか!? そういう問題か!? 大体楽しいってなにがだ!
クフフ、と隣で笑い声がするのが雲雀の苛立ちに拍車をかける。
「ツンデレは大変ですねえ」
他人事のようにしていた骸にも、綱吉は均等に爆弾を落としてくれた。
「まあヒバリさんを組み敷く勇気のあるのは、お前だけという意味でもある」
「な ん で ぼ く !?」
「お前しかいないからだ。六道骸、君に決めた☆」
「ポ○モンですか僕は!」
「髪形がナッ○ー」
「それだとナッポーみたいですよ!」
「大丈夫だ、わかる人はわかるし、わからない人はggr」
テンポはいいがそれだけの、意味のない会話を交わす二人から逃げ出そうと、雲雀はそうっと後ずさる。
「ひーばりさん♪」
爽やかな声で呼び止められ、雲雀は無言を返す。
「お仕事です」
「……なに」
XANXUSの積み上げた書類タワーから一枚を器用に抜き取って、綱吉はバンッとそれを机の上に置いた。
「骸と、ヒバリさんで、この仕事してきてください」
ああ、ホテルはもちろん押さえておきますからね? ダブルベッドで。
涼やかな笑顔で言い切った綱吉に、守護者二名は何にも言えなかった。
***
綱吉リターンマッチ(違
人に言われると腹立つことってあるよねby綱吉